シャーレの居候は動かない   作:宇沢心経百面曼荼羅

11 / 14
昨日は体調が非常に悪く、病院に行った後一日中眠っていた為、登校する事が出来ませんでした。
大変申し訳ございませんでした。


蒲公英の花言葉は

 

人気というものは、いつどこで膨れ上がっているか分からないものだ。

それはまさに、遅効性の毒のように私を蝕んでいた。

 

「見て、黒百合の君よ!」

 

「まぁ素敵……私も救われてみたいわ!」

 

鳴り止まぬ黄色い声援。もはやどこへ行くにも必ず黒百合の意匠が入った服やアクセサリーなどを身につけている生徒に出くわす。

中には黒百合をあげた覚えのない子までいるものだから、収拾は付かないものとして見るのが正しい。

 

「"………それで、シャーレに逃げ帰ってきたんだ"」

 

「元は私が悪いとはいえ、先生が指定された罰です。いわば先生のせいで私はロクに外を出歩けないわけです」

 

「"まさかここまでになるとは………"」

 

恐らくは正義実現委員会から漏れたであろう、「鬼灯ユリは【死神】である」という情報は、SNSや口伝であっという間にキヴォトス中に広まった。

こうなればもう、外に私の居場所はない。

 

昼間に出歩けず、夜中に日課を済ませて朝帰りという不健康な生活を続けている。それに、日中は日中で先生の世話がある。

放っておくとシャーレはすぐにゴミ屋敷になりかねないので、ほぼ毎日掃除をしているのだ。

 

「"ユリ、少しは休んだら?"」

 

「先生が散らかさないでいてくれたらもっと楽なんですけど」

 

シャーレは現状、私のほぼ唯一の居住空間と言って良い。最悪の場合は地下街の皆が匿ってくれるが、気のいい皆に迷惑をかける訳にもいかない。

つまり、私は自宅を掃除しているのと何ら変わりはない。

 

「"ははは……ごめん、つい"」

 

「良いですから、先生は業務に集中なさってください。先日ゲーム開発部の一件が終結なさったんでしょう?」

 

「"そうだね。アビドスの時みたいな長期赴任は暫くないから、ユリと一緒にいれる時間が増えて嬉しいよ"」

 

「はいはい、ありがとうございます。いいからやる事をやってくださいね………ホントそういうとこ……

 

先生はいつか絶対、泣きじゃくる女の子に刺されるか撃たれるかして酷い目を見る。平然と口説くような言葉を言うあたり、手慣れている。

私が先生を異性として好きになることはまぁ無いが、それでも言われればドキッとする。

 

少女漫画特有の、胸キュンという奴ではなく単なる驚愕と困惑だ。仕事や女遊び以外、私がいなければ何も出来ないようなダメ人間なんて真っ平ごめんだ。

まったく、どうしてこんなダメ大人にダブルオーちゃんはゾッコンなのか理解しかねる。

 

「"? どうしたの、私をじっと見て"」

 

「別に………」

 

ここ最近、私の周りの子達がいつの間にか先生の毒牙に掛かっている気がする。ハスミ先輩やツルギ先輩、ミドリちゃんやハルナも出会う度に先生の話をやけに聞きたがった。

この間だって、ダブルオーちゃんと一緒に路地裏でコーラを飲みながらお喋りをした時に────

 

 

「………ぷはぁーっ!それでよ、先生の話なんだけどよ」

 

「先生のこと、やけに聞きたがるね。どうしたのさ、好きになっちゃった?」

 

「ばっ!なっ!お、オマエ!そんなんじゃねぇよ……ただ、先生のコトを見てるとよ、胸が苦しくなって、顔が熱くなるんだ。これって何かのビョーキか?」

 

「それって恋じゃない?」

 

「………だぁーっ!わかんねぇ!なぁジャスティス、先生は不思議な術でも使うのか?」

 

「これは……致命的だな」

 

あの堅物で恋や愛なんて物とは全く関わりのないダブルオーちゃんですらこの始末だ。先生と直接関わった生徒で、先生にお熱ではない生徒なんて私以外いないのではないだろうか。

 

「"ユリ、ユリさん?そんなに見つめられると仕事にならないというか……照れるというか……"」

 

「──ああ、失礼しました。先生の額に大きめの虫が止まっていたもので。つい観察してしまいました」

 

「"えっ!?ちょっ、取って!"」

 

「ご自分でどうぞ、女たらし」

 

先生のどこがそんなに良いのか、サッパリ理解できないので調査することにした。謎を謎のままにしておくなど、私としては気持ち悪い。

まずはSNSで先生についてアンケートだ。

 

項目は素直に、「先生のどこが好きですか?」というもの。当然匿名化しているため、答えやすくなっている。

もはや私の自室と化したシャーレの仮眠室でユウカさんから送られて新調したパソコンをいじりながら回答を待つ。

 

「お、来た。何々……優しいところ、カッコいいところ……ありきたりだな」

 

結局、アンケートでめぼしい効果は得られなかった。なら、社会心理学に長けていそうな人物を探し、直接相談するのが一番良い。

さっそく先生の要素を第三者的な目線でリストアップした書類を作成し、情報通の人に連絡をとる。

 

「もしもし、ユウカさん。私です」

 

「ユリちゃんじゃない!例の仮装パーティに出てくれる事になったのかしら!?」

 

「条件次第よっては考えます。用件を言いますね、キヴォトスに全知全能な人っていますか?」

 

「いるわよ、全能では無いけど、全知の人は知ってるわ。今夜中にミレニアムにいらっしゃい、紹介してあげるわ」

 

それを受けて、私はその夜ミレニアムまで飛んで行った。飛び回っているところを見られるとまた面倒なので、勝手にシャーレのヘリコプターを使った。

まあ、シャーレに一番長く正式加入していて且つ、先生からの信頼も厚い私なら咎められることは無いだろう。

 

「う、うわぁ!シャーレのヘリだ!逃げろー!」

 

「見えない敵がどっかに居るはずだ!無闇に動き回るな!」

 

「くそっ……ゴーストめ!今日は解散だ!」

 

道中でメキメキヘルメット団を散らしてから、その数分後にユウカさんと待ち合わせしたランデヴーポイントに到着する。

最近は先生に同行して任務にあたっているので、シャーレのヘリコプター自体が不良たちへの新たな脅威となっているらしい。

 

「ユリちゃんはまだかしら……」

 

「待たせたな、ユウカさん」

 

「あれ?ユリちゃんの声はするのに姿が見えない……どこかしら」

 

「あ、すまない。つい癖で隠れてしまっていた」

 

私は光化学迷彩マントをOFFにし、ユウカさんの前に姿を晒す。ここ暫くは姿を晒せないため、あくまで「プロトタイプの試験運用」という名目で光化学迷彩マントをウタハさんに貸してもらっているのだ。

このマントの唯一の難点は、三分間しか連続で起動できないという事くらいだ。

 

「わっ!ビックリした……ようこそ、ユリちゃん。それじゃ早速ヒマリ先輩の所へ行くわよ!」

 

「ユウカさん、手は握らなくても大丈夫だ。そこまで足は遅くないし、ちょ、力強っ!?」

 

「いいからいいから♪一緒に行きましょ?」

 

ユウカさんに手を引かれ、とある部室に入るとそこはデータルームのような、管制室のような場所に出た。

流石は、ミレニアムが誇る「全知」のいる部活と言ったところだろう。

 

「あら、ユウカ。そちらの子は……あぁ、リオの。合わせたい人が居ると聞いていましたが、まさかこの子だとは」

 

「ヒマリ先輩、知っていたんですか?」

 

「ええ……あの性悪の手下でしょう?登録名は『クロガネ ユリ』。データにはミレニアム学園所属一年生、古物研究会に所属している、とされていますね」

 

「えっ?あなたの名前って、鬼灯ユリじゃなかったの?ユリちゃん、あなたの本当の名前は一体……」

 

ここに来て漸く理解した。頭のいい連中というのは、どいつもこいつも面倒な手合いばかりだと。ナギサ様も、目の前のこの人も、リオさん……は割と素直だったが。

それでも、やることなす事全て一枚上を行ってくるので面倒くさい。

 

「…………そういえば、そうでしたね。ユウカさん、他人には聞かせられない話をします。少し外して貰えますか?」

 

「ユウカ、私からも頼みます」

 

「えっ、えっ?どういう事よ……。もう、後で説明してもらうんですからね!」

 

ユウカさんが出て行ったのを確認し、頭のスイッチを切り替える。戦いや日々を過ごす、鬼灯ユリとしての私から、政治や謀略が染み付いたトリニティ生の鬼灯ユリへと。

 

「さて……。ネルだけでなく、ユウカまでたらし込むとは。これでは女たらしと言われても仕方ありませんね?」

 

「ふふっ、ご冗談を。我が主人を騙そうと抜け抜けと爪を研いでいる貴女に言われたくはありませんが。この場にもう一人、居ますでしょう。退出させてくださいな」

 

ヒマリさんの他に、誰かが隠れているのは分かっている。というか、殺気が隠せていない。これでは翼を震わせるまでもない。

位置までバッチリ把握しているので、不意打ちは無効だ。

 

「………バレてしまっては仕方ないですね。エイミ」

 

「君凄いね、何もしないでも私の存在を感知するなんて。部長、これも特異現象かな」

 

「……無駄口を叩いていないで出なさい」

 

案の定私の背後から降りてきた生徒がぶつぶつ言いながら出ていく。それにしてもとんでもない格好だった。

あれでは殆ど下着だ。恥じらいはないのだろうか。

 

「それで。何故私のもとを訪れたのですか?まぁ凡そリオの差金でしょうが。しかし驚きました、あの性悪女がここまで勘がいいとは。それとも貴女が調べたんですか?怪盗クローバー仮面さん」

 

「さてね。私は私用でここを訪れただけなのですが。では実際に何か企んでいるという事で良いんですね」

 

「………カマをかけましたね。その手口、まさにあのドブ以下の女らしいですね。貴女のご主人様に習ったのですか?」

 

どうやら、ヒマリさんはトリニティ流の政治は苦手らしい。嘘やハッタリ、カマ掛けに罠。口先八寸での戦いでトリニティ生に勝る者はいない。

 

「困りましたね。私はあの方のしがない使用人に過ぎないのですが。ですが、主人の事をここまで悪様に言われると、私もご主人様に報告をしなくてはなりませんね」

 

「それは困ります。困りますので……エイミ」

 

来ると思っていた。さっきから影でコソコソやっているのは翼の振動で分かっていたから、どうせ悪企みでもしているだろうとは思ったが、本当にやるとは。

この場で武力行使をする事が何よりも愚かだというのに、それをやってしまうなんて。

 

「動かない、で─────?うぐっ!」

 

「エイミ!」

 

背後から襲ってきたエイミさんを一本背負いし、地面に叩きつける。そしてそのまま手早く拘束して片手で銃を突きつけ、もう片方の手でヒマリさんにハンドガンを向ける。

 

「気づいてたんだね……でもその秘密は分かった。君の妙に鋭い勘、それは微細動する翼にある。それで振動を拾って、感知しているんだ……っ、まだ、話してる最中でしょ。不粋だな」

 

ごちゃごちゃ話しながら爆弾で拘束状態から脱しようとしたエイミさんのこめかみに銃口を突きつける。

光化学迷彩マントを起動しない状態で展開し、私の細かい動きを見えにくくする。

マントのデザインは、エンジニア部のヒビキさんが凝ってくれて、【死神】ルックそのままとなっている。

 

「っ、これが例の……死神!誇大妄想に囚われた都市伝説だと思ってたけど、実在するなんて」

 

「気をつけてください、エイミ!死神にキスをされると魂を抜かれてしまいます!」

 

はぁ?

 

「ぶ、部長!助けて!」

 

「エイミ、こういう時の対処法はあります!逆にキスをしたら死神が退散したという記録があります!」

 

ちょっと待て、どんな噂だよ。

意味がわからない。何故そうなった?それこそ誇大妄想に囚われた都市伝説じゃないのか。というか「死神にキスをされると魂を抜かれる」ってこの間読んだ冒険小説に書いてあったやつだろ!

 

「う、仕方ない……死ぬよりはマシ!」

 

「ごめんなさいエイミ……貴女の純情をこんな形で……」

 

エイミさんと目が合う。その目は潤み、目の端には微かに雫が一つ。その細い腕が私の頭の後ろに回され、綺麗な顔が近づく。その瑞々しい唇が、私の唇と触れ合おうとして─────。

 

「この………大馬鹿どもがぁぁぁーーっ!」

 

「わわっ!?」

 

私は思い切り立ち上がり、襤褸のマントを収納して勇足でヒマリさんのもとへズンズンと歩いていく。

この大馬鹿者に一つ言ってやらなくてはならない。

 

「あ、あの……?」

 

「このバカ!ちょっとは話し合うって事を覚えろ!確かに、私は怪しいかもしれないが。まず対話をしなければ何も始まらないだろが!」

 

「え、ええ……?その、じゃあ貴女がリオに言われて私たちを始末しにきたのでは無いのですか?」

 

「そんな訳ないだろが!私は先生が何であんなにモテるのかを知りたくて来たんだ!何が悲しくて人を始末するんだ!」

 

「………すみません。」

 

「ねえ、部長も反省してるみたいだし……」

 

後ろからエイミさんが声をかけてくる。

一番何か言いたいのはヒマリさんではなく、むしろこの子だ。この子の服装もそうだし、さっきの行動もそうだ。

この子には恥じらいが一切ないのか?

 

「お前!なんでさっき私とキスしようとしたんだ!?普通に考えて、キスしたら魂奪われるなら自分からキスしても同じだろが!」

 

「………確かに。でも、あの時は焦ってたし」

 

「もっと自分の身体を大事にしなさい!分かったか!」

 

「……はい。」

 

一頻り怒鳴った後、何事かと外で待機していたユウカさんが飛び込んでくる。その場には、プンスコしながら座り込む私としゅんとしてしまったヒマリさんとエイミさんがいたのだから、さぞ驚いただろう。

 

「………何があったの?」

 

「聞かないでください、ユウカ……」

 

「────はぁ、まったく。じゃあ本題に入りますね。ミレニアムが誇る『全知』たるヒマリさんにお聞きします」

 

「あら、このミレニアム・サイエンススクールが世界に誇る天才清楚系美少女にして『全知』たるこの明星ヒマリに何を聞きたいんです?」

 

全知、という言葉を聞いたヒマリさんが萎れていた状態からニョキニョキ元気になり、何やら長い口上を述べた。

よく分からないが、元気になったのなら良かった。

 

「ヒマリさん、先生の魅力ってなんだと思います?一応、先生の情報をリストアップして来ましたが」

 

「先生……というと、シャーレの先生でしょうか?ふむ、なるほど。これがシャーレの……その、ユリさん。失礼ですが、正直なところ全く惹かれないのですが………本当に聞きたい事はそれで合ってます?」

 

「この資料も主観的ってほどでも無いね……ユリはアレじゃないの?ずっと近くにいるからダメな部分が見えて来ちゃって魅力を感じないだけじゃない?」

 

「ちょっと!先生について纏められたリストよね、私にも見せて!………え、これ本当なの?確かに先生は領収書も書けないけど、掃除も洗濯も出来ないなんて」

 

「何度かやらせてみましたが、どれも上手くいかず。おまけにやる気もないので、普段は私が片付けてます」

 

その瞬間、少しだけ冷える空気。

ユウカさんやエイミさんから肩に手を置かれ、同情の表情を浮かべられる。ヒマリさんからは手を握られて、大丈夫ですよ。と言わんばかりの自信満々の顔でニコリと笑顔を浮かべられる。

 

「エイミ、ユウカ。実態調査の後、改めて作戦会議をします。ユリさんは、本日はユウカの部屋で泊まると良いでしょう」

 

「え、嫌です……普通に帰りますけど」

 

「なるほど。プランBで行きますか。では本日はお帰りを。ゆっくり休まれてください」

 

急に余所余所しくなった三人を不思議に思いながら、私は帰った。やけに監視カメラや盗聴器が多いような気もしたが、いつもの事なので放置して眠ることにした。

 

 

 

 

 

 

ホワイトハッカー集団、ヴェリタス。

その部室に普段は揃わないような面々が集まっていた。その面々はミレニアム中の各部活から数人が険しい剣幕でやって来ていた。

 

ゲーム開発部からはミドリ、アリス。C&Cからはネル、カリン。エンジニア部からはヒビキ。ヴェリタスは部室だからチヒロ以外全員。特異現象捜査部からはヒマリ先輩とエイミ。

そしてセミナーからは、ノアと私……早瀬ユウカが参加している。

 

「では、これより『先生の普段を観察しちゃおうパーティー』を始めるよ!みんな、コーラとポップコーンの準備はオッケー!?」

 

「おおー!」

 

マキの合図で大きなモニターに先生がシャーレで黙々と作業している様子が映る。人工知能にカメラワークを任せているので、先生の見たい表情が見れる。

 

「お、先生が何か頼んだな……誰かいるのか?」

 

「黒髪の小さい子が出てきたぞ。先生に飲み物を渡している……」

 

画面では、先生に甲斐甲斐しく給仕するユリちゃんの様子が映っていた。場面が切り替わり、シャワールームが映し出される。

男物の下着や服が散乱していて、見るに堪えない。

 

「せ、先生のパンツ……!」

 

「黒髪の子が何か喋ってる。音声オンにして」

 

『また散らかして……子供じゃないんですから』

 

「大浴場の掃除までさせられてる。あんな小さい手で、こんな大きな所を……」

 

その後も、ユリちゃんがたった一人で掃除をしたり先生のお世話をしたりする様子が流れていた。対する先生は、仕事に熱中しているのか、それを見向きもせずに机に向かっている。

時には、先生が一言「ん。」と言っただけでお茶が出てくることもあった。

 

「黒髪の子かわいそう」

 

「先生も真剣に仕事してる分、何も言えない……」

 

約3時間ほどの上映を終え、出た結論が一つ。

「黒髪の子(ユリちゃん)がちゃんと休める環境を」というものだった。

先生に非はなく、ユリちゃんにも非はない。だとしたら、少しでも楽になれるように取り計らってあげることだけだ。

 

早速私たちは行動を開始することにした。

 

「こんにちは、ユリちゃん。最近、ミレニアムで美味しい洋食屋さんがあるの。もし良かったら一緒にどう?」

 

「そうそう!なんならあたしが奢るからよ!」

 

「いえ……今日はラーメンの気分なので」

 

しかし、ユリちゃんはことごとく私たちを躱して行ってしまう。ヴェリタスからは「エナジードリンクは素直に受け取ってくれた」と報告があったのが救いだ。

それならとシャーレに三箱ほどエナジードリンクを各種郵送したところ、その三日後にミレニアムでエナジードリンク即売会がユリちゃんによって開かれた。

 

「ユリさんは……遠慮しているのでしょうか」

 

「遠慮しないで良いのに……ユリちゃんは頑固ね」

 

「ねぇ、部長。そろそろユリちゃん怒ると思うよ。多分迷惑だよ……にしたって殆ど毎日物を贈るのは嫌がらせじゃないかな」

 

「エイミ。」

 

その後も何度もアプローチをして、どうにか休ませる為に電車を止めたりシャーレの周りを機能不全に陥れさせたり、遊びに連れ去ってみたりしたが、ユリちゃんは大変そうな顔をして私たちの好意を台無しにしていた。

きっと、ワーカーホリックに陥ってしまっているのだ。

 

「ごめん、私この計画降りるね。ユリちゃんが可哀想だし」

 

「エイミ!待ちなさい、エイミ!」

 

エイミが抜け、それと同時にネルが抜けたが、それを境にユリちゃんがミレニアムによく来るようになってくれた。

主にエンジニア部と、ミレニアムタワー。そして喫茶店に訪れているらしい。毎回会いに行こうとしているのだけど、一度も会えた事はない。

 

しかし、奇跡的にユリちゃんと出会う事ができた。シャーレの当番に呼ばれた時の帰り、ばったりユリちゃんと出くわした。

 

「こんにちは、ユリちゃん!元気?」

 

「…………嫌味ですか、早瀬ユウカ」

 

挨拶をすると、疲れ切ったような、終わりのない書類と格闘している時の人のような顔で私を睨んできた。

 

「そ、そんな事ないわよ!私は純粋にあなたを心配して……」

 

「────ここ最近、ずっと私に嫌がらせをしてきていますよね。理由を教えてくださいよ……私が何したってんですか!」

 

「い、嫌がらせなんてしてないわよ!それは本当。信じてちょうだい!」

 

「………そう、ですか。失礼しました、勘違いをしてしまっていたようです。では、私はこれで。それと────貴女の名前を何者かが勝手に使っていますよ、ご注意ください」

 

きっと、疲れからくるストレスで過敏になっちゃっているのだと思い、良い匂いのする花束をたくさん郵送で贈った。

とてもむしゃくしゃしていたのか、ユリちゃんは花束を地面に叩きつけてぐしゃぐしゃにしてしまっていたけど、その後に泣きながら花を拾っていた。

 

「…………部長、ユウカ。もうやめよう」

 

「エイミ……?どうしてです、今もユリさんは感謝で咽び泣いて……」

 

「アレじゃただの嫌がらせになってる。あの子には花も、物も必要ない。そばに居て支えてくれる友達がいればそれで良かったんだよ」

 

「友達………あ、あぁ……そう、だったのね。私は、なんて事を……」

 

「……………っ、人助けをしていると思って、舞い上がっていました。私らしくもない……」

 

「流石にやりすぎ。ほら、謝りに行こう」

 

私たちはエイミに連れられてシャーレまで向かった。けど、ユリちゃんに会う事は叶わなかった。先生から面会を謝絶されてしまったから。

でも、どうしてもしてしまった罪を告白したかった。それで、先生に私たちがした事を告げた。

 

「"…………………そっか。"」

 

先生はその後、私たちを叱った。何時間も私たちを叱ったあと、先生はユリちゃんを連れてきてくれた。

私たちがユリちゃんに素直に全部話すと、ユリちゃんは笑って許してくれた。でも、たった一つ─────。

 

別れ際にユリちゃんが言った言葉が、頭から離れない。

 

「さようなら。私は貴女のことを友達だと……()()()()()()()

 

蒲公英が道に、咲いていた。

 

 

 

 

 

あれからというもの、私は何者からか嫌がらせを受けている。

『早瀬ユウカ』の名前で送られてくる多種多様の不要品。ユウカさんの評判を落とそうというタチの悪い悪戯だと、初めはそう思っていた。

 

「"ユリ、また来てるよ……"」

 

「………今度は、何ですか」

 

「"アロマグッズだって。送り返しておくよ"」

 

「…………すみません」

 

最初のうちは、すぐに飽きて止むだろうと思っていた。だが、それは終わることなく、さらにエスカレートしていった。

私が先生と食糧品の買い出しに出かけようとした時、何者かの手によって電車がハイジャックされ、それに乗じた不良生徒が車内で暴れ回った。

 

「"っ、ユリ!行ける!?"」

 

「行けます!指示を!」

 

先生の指示もあってか、慣れない電車内の戦闘で苦戦はしたものの、何とか無事に勝つ事ができた。

車内の電光掲示板に表示される「rest for you!」の文字列に苛々する。こんな事をする奴がいるから、私は休む事ができないんだ。

 

しかし、これは序の口に過ぎなかった。

私が外出するたびにそう言った類の事件が起こり、シャーレのメインシステムの約70%がダウンし、その元になっている装置を破壊するまで、私は先生と共に夜の闇の中で戦い続けた。

 

そしてなお続く贈り物攻撃もあり、私の心はすっかり疲弊し切っていた。

そんな私を唯一癒してくれたのは、エイミちゃんとダブルオーちゃんだった。二人は変わらず、私の友達(にちじょう)でいてくれる。

二人と先生に支えられて、私はギリギリを保っていた。

 

ある時、シャーレの出入り口でユウカさんと出くわした。その瞬間に思い出す、毎日のように送られてくる『早瀬ユウカ』からのゴミたち。

思わず酷い態度を取ってしまった。ユウカさんは私を心配して来てくれたのに、そんな酷い事をするなんて、私は最低だ。

 

「"…………ユリ、これ……『早瀬ユウカ』から。でもこれは、多分ユウカ本人からだよ"」

 

難しそうな顔をしながら花束を渡してくる先生から、ソレを受け取り、『早瀬ユウカ』からされてきた仕打ちを思い出し、頭がかっとなる。

花束を床に叩きつけて、何度も、何度も踏んでぐしゃぐしゃにする。

 

「この!この!こんなっ、こんなものっ!」

 

無惨に踏み散らされた色とりどりの百合の花が私を責めているようだった。見えない悪意が、私を睨んでいた。

それと同時に、ユウカさんからの優しさを踏み躙ってしまった自分に嫌気が差した。結果────私の心は決壊した。

 

「っ、あ、うう……ごめん、なさい……ゆるして、ください……」

 

「"………………………。"」

 

先生と一緒に百合の花を拾い、綺麗に残ったものだけを飾って、残りは捨てる。ゴミを出しにシャーレの裏手に行き、そこでダブルオーちゃんに出会った。

 

「……ひどい顔だな。顔、洗ってんのか?」

 

「さっき、泣いたばっかりだから。それよりどうしたの、ダブルオーちゃん」

 

「一応、謝っとこうと思ってな。悪ぃ、あたしじゃアイツらを止めらんなかった」

 

「良いの、気にしないで。私は大丈夫だから」

 

その、数日後。先生の計らいで誰とも会わないように、一人になれるようにしてくれていた時、先生がユウカさんとヒマリさんを連れてきた。

話を聞けば、連日の贈り物は全て彼女らの行いだという。それらは全て、私を休ませたいが為、私の為をも思っての行動だった。

 

私はユウカさんとヒマリさんに涙を見せるまいと別れを告げ、仮眠室に戻り──────安堵で崩れ落ちてしまった。

身体は元気だったのに、何故だかは分からない。でも、一つだけ確かに言える事がある。

 

それは、「心が砕けてしまった人はもう二度と、元には戻らない」という事だった。

 

私の心はあの地獄の連勤で砕け散っている。

人と触れ合い、人に戻った気でいた。私は██だ。正義の為に、自分の意志で、何者にも縛られずに戦う戦士。

そうだ。だから私は──────。

 

「"ユリ……!大丈夫だよ、私がいる。私がユリを守る。たとえ世界が君の敵になっても、私はユリの味方だよ"」

 

「せん、せい………」

 

「"だから……どこにも、行かないでね"」

 

「ふ、あははっ!先生。なに勘違いしてるんですか、私はどこにも行ったりしませんよ。少し、目を瞑っててください」

 

やっと分かった。先生がどうして、たくさんの生徒に慕われているかを。でも、こんなタイミングは少しイジワルだ。

だから、私も先生にちょっとしたイタズラをする。

 

「先生………」

 

先生を抱きしめて、屈ませる。目を閉じた先生の顔が近い。私はそのまま………頬にキスをして、ひらりと抜ける。

そしてそのまま先生に背を向ける。この真っ赤な顔を、見せるわけにはいかないのだ。

 

「? いまのって……」

 

「何でもないですよっ、先生!」

 

この気持ちは、誰にも奪われたくない。

あったかくて、キュンとして、ドキドキするようなこの想いが叶うのならば。人間であるのも、きっと悪くはないのだろう。

 

窓辺に、可愛らしい二つの蒲公英が咲いていた。




蒲公英の花言葉
「別離」「真心の愛」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。