シャーレの居候は動かない   作:宇沢心経百面曼荼羅

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ブラックマーケット

 

カイザーコーポレーション。キヴォトス中に広く根を張り、裏社会どころか表社会の経済すら握っている大企業。

中でも、カイザー民間軍事会社(PMC)は最新式のカイザーインダストリアル製品を惜しまず投入し、侮れない軍事力を持っている。

 

また、何よりも警戒しなくてはならないのは彼等が非正規兵とはいえ、訓練された軍隊であるということ。

下手を打てば、私も簡単にやられてしまう。

 

「………そんな屈強な軍隊も、司令官の頭が悪ければこの通りですか」

 

「くっ……!このメスガキ………!」

 

私がカイザーPMC、その一部部隊と交戦したのは本当に偶然だった。

治安維持のためにアビドス付近のブラックマーケットを監査していると、ノリのついたスーツ姿に綺麗なショーケースと明らかに慣れていない様子の商人がいたので、悪い人に騙されないよう声をかけることにした。

 

「こんにちは、精が出ますね」

 

「げっ!し、【死神】……!?こんな所に何の用だ!」

 

私を見て一発で【死神】だと分かる人間に碌な奴はいない。大体が脛に傷持つ悪どい連中だ。しかし、それだけで確保するわけにもいかない。

疑わしきは罰せよ、というのが私の方針だが、明らかに誤魔化し方が下手すぎる。

 

「…………はぁ、ちょっとした視察を。それで?あなたは何をしていたんですか、こんな所で。ここは表の商人が来る場所じゃないですよ」

 

「う、うるさいっ!お前と話すことなんかない!私にはマーケットガードが付いているのだ!行け!このクソガキを叩き殺せ!」

 

「下手くそめ……」

 

商人の言葉に合わせて、明らかにマーケットガードではない装備の兵士たちがゾロゾロと現れる。その装備はどれも最新式だ。

基本的に、マーケットガードの装備は二、三世代型落ちの装備が使われていることが多い。

何故なら、彼らの本質は兵士ではなく傭兵であるからだ。

 

「ふ、ふはは!どうだ!驚いて声も出るまい!さぁ行け!無敵のデルタ分隊よ!」

 

号令と共に突撃してくる兵士。総勢約40人程度の舞台だが、どうやら指揮官が居ないらしく、その動きにやや乱れがあった。

まず、戦略兵器が使用されなかったこと。それによって私に大した傷を負わせることなく戦闘が進んでいった。

 

「な、何をやっている!?はやくそのガキを叩き殺せと命令したんだ!早くやれ!この無能どもがぁああっ!」

 

「…………デルタ分隊全員にデルタ-01より通達。これ以上の戦闘は分隊に重大な損害を受ける可能性あり。撤退せよ」

 

「はっ?ちょ、ちょっと待て!どこへ行くお前たち!ふざけるな!私はカイザーインダストリアルの営業部のホープだぞ!?」

 

商人の言葉に愛想を尽かしたらしいデルタ分隊の隊長と思しき兵士が撤退指示を出し、ろくに戦ってもいないのに倒された兵士を除く全員がその場から即座に居なくなった。

残されたのは、傲慢な商人と私だけだった。

 

「哀れだな………色々と」

 

「ひ、やめろ……来るな!来るなぁぁぁ!!!」

 

そうして、今に至る。

私に拘束され、地面に這いつくばる商人の上に座りながら本物のマーケットガードを待つ。

彼らなら自治組織に許可なしで店を開いていたこの男を捕まえて帰っていくだろう。

 

「覚えていろ、【死神】ィ……!必ずカイザーグループ総力を挙げて貴様を死ぬより辛い目に合わせてやる……そうだ!貴様を奴隷にしてやるぞ!ははは!」

 

「おう、そうか。さ、迎えが来たぞ」

 

迎えに来たのは、羅刹すら生温いような気配を放ちながら傷だらけの装備を見に纏った熟練の戦士だった。

おそらく、元々どこかの生徒だったのだろう。名残惜しそうに刻まれた校章は擦り切れて判別がつかない。

 

「フン、やはり【死神】か。協力感謝する」

 

「お勤めご苦労様。それじゃあ私は行くよ」

 

「好きにしろ、問題は起こすなよ」

 

こういう時、先生ならこの戦士を生徒に引き戻したのだろうか。などと考えつつ野暮を自覚しながらブラックマーケットを歩いていると、明らかに歩き慣れた様子のトリニティ生を発見した。

 

少々面食らいながら後をつけると、最近流行っているとかいうペロペロ様?のグッズがバラ売りされている露店で立ち止まった。

その生徒が暫く値札を見た後、店主と何やら口論を始めた。まずい、止めなくては。

 

「────ですから!高すぎると言っているんです!第一、これ転売品ですよね?通報されたくなければ適正価格で売ってください!」

 

「そうは言っても、俺だってこのペペロ人形の入手には苦労したんだ!イチャモンを付けるなら売らん!帰れ!」

 

「このっ……!ペ・ロ・ロです!商品を扱うなら覚えてくださいよ!」

 

「手を上げろ!正義実現委員会だ!お前ら二人とも、下らない事で喧嘩はやめろ!」

 

店主とトリニティ生の間に一触即発の空気が流れたので、私の本来の所属の名前を借りて制止を試みる。

トリニティ生ならこの脅し文句が一番刺さると相場が決まっているのだ。

 

「チッ、お前が騒ぐから余計なのが来ちまった……今日は店じまいだ。帰んな、クソガキ」

 

「せ、正義実現委員会がこんな所にいるはずありません!巡回ルートのどこからも外れています!」

 

この女、どこで正義実現委員会の巡回ルートを知ったんだ。あの情報は基本的に第三級秘密事項となっていたはず。

おいそれと喋る愚か者は正義実現委員会にはいない。だとすれば─────考えうることは一つ。

 

拷問か、洗脳なりして吐かせたに違いない。

 

「……って、誰かと思えば【死神】じゃねえか!頼むよ、このイカれペロキチ女をしょっぴいてくれ!」

 

「だっ、誰がペロキチですか!確かに、モモフレンズへの愛が深いのはそうですが……」

 

「そこのトリニティ生、名前と所属分派を明かせ。制服から一年生だというのは割れている。お前が喋らないなら生徒名簿から割り出すが、良いな?」

 

「あうう……こ、こんな時は!ペロロ様、お願いしますっ!」

 

ペロキチの女はカバンから何かを取り出すと、こちらに向かって投げつけてくる。

放物線を描いて飛んでくる異物を撃ち落とすと、異物は膨れ上がり巨大なキモいカバの造形を取り始める。

 

「な、なんだコイツ……っておい!逃げるな!」

 

そそくさと逃げていくペロキチを追おうとすると、ちょうどそれを遮るかのようにキモい鳥が揺れる。

邪魔すぎる。ウザい上にキモいとか、最悪だ。

 

「これで貸し借りは無しだな、【死神】」

 

突然ペロペロ人形が破裂する。そこには先程出会ったマーケットガードの戦士が刃を射出する機構を持った銃を構えていた。

 

「恩に着る!」

 

急いでペロキチを追うと、少し開けた通りに出ようとしているペロキチ女を目視した。

 

「待ちやがれ、この不調法者が!」

 

「うわわっ!?もう突破してきたんですかっ!?まずいです……!」

 

ペロキチを追って通りに出ると、その進行方向にアビドスの皆と先生が屯していた。彼女たちが何の用でここに来たかは気になるが、それは置いておいてまずはペロキチの捕縛が優先だ。

 

「わわわっ!?そこ、どいてください〜っ!」

 

「ん、確保」

 

逃げようとしたペロキチを、その先にいたシロコさんがガシッと掴んで捕える。

流石はシロコさんだ。前に一緒に戦った時も、凄まじい戦闘センスで敵を翻弄していた。

 

「あれ〜?ユリちゃんじゃん。どしたの、こんなとこで」

 

「こんにちは、ホシノさん。今日はそこのトリニティ生に用事がありましてね」

 

「あうう……私の方は用事はないんですが」

 

「何やら事情が込み入ってそうですね……とりあえず、一旦落ち着きましょう」

 

アヤネさんが通信越しでその場を収める。ペロキチもそれ以上暴れるつもりはないのか、大人しくシュンとしている。

一旦落ち着ける場所……具体的には、私の所有する喫茶店で話をすることになった。

 

「わぁ、すごいですね☆ブラックマーケットにこんなレトロでアンティークな喫茶店があるなんて!」

 

「私の店だ、好きに使ってください」

 

「えっ!?じゃあこの美味しそうなメニュー無料で頼んで良いの!?」

 

「珈琲とケーキくらいなら出すよ」

 

この店は、私がブラックマーケットや地下街で蔓延る悪党たちを根絶やしにしていた時に、住民たちからの感謝を込めて贈られた店だ。

いつもは行く宛のない生徒にお菓子作りと珈琲の淹れ方を教えて、そこで運営させている。

 

「まず、君の名前を聞こうか」

 

「あうう……阿慈谷ヒフミ、分派とかは特にないです……」

 

「ヒフミ……ね、いや待て。ヒフミ?今、確かにそう言ったよな?」

 

「は、はい。言いましたけど……」

 

阿慈谷ヒフミ、といえば正義実現委員会でも有名人だ。特に、ティーパーティーの護衛なんかを任された事のある生徒なんかは特にだ。

私もイチカ先輩から特に気にかけておくべき生徒として色々なお偉いさんの名前を覚えさせられたものだ。

 

あの時、イチカ先輩は─────

 

「良いっすか?この阿慈谷ヒフミちゃんの動向はよく見ておくべきっすよ」

 

「どうしてです?普通の子にしか見えませんが」

 

()()()()()んすよね。ユリちゃんは想像できるっすか?キヴォトスの生徒が普通なんて」

 

「…………イヤ、無いですね」

 

「そうっす。だからこそ、気をつけるんすよ。しかもこの子、ナギサ様のオキニらしいっすからね。余計目を光らせておくっすよ」

 

そう言っていた。あまりの多忙ですっかり忘れてしまっていたが、確かにこの顔を見たことがある。

しかし、だとしたらマズイ事になった。ティーパーティーの最高権力者に近い存在がブラックマーケットに入り浸っているとは。

これではフィリウス分派を気に食わない勢力に程の良いエサを与えるようなものだ。

 

「ヒフミ先輩……アンタなんて事をしてくれたんだ!?どうしよう、この事を誰かに伝え───いやダメだ、どうしよう……」

 

この情報が正義実現委員会の生徒、それも口が固い、いわゆる情報部やハスミ先輩レベルの人たち以外に伝わることは非常にマズイ。

下手すれば、ヒフミ先輩が原因でトリニティが割れる。そうなれば多くの混乱が生まれるだろう。

 

正義実現委員会としては、それは避けたい。

 

「みなさ〜ん、もっと甘いものが欲しくないですか?たい焼きを買ってきたんですけど、食べます?」

 

「さっすがノノミちゃん。気がきくね〜」

 

「あ、あのぅ……気になったんですけど、良いですか?」

 

「どうしたの?」

 

「その、アビドスの皆さんはどうしてこんな場所に?ここは結構危険地帯で、複数の悪徳企業がシノギを削っているんですよ。今でこそ、多少は違法性が薄れましたが……」

 

「そうだね〜、ちょっと探し物があってさ。具体的には、ヘルメット団とその裏に潜んでる犯罪組織の繋がりを補強する材料とかが欲しいんだよね〜」

 

「うーん、そうですね……あ、あのっ!でしたら、ちょっとお願いがありまして……その、私がここにいた事を、黙っていて欲しいんです。学校に迷惑をかけちゃうので……」

 

「う〜ん、おじさん達は良いんだけどさ。ユリちゃん結構悩んでるみたい。ユリちゃん、おじさんからもお願いして良い?」

 

「それは………」

 

正直アリだ。ここで黙っていれば、波風立たずに済む────のだが、正義の徒としては如何なものか。

だが、結局のところ、大義よりも多くの人たちが笑って過ごせる未来が取れる手段があるのなら、私はそれを取る。

 

「………分かりました!この事は、胸に秘めておきます。ですがヒフミ先輩、私はあなたの頼みを聞いたわけではありません。あくまで、ホシノさんのお願いを聞いただけです。いいですね?」

 

「あ、あうう……信用されてませんね……」

 

話が纏まったところで、先生がタブレット端末を私たちに見せてくる。そこに書いてあったのは、ドローンを通じて把握された金の流れ一覧表だった。

なぜドローンがそんな事を出来るのかは謎だが、先生の持つ『シッテムの箱』はとんでもないオーパーツだと聞く。

それくらいは出来て当然……なのだろうか。

 

「……おかしいです。こんな綺麗に隠されているなんて」

 

「というと?」

 

ヒフミ先輩曰く、ブラックマーケットで活動している企業は殆どが開き直って堂々と悪い事をしているが、とある一社……カイザーローンだけは綺麗すぎるほどに情報が抹消されていて、不自然なんだとか。

なんでそんなに詳しいのか、は聞かないでおいた。余計なボロがたくさん出てきそうだったからだ。

 

「………ひとまず、私はシャーレに帰ります。情報を整理して、また後日カイザーローンに襲撃をかけるので、その時は出来たら加勢してください」

 

「"襲撃は確定なんだね……"」

 

今日はもう疲れた。頭の中で黒猫が「今日はもう寝ようぜ」と睡眠を催促してくるくらいには眠い。

シャーレについた私は電気を消し、床に入る。

今日こそ、今日こそゆっくり眠れそうだ。

 

「………ユリさん、来ちゃいました♡」

 

「がああああああああっ!!!!!!!」

 

結局、今日は立ったまま気絶するまで戦う事になった。

 

 

 

 

「オイ……なんだ、あれ……」

 

「嘘だろ、立ったまま気絶してる……」

 

トリニティ総合学園の敷地内で私がいつも世話になっている装備点検スペースを借りた帰りに、大規模に破壊された建物の跡地にポツリと一人だけ立っている人影があった。

私の古巣……アリウスでよく見たような襤褸を纏った生徒が気絶しながらも倒れずに立っていたのだ。

 

「おいっ、アンタ……大丈夫ごはっ!?な、コイツ!?気絶してるくせに!」

 

その生徒を助けに入ったサラリーマンが蹴り飛ばされる。そうか、彼女は気絶しても自分が負ける事を良しとせず、最後まで戦士としてあろうとするのか。

その抵抗は、その戦いはきっと虚しいものだ。

意味を成さない、不毛なものに違いない。

 

それでも、彼女は『たとえ虚しいとしても、諦める事はない(Vanitas vanitatum et omnia vanitas.)』のだろう。

なんだか、他人のようには思えなくなり、彼女の手を引き私の住んでいる寮まで連れて帰る。

当然、激しい抵抗はされたけど私はプロだ。気絶している暴れん坊を運ぶくらい容易い。

 

「……ここはどこ?私は強い。」

 

「おはよう。質素な部屋だけど、身体を休めてほしい。戦士には休息が必要だ」

 

一晩経って目覚めた彼女は、寝ている間よりも隙がなく感じた。しかし、お腹が空いていたのか置いてあった軍用携帯食(レーション)を手に取ると、あっという間に食べてしまった。

 

「生き返ったよ。ありがとう、えっと……?」

 

「白洲アズサ。よろしく」

 

「鬼灯ユリだ。見たところ、君も私と同類の気配を感じたからね。信用に足る人物だと判断させてもらったよ。助けてくれた恩もある、なんでも言うと良い。手伝おう」

 

ユリは立ち上がって再装備し始める。その様子は手慣れていて、むしろ一種のプロ意識を感じるものだった。

これなら、きっと私と一緒にサオリを────いや、何を考えているんだ私は。

昨日今日で出会ったばかりの子を、私の都合で危険に晒すわけにはいかない。それに、サオリは「ヘイロー破壊爆弾」に準ずる装備を持っているだろう。

 

「……悩み事かい?私で良ければ相談に乗ろう。敵が悪なら、私は負ける事はない。安心してくれ」

 

「………ユリは、強いのか?どれくらい強い。それを確かめてからじゃないと、私は。」

 

「それもそうだね。よし、じゃあ手合わせしよう」

 

それが一番手っ取り早い、と言いながらユリは人気の少ない場所に行く。私も付いていき、空き地に着く。

ユリはこちらに向き直り、その紅い双眸で私を見据える。とんでもない迫力だ、サオリやマダムとは違った恐ろしさがある。

 

「アズサ、先に言っておく。手加減はいるか?」

 

「いらない。全力で来────ッ!?」

 

言い終わるよりも先にユリが私を蹴り上げていた。即座に放たれる弾丸。それを身体を捩って回避して追撃に備えるために撃つ。しかし私の弾丸はユリの弾丸によって相殺されて、まるで当たらない。

凄まじい精度の射撃だ。初速が音速を軽く超えるはずの弾丸に合わせて撃ち返してくるとは。

 

「遅いぞ、アズサ!私を試すならもっと準備をしておくべきだったな!」

 

「つくづく、実感してる!でもっ!」

 

諦めることはしない。例えどんなに世界が虚しくとも、足掻くと決めた。

戦い方に拘ったらダメだ。もっと自由に、もっと研ぎ澄ます。

 

全てを無に帰し、徒労であると知れ(Vanitas vanitatum)!」

 

祈りと決意を込めた弾丸が放たれる。それはそのままユリの額に吸い込まれ、そのまま鈍い音を立てて静止した。

ユリがゆっくりと体勢を起こす。その顔にはいつか見た『トリニティの戦略兵器』のような形相が張り付いていたわけでもないのに、見るものを震撼させる恐ろしい貌があった。

 

「……………さて。私も奥の手を見せようか」

 

無。無がそこにあった。これから全力を出すとは思えないほど深い気配。ユリの動き全てが必殺の動きに見える。

ユリが懐からナニカを取り出し、口に咥えて噛み砕く。綺麗な結晶のカケラだ。あんなものを噛み砕いて痛くないのだろうか。

 

「……説明しておく。いや私がやったのは先生にされた強化(ブースト)、その劣化版ってとこだ────」

 

曰く、本来ならもっとオーパーツを使う必要があるらしいのだが、今やったのは一時的な強化のためのある種の儀式らしい。

オーパーツを消費し、自分を強化する。そんな戦い方があるのか。

 

「強化すると、相手の虚をつけるからね。気に入っているんだ」

 

「ユリ、その先生……っていうのは?何か改造をされたのか?」

 

「………改造、というよりは成長かな。戦術BDとオーパーツを先生が使うと、原理は分からないが強くなっていることがあってね」

 

「………っ、ユリ!」

 

思わずユリの肩を抱く。きっと、ユリは先生とやらに改造されてしまったに違いない。知らない間に改造されて、あんなに怖い表情をする戦闘マシーンに変えられてしまったのだ。

そう思うと、ユリの飄々とした態度や光のない紅い目が途端に助けを求める人のものに見えてくる。

 

「ユリは私が守るから、もう先生の所へは行かないで」

 

「ア、アズサ?どうしたんだい、急に抱きついたりして」

 

「ユリ、どんなに苦しくても、諦めてはダメだ。例え何もかもが虚しくても、足掻いた先にはきっと何かがある」

 

「…………!耳が痛いな……はは」

 

その後、ユリと一緒に部屋に戻った。

最初はユリをサオリとの闘いに巻き込むべきか決めかねていたけど、決めた。

絶対にユリを巻き込まない。それどころか、ユリを戦いから遠ざけるようにしよう。

 

きっと、元々は戦うような子じゃないんだろうから。

そう、目の前で美味しそうにケーキを食べるユリを見て思った。

 

 

 

 

最近、私が正義実現活動をしていると邪魔されることが多くなった。

別に、悪の組織が止めに来るなら迎え撃つだけなのだが、問題なのは止めに来ている子が純朴そうな子である事だ。

 

「ユリ!また戦ったのか……ダメだと言っただろう……」

 

白洲アズサ。ここ最近私の邪魔をしてくるトリニティの子だ。古典が好きなのか、よくその一節を言っている。

アズサには気絶した私を介抱してくれたという恩があるので、邪険には出来ない。そこが厄介なところだ。

 

「アズサ。理解してくれないかな?これが私の使命なんだ」

 

「ユリっ……!」

 

「な、なんでそんなに哀しそうな顔をするんだ!私は変な事を言っているかい!?」

 

アズサは優しい子なのだろう、私が戦っていると、とても哀しそうな顔をする。そんな顔をされても、私は正義実現委員会の一員────しばらく帰っていないが────として、戦うのが使命だ。

それを放棄することなど、たとえ五体が飛び散ったとしても出来ない。

 

「………なぁ、アズサ。私が心配なのは分かったから、手を離してくれないか?動きにくい」

 

「いいや、離さない。ユリは放っておくとすぐに戦いに行く」

 

フンス!と鼻息を荒げながらアズサが私の腕を拘束する。そんな私たちが向かっているのは、カイザーローンの本拠地だ。

ホシノさんから届いた情報によると、正義の強盗団『覆面水着団』とかいう連中が闇銀行を襲撃し、有り金を根こそぎ奪い取ったのだとか。

 

弱体化してるチャンスに、便乗しないわけにはいかない。

 

「ユリ、どこに向かっているんだ?」

 

「…………人助けをしに」

 

「それなら私も手伝う。何をすれば良い?」

 

「私から離れてくれ」

 

D.U.内にあるカイザーローン本社に着くと、早速セキュリティーが飛び出してきた。もはやカイザーグループにとって私は目の敵にされているのだ。

いやまぁ、黒い襤褸を纏ったフル武装の生徒が来たら誰でも襲ってくるとは思うが。

 

「出やがったな!【死神】ィ!」

 

「ここで会ったが百年目ェ!いや、正しくは4日ぶりぃ!」

 

やけにテンションの高いチンピラを沈め、本社の中に入る。入った途端に雨霰のように撃たれたので柱の裏に隠れ一人ずつ丁寧に処理していく。

そうこうしているうちに、アズサは私の元から離れて応戦していた。

 

「ふ、ふざけるな!我々が何をしたって言うんだ!?」

 

「詐欺、誘拐、密売、条約違反、外患誘致─────本当は殺しもだろう?フルコースだな」

 

「ひえええっ!?」

 

怯えて逃げる上役らしき男を処理し、職員一人一人を雑にではあるが倒していき、出入り口を一つを残して破壊して塞ぐ。

あとは建物ごと爆破予告して終わりだ。

 

「……ユリは、いつもこんな事をやっているのか?手際が良かった」

 

「まぁ、そうだね。日課みたいなもんかな」

 

またもシュンとしてしまったアズサと共に湧いて出てきたカイザーローン理事を拘束し、ヴァルキューレが来るまで待つ。

それ以来、なぜかアズサが私に関わってくる機会は減った。アズサは別れ際に、意味深な事を言っていた。

 

「ユリ……強くなるにはどうしたらいい?一人で一個の軍隊を潰せるくらい、強くなるには」

 

その時は答えを出せなかったが、今度あったら「範囲攻撃」だと伝えようと思う。

しかし、アズサと再会するのは少し先の未来の事だった。その頃には、私とアズサの立場は相容れないものになっていた事を、私達はまだ知らない。

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