シャーレの居候は動かない   作:宇沢心経百面曼荼羅

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トリニティ出身

 

シャーレの先生と共同生活するようになってから、三日が経った。正直もうやめたい。

まず、ダメなことが一つ。掃除をしないこと。

二つ、オモチャにかまけて仕事をしないこと。

三つ、たまに風呂を覗いてくること。

これさえ無ければ完璧なのだが、どうも上手くいかないらしい。少なくとも三つ目はどうとでもなると思うが。

 

「"ユリ、今日から私はアビドスの方へ出張だから。ユリも行く?"」

 

「アビドスですか………パスで。困ったら呼んでください、すぐ駆けつけますので」

 

シャーレは広い。一つのビルを大きく使っているため、居住スペースや食堂、オフィスは当然のことながら大浴場もある。

しかし先生はズボラなので全部シャワーで済ませるし、トリートメントを使わないので髪が傷んで見える。

挙げ句の果てには机で寝落ちする為、私が身体を洗ってあげた事もあったくらいだ。

 

三日間だけでその体たらくなのだから、これを毎日となると厳しいものがある。

なのでこのように、外泊の日などがあると良い。シャーレの豪華施設を使いたい放題という訳だ。

 

日がな訓練施設で汗を流し、シャワーを浴び、外へ出て正義実現。その足でスイーツを頂き大浴場でさっぱりした後は食堂で満腹になり、完璧な1日を送ることができる。

先生が外泊するとなってから二日はそれで良かった。問題が起こったのは、三日目の朝だった。

 

「"ごめん、助けて。ひもじい"」

 

「ハァ?」

 

先生が街中で遭難した。何をしているんだ、と怒鳴りつけたくなったが、遭難者に向かって怒鳴るのは正義的にアウトだ。

急いでヘリコプターを操縦し、アビドス地区まで向かう。ヘリコプターを使っても数時間かかる距離だ。そんな広大なアビドスで人探しなど、海に落とした針を探すようなものだ。

 

「………それで、私達に助けを求めたって訳ですね……」

 

「いやぁ、お恥ずかしながら。忙しいでしょうに」

 

人手が足りないと感じたので、アビドス高等学校までお邪魔する事にした。丁度、事実上生徒会組織にあたる対策委員会副委員長の十六夜ノノミさんに会うことが出来たので、こうして手伝いを依頼している。

 

「いえいえ、人助けは大事な事ですから〜☆それに、よく遭難してしまう方はいらっしゃるんですよ」

 

「そうなんですね……」

 

ノノミさんと話していると、対策委員会の部室の扉が開く。銀髪の獣耳の生徒が現れ、その背中に背負われたものに私は安堵と失望を覚えた。

 

「シロコちゃん?その大人の人は一体……」

 

「ん、拾った」

 

「わは、シロコちゃんが人攫いなんてね。ママはそんな風に育てた覚えはないぞ〜?」

 

「ホシノ先輩、拉致じゃない……拾っただけ」

 

シロコと呼ばれた生徒を人攫い呼ばわりしたのは、ずっと対策委員会室で寝ていた委員長の小鳥遊ホシノさんだ。

いや、正しくは寝たフリだが。普通の人は騙せても私は騙せない。その手の演技など腐るほど見てきたからだ。

 

「"あれ、ユリ?どうしてここに……"」

 

「先生が助けて〜って言うから探しに来たんですよ……もっとも、その心配はありませんでしたが」

 

「………へぇー、この人が先生なんだ。よろしくね〜」

 

ホシノさんから若干失望混じりの声が飛んでくる。後からやってきた一年生の黒見セリカさんと奥空アヤネさんも見知らぬダメ大人に驚いていた。

 

「"改めて、私がシャーレの先生だよ。よろしくね"」

 

「鬼灯ユリ。一応……この人の部下です………」

 

「まさか本当に来てくださるとは……!よろしくお願いします!事情は事前にお話しした通りですが改めて。」

 

何でも、不良生徒やチンピラに学校を狙われているらしい。ジリ貧なので手を貸して欲しい、というのが今回の依頼らしい。

そういう事なら、私にうってつけの依頼であると言えるだろう。私はこれでも過去に60件以上の反社会組織を叩き潰してきた実績と実力がある。

 

アビドス近郊なら確かカタカタヘルメット団が幅を利かせていたはずだ。

スナスナヘルメット団は私が一晩で全滅させているので可能性はなく、『弛まぬ歩きを止めぬ会』とかいう訳の分からない団体も潰した。

あとは消去法で……という事だ。

 

「お、先生。お出ましのようだよ。連中の装備の擦れる音が聞こえました。行ってきます」

 

「若い子に任せるわけにはいかないな〜、おじさんも行くよ」

 

「ん、ドローンは準備できてるよ」

 

「よ〜し、行きますよ〜☆」

 

「先生、指揮をお願いします!」

 

「早く行くわよ!奴らには怒ってるんだから!」

 

単騎で突撃したつもりだったが、いつの間にかホシノさんが追いついている。やはりトリニティのデータベースにもあった通り、ホシノさんは強い。

これで盾さえ無ければ、もっと強くなると思うのだが、勿体無い事をする。

 

「な、何だこいつら!?聞いてたよりも強え!」

 

「おい待てよ、アイツ【死神】じゃねぇのか!?」

 

「うわああっ!出たぁあああっ!」

 

基本的に私とホシノさんで蹂躙し、残存兵を後衛のみんなで討っていると、途中で私に気づいた傭兵が逃げ出した。ヘルメット団にも私の痛い二つ名が広まっているようで恥ずかしい。

 

「ふざけんな!【死神】のヤローがいるなら報酬は5倍だぞクソッタレ!?割に合わねえ、逃げさせてもらう!」

 

「ありゃ〜、みんな退いて行っちゃったな〜。ユリちゃん……君って────」

 

「流石はホシノさんですね!"聞いていた通り"の実力で助かりました!」

 

「………ふうん。そっか、また後で話そうね」

 

「助かります。先生に聞かれる訳にはいかないので」

 

先生の元へ戻った私達は、普段よりも実力を出せたというセリカさんやノノミさんの言葉に同調しながら、今回のリザルトを確認する。

その夜。私はホシノさんが裏社会流の暗号で指定した場所まで来た。辺りは静まり返っていて、どこか夜の怖さすら思い出すような感じだった。

 

「さてと、じゃあもう良いよね。答えろ、お前達は何者だ?」

 

「大人に騙された過去を持つホシノさんが私達を警戒する気持ちは良くわかりますよ。ですがソレ(武器)は下げて欲しいものですね」

 

「トリニティはどこまで知っている?あの事件にどんな風に関わっていた?死神とは何だ?」

 

敵意を剥き出しで睨みつけてくるホシノさんに若干辟易しながら、素直に全て話すべきか迷う。ハッキリ言ってホシノさんは部外者だ。

事情を知っているのは、単純にトリニティの情報部が優秀なだけ。事件には何ら関わっていない。死神は私の痛いだけの通り名だ。

 

「そうですね────。それを、貴女に話す必要がありますか?ホシノさん……いえ、暁のホルス」

 

黙っている事にした。私は用心深い性格(タチ)で、おいそれと情報をぽこじゃか開示する事は無い。

これもトリニティ生の性、という物なのだろう。めっぽう政治には強いのが私たちの特徴であり、最大の強さだ。

 

「質問を変える。お前は『黒服』の手下か?」

 

「………………さぁ、どうでしょうね?」

 

黒服、というのが誰を指しているのかは分からないが、ホシノさんから明確な情報が出るまで喋らせておこう。

どうやら、彼女の心は未だに二年前に囚われているらしいので、この調子ならすぐにでも情報が集まるはずだ。真の悪。その正体についての。

 

「話す気は無いみたいだな。じゃあこうしよう。お前が話さなければ私は今すぐ先生を襲う。話す気になった?ならさっさと────」

 

「どうぞ。先生を襲うならご自由に。私には()()()()の元へ行くという選択も出来ますので」

 

甘い。人質なんて戦場で無数に経験してきた。

人質作戦が有効である理由、それは人質が人質として機能している時だけだ。ならばその前提を取り払えば良い。

それに、先生が死んでしまったとして、私に不利益があるわけでは無い。それに、連邦生徒会長の代理人として送られてきたのだから、その代わりがいるのも然りだろう。

 

「………鬼灯ユリ。お前は何のためにここに来た?」

 

「言うなれば……気まぐれであり、計画でもあり……正義のためでもあり、平和のためでもある」

 

「もう良い。分かった、今ここでお前を潰せば良い」

 

「良いのか?じき夜が明けますが……それでも、私と事を構えたい、と?」

 

「……………二度と、アビドスに近寄るな。近寄ったら、どこであろうと、何があろうともお前を倒す」

 

「おお、怖い怖い。やめてくださいよ、怒るのは。可愛いお顔が台無しで……ッ!?不意打ちですか!」

 

残念だが話し合いは決裂らしい。これ以上ホシノさんからは『黒服』とやらの情報は引き出せそうにない。

情報アドバンテージを保ったまま情報だけを貰うのは難しいな。やはりトリニティに戻ってナギサ様やミカ様などのティーパーティーの賢い人たちに教えを乞うべきか。

 

「避けるな!」

 

「避けるとも。危ないですからね。では、さようなら、小鳥遊ホシノ」

 

ひとまず今日の所は退くことにした。そもそも先生の捜索がメイン任務だったので、それを果たした以上アビドスにいる理由はない。

正義実現委員会のみんなからの通知でギチギチになったモモトークを使って先生に帰る旨を伝え、帰還する。

 

走って帰ってからはいつも通りの日課を終わらせ、床につく。久々に激しい運動をしたせいか、今日はよく眠れそうだ。

 

「おやすみなさい……」

 

「はい、おやすみなさい」

 

「え?」

 

「こんばんは、お手伝いさん」

 

その夜、シャーレ近郊に叫び声が響き渡ったのは言うまでもないことだった。

 

 

 

 

あの夜の後から、私は先生を警戒し始めた。

鬼灯ユリの言葉から察するに、あの大人も私達を狙う敵である可能性が高いからだ。

それに、あのダメ人間丸出しの大人があの動かない事で有名なお堅い組織である連邦生徒会の下部組織、連邦捜査部シャーレの先生?笑わせる。

 

しかし、疑心がバレてはいけない。

故に私はいつも通りの仮面を被る。

 

「うへ、先生だ〜。おはよ〜」

 

「"おはよう、ホシノ。今日は早いんだね"」

 

「昨日はちょっと眠れなくってさ〜。これからおじさんはお昼寝タイムと洒落込もうかな〜?」

 

先生は本当に何も知らないようなとぼけた顔で「"大丈夫?"」などと宣っている。ここまで間抜けだと、鬼灯ユリに利用されているだけの可能性すらある。

一応、カマをかけておくことにする。

 

「先生はさ、ユリちゃんとどう言う関係なのかな?おじさん気になるな〜」

 

「"ユリの事が気になるの?ユリは良い子だよ、結構ダメな生活送ってる私の世話をさせちゃってて申し訳なさはあるんだけどね……"」

 

あはは、と苦笑する先生。ああ、これはアレだ。

すっかり先生は悪い女狐に虜にされているらしい。追加で話を聞くと、なんでも身体まで洗ってもらったそうだ。

何とも最悪な話だが、先生も過労で寝ていたらしくあまり覚えていないらしい。

 

「うへ〜……流石におじさんでも引いちゃうかも。あっ、ノノミちゃんだ。おはよ〜」

 

「ホシノ先輩。ちょっとお耳良いですか?」

 

「何々〜?………ああ、うん。そうだよ」

 

委員会室にやってきたノノミちゃんが私に以前起こった事の顛末を確認する。抜け目のない後輩だ、一部始終を見られていたらしい。

 

「ホシノ先輩、どうします〜?」

 

「う〜ん……とりあえずそのまんまで良いよ〜」

 

見たところ、先生は無害そうだ。あの夜から少しの日数が経ったが、一向に怪しい素振りは見せない。むしろ、先生に対する見方は「怪しい大人」から「騙されている大人」に変わっている気もする。

 

「それじゃ、おじさんはパトロール行ってくるよ〜。ノノミちゃん、先生をよろしくね」

 

「はーい」

 

私がこれから向かうのは、胡散臭い大人筆頭であり、ほぼ黒の仮想敵────『黒服』だ。もしかしたら、そこに例の鬼灯ユリもいるかもしれない。

できる限り最大限の武装をして、『黒服』のいるオフィスへ向かう。

何が起こるか分からないので、最大限の警戒をしていく。しかし結局、目当ての『黒服』以外誰もいなかった。

 

「おや……小鳥遊ホシノですか。貴女から私の元を訪れるなど珍しい事があったものですね。本日はどのようなご用件で?我々の提案を受ける気になりましたか?」

 

「とぼけるな。お前が奴等を……先生、そして鬼灯ユリを寄越したんだろう!」

 

私がそう言うと、『黒服』はいつものように「クックック」などと笑わず、やや嫌そうな雰囲気を出しながら語り始めた。

 

「先生、に関しては非常に興味深いと言えましょう。しかし鬼灯ユリ……小鳥遊ホシノ、貴女はあの打倒者に出会いましたね」

 

「アレはお前のだろう、黒服」

 

「いいえ。寧ろ困っているのですよ。私の傘下にあった下部組織……とくに裏で活動するようなものは念入りに彼女に潰されてしまいましてね」

 

「………なんて?」

 

その言葉だけで、色々なことを理解した。アビドスに来て初日、特段誰も信じられない状況で私に呼び出されたら、そりゃ情報を話すわけもない。

トリニティだかの「高等教育」を受けているなら尚更そうだ。

 

「そうか……私は、あの子のことを……」

 

誤解していた、としか言いようがない。であれば、認識を改めるべきなのかもしれない。

そう思い私は黒服に一方的に別れを告げてアビドスへ戻り先生を見つけて話をする。

 

「先生、ユリちゃん見なかった〜?おじさん、ちょっとキツいこと言っちゃったかもでさ〜」

 

「"ユリと電話繋げようか?……いやでも、今の時間帯は忙しいかも。とりあえず掛けてみるね"」

 

先生が電話をかけると、ワンコール以内にユリちゃんは電話に出た。スピーカー通話にして、話をさせてもらう。

 

「あの……もしもし、小鳥遊ホシノなんだけどさ、今、時間空いてる?」

 

しかし、その返答は暫くの間帰ってこなかった。やっぱり、嫌われてしまったのか。そう考えた矢先、爆発音がスピーカーから鳴り響いた。

 

「Get down sniper!……じゃない、鬼灯ユリだ。現在作戦進行中、オーバー!」

 

「えっと……どこ襲ってるの?」

 

「反社会勢力と会合中のカイザー理事のいる山海亭を襲撃中だ!言いたいことはそれだけか?HQごっこがしたいなら他を当たれ!じゃあな!」

 

ブツリと電話を切られ、その場に気まずい沈黙が訪れる。

 

「"………モモトーク、送っておくね"」

 

電話は一方的に切られてしまったが、それでもユリちゃんが悪と戦う人なのは分かった。

先生も機会をくれたようだから、今度会ったら謝って、一緒にお昼寝でもしよう。

 

そう、心に決めた。

 

 

 

 

「………で、なんで私がお前たちに付き合わされているんです?」

 

灰燼と化した料亭を眺めながら、私をこんな事に巻き込んだ元凶どもに嫌悪感を込めて言う。

いくらこの店の地下に化学兵器が隠されていたとしても、店ごと反社を粉砕してしまうのはどうかと思う。

 

「やはり、ジュンコさんの言っていた通りの人ですわね。慇懃無礼を形にした様な人……」

 

「私たちがちょうど潰そうと思っていた店が、思ったよりセキュリティが厳しくてですね〜、ジュンコちゃんの言っていた通り、強くて助かりました!」

 

「ラーメン、食べたかったな……」

 

「ユリぃ……本当にごめん………」

 

「このテロリストどもが……今すぐにあなた方と事を構えても良いんですよ!?」

 

私を巻き込んだのは、ゲヘナ産の超級テロリスト集団である美食研究部。ジュンコは恐らく、脅され私の情報を吐いてしまったに違いない。

それに、このテロリスト集団は拉致を常に行う非道な集団である……とデータにあった。

なんでも、給食部の部長を毎回拉致しているそうだ。最悪のテロリストに違いはあるまい。

 

「しかし、今回に関してはユリさん。貴女にもメリットはありましたでしょう?貴女の目的はこのような粗悪な食事やサービスを提供するような悪を倒す事だと聞いていますわ」

 

「お前たちの様なテロリストもですがね」

 

「テロリストだなどと一緒にされるのは心外ですわね。ですが今日共に戦った仲、多少の無礼は見逃して差し上げますわ」

 

「何なんだ………もう、勘弁してくださいよ。こっちは久々にゆっくりノンレム睡眠したいんですよ!」

 

結局、夜通し美食研究部に付き合わされる羽目になった。ただ、その結果としてD.U.中の違法食品販売店や大葉と称した麻薬販売店を片っ端から潰せたのは良い事だった。

 

最終的に、私は背中から撃たれ気絶していたところをシャーレに運び込まれていた。

絶対に許さん、絶対に後悔させてやるぞ美食研究部!

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