シャーレの居候は動かない   作:宇沢心経百面曼荼羅

6 / 14
「おかえり」

 

「────用意は出来てるな」

 

「勿論です、いつでも行けますよ」

 

アビドス砂漠、その奥地で私とツルギ先輩は小高い丘の上からカイザーPMCの基地を見下ろす。ここからなら、その全貌が見える。

多くが出払っているのか、兵士たちの数は少ない。これなら簡単に潰せそうだ。

 

私たちの任務は、この基地を潰した後に敵の背後から強襲をかけ、アビドス勢と挟み撃ちにするというものだ。

ツルギ先輩と私なら、何とでもなるはずだ。

 

「報告です!アビドス部隊、ゲヘナ風紀委員会の加勢と同時に交戦開始!そちら側も作戦を開始してください!」

 

「行くか……狩りの時間だァァァッ!!!!」

 

「正義、執行!」

 

アヤネさんからの報告を受け、私たちは丘を駆け下り基地へと襲撃をかける。ツルギ先輩が私より先に駆けていき、大規模な破壊を巻き起こす。

私はその後詰めだ。撃ち漏らされたりまだ意識のある兵士たちを狙い、片っ端から殲滅していく。

 

「貴様、起きているなっ!」

 

「ぐはっ!?な、なぜ………」

 

「きぇええええっ!!!!流石だァ……!お前の微細動翼はやはり良いものだ!」

 

細かく羽を振動させ、微かな動きすら聞き逃さない。翼のある生徒のみに許されて、耳が良い生徒にしか扱えない技だ。

まぁ、素直にエコー装置を使えば良い話なのだが、重いのでそれを省略できるのは結構楽である。

 

「ツルギ先輩!五時方向に残敵数18、うち3名は倒れています。一気に決めてください!」

 

「きひっ!死ねぇえええええっ!!!!!!」

 

ツルギ先輩が駆け、大爆発と共に意識のある者が私とツルギ先輩以外いなくなったのを確認してから、私たちはアビドス部隊と交戦中のカイザーPMC部隊を強襲するため、その場を立ち去ろうとした────その時だった。

 

「………っ!?この振動は、いや、このとてつもない気配は!?」

 

カイザーPMC基地から5キロほど離れた場所からでも伝わってくる巨大な気配。もっと注意深く探知すると、その長さが砂漠一帯の何割かを占めるほどだと分かった。

その気配は砂を巻き上げ、こちらへ向かってきている。

 

「ツルギ先輩、これは………」

 

「………行くぞ。先生の邪魔をするものを排除する。安心しろ、私がいる」

 

「別に、心配していた訳ではありません。どう倒すか、相談したかっただけです」

 

「真っ正面からブッ飛ばす。私達はそういう方が得意だろう?」

 

「どっちかと言えば私は斥候タイプなのですが。私が弱点を探ります、ツルギ先輩は思いっきり暴れてください」

 

「誰に言っている?」

 

巨大な気配についてアヤネさんに一応報告を入れてから出陣する。負ける気がしない。ツルギ先輩が付いているというのもあるが、一番はやはり心境の変化だろう。

あの日、ゲヘナ風紀委員会に数千対一で戦って敗北を喫してから、当たって砕ける事が視野に入るようになった。

 

アレだけの攻撃を一身に喰らっても、私は死ななかった。それどころか、二、三時間で傷自体は殆ど癒えてしまった。

ツルギ先輩ほどではないが、私は結構タフなのだろう。いずれは、体力の限界を超えても必ず立ち上がり、勝利する。そんな戦士になれるはずだ。

 

「ツルギさん、ユリさん!現れた巨大な気配はもしかしたら数十年前から存在が確認されているという存在、ビナーかも知れません!強敵であると聞きます、お気をつけて!外見情報は必要ですか!?」

 

「必要ない、()()()()()()

 

私たちの眼前に迫るのは、ヘイローを持った白い巨大な蛇のような見た目の機械。羽を震わせ、その弱点となり得る部分をサーチしつつ飛び出す。

アサルトライフルで撃ちながら、着弾音から空洞部分を割り出す。

 

「ツルギ先輩!首の真後ろに穴があります!」

 

「きぇええええええええっ!!!!!!」

 

ツルギ先輩が空高く跳び、ビナーの背中に着地する。私は弱点と思わしき所を重点的に狙い、印をつけていく。

暫くその作業を進めていると、ビナーの口に何らかのエネルギーが溜まっていく。ビームでも撃つのだろうか?

だとしたら、狙われるのは私だ。ツルギ先輩はビナーの上で暴れ回っている。

 

「………状況は、圧倒的に不利。だけど、私は……退かない!かかって来いポンコツロボット!骨董品ごときにやられる私じゃ無いぞ!」

 

私に向かって極太のビームが放たれる。ツルギ先輩が焦ったような顔をした気がした直後、ビームが私を包む。

熱い、痛い、苦しい。ビームに刃向かうように突き出した両手が焼き切れてしまいそうだ。けれど、私は倒れない。

 

「こな、くそ!所詮は、光熱攻撃ィッ!」

 

襤褸のマントどころか、強化繊維で編まれた服もビリビリと破ける音がする。これを耐え切った後、素っ裸なんてのは格好がつかない。

そんな事を思いながら、永劫にも思える数秒を耐える。

 

「ユリッ!!!!」

 

ビームが晴れ、ツルギ先輩の声がやっと届く。手はちょっとだけ焦げ、全身を火傷していたが、私は耐えた。

身体はまだ動く。この程度なら耐え切れると分かったな。これもまた成長だ、今度はビームを跳ね返せるようにならないと。

 

「今だ、対デカグラマトン部隊……攻撃せよ!」

 

「……増援が来るのが早すぎるな、流石は特殊部隊と言ったところか?」

 

背後をチラリと見ると、増援部隊らしき兵士達と既に私たちにやられていた筈のカイザーPMC兵士まで起き上がり、決死の形相でビナーに攻撃を浴びせている。

対デカグラマトン部隊、と言っていたことから本来ならカイザーPMC兵士達はこの為に用意された人員だったのだろう。

 

「不本意だが、治療してやる!我々はあのデカブツを倒すために何だってしよう。治療が終わり次第、貴様も戦え!」

 

私はその場で最新式の科学治療を受け、僅か数十秒で全回復する。カイザーコーポレーションは腐ってもキヴォトスを牛耳る大企業であるということか。

……当然、戦いが終われば潰させてもらうが。

 

「正義実現委員会、鬼灯ユリ。戦線復帰する!」

 

「頼んだぞ、カイザーローンを潰した時と同じように、奴も打ち倒せ!」

 

「私に指図するな、ブラック企業が!」

 

メディックの激励につい反射的に悪態をついた事をちょっと反省しつつ、ビナーに攻撃を仕掛ける。

ビナーが嵐を起こし、私を吹き飛ばそうとするが耐え、ビナーの口の中に乗り込む。お目当てのビーム装置を発見だ。

 

「コイツを破壊すれば……どうなるかな!?」

 

銃を連射する。約三マガジン分撃ち終え、亀裂が出来る。その中に手榴弾を捩じ込み、起爆する。これでビナーも木っ端微塵だ。

ざまあみろ────そう思った時には、超高出力の光熱兵器を破壊した際に発生する巨大な熱量の事を完全に失念していた。

 

「あ、やば……」

 

逃げようとした私を莫大なエネルギーと爆風が包む。空高く打ち上げられ、ギリギリ意識を保ったまま遙か上空を吹っ飛んでいく。

先程治療してもらったばかりなのに、また全身に大火傷を負ってしまった。それに、錐揉み回転しながら飛んでいる為、とても気持ち悪い。

 

「は、吐きそう……」

 

地面に落ちた時の事など、考える余裕もないほど酔い、吐瀉物を吐きながら飛んでいく。地上の皆さんごめんなさい。

胃の中のものを吐き終えると、少しは気分がマシになる。とりあえず着弾地点を確認するか……と思い周りを確認する。

海だ、海が見える。どうやら私はアビドス砂漠から沖合まで吹っ飛ばされたらしい。良かった、地面に激突してぐちゃぐちゃになる心配は無いな。

 

「水だってコンクリート並みの硬さじゃないかぁぁぁぁ!!!!!!!も゛っ!?」

 

海面に激突して、私を物凄い衝撃が襲う。近くに漁船が見えたので、異変に気付いた誰かが私をサルベージしてくれることを祈ろう。

全身の骨がバキバキに折れている。まるで、ツルギ先輩に潰された生徒みたいになっている。これじゃあ完治まで一晩はかかりそうだ。

 

背中から着水したので、顔を水面に出して助けを待つ。傷口に海水が染みてとても痛いが、波に揺られて良い心地だ。

暫くして、様子を見に来た漁師の人に助けてもらう。生徒で漁師とは、珍しい。

 

「あら?あらあらあら?誰かと思えばユリさんじゃないですか!おかえりなさい、ダイナミックな帰還ですわね」

 

ハルナだったらしい。ズタボロの私を見てよくそんな感想が言えたものだ。

自分で言うのも何だが、ぶっちゃけ私の状態は見るに堪えないものであると思う。

 

「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!なんでいっつもズタボロなのよ!?この間もボロボロだったじゃない!」

 

「これは……美食による回復効果の実践に繋がりますわね!フウカさん!出番ですわよ!」

 

「普通に治療してあげよう?」

 

この期に及んで分かる。言葉の重要性。

全身の痛みで喋れないことで、私は抗議も出来ずに釣りたてアジの開きを食べさせられようとしている。

やめてほしい、内臓めちゃくちゃなんだから勘弁してほしい。

 

「はい、あーん」

 

「……………!……………ッ!!!」

 

口の中にアジをねじ込まれ、痛みに悶える。だが美味い、美味いのは間違いない。どんどんと食事が口に捩じ込まれる。

苦しかったが、それでも何故か身体が癒えていく。フウカさんの料理にはどうやら回復効果があるらしい。

 

「………人の心とか無いんか?」

 

「あら、話せるようになりましたわね!やはり美味しい料理は世界を救う─────そういう事ですわね!」

 

「どうしよう、素直に感謝したい気持ちとブチギレたい気持ちがある」

 

武器は吹き飛ばされたときに手放してしまったので、こうなったら拳で抵抗するしかない。拳で抵抗する15歳、悪くない響きだ。

 

「元気になってよかったですわ!それじゃ、ユリさんも手伝ってくださいな。マグロ漁」

 

「病み上がりなんですけど」

 

「はいっ、釣り竿!ユリ、美味しいマグロたべて元気になろうね!」

 

ジュンコの屈託のない笑顔が眩しい。仕方ない、数少ない友達……いや、そう思われているかは知らないが、友達だと思っている子の頼みだ。

出来るだけ聞いてあげたい。それに、最近は少し目立ちすぎた。あのまま流れで正義実現委員会に戻りでもしたら、きっとバッシングを受けるだろう。

 

長期の不在、それに加えて独断専行。こんな事をしでかした私には正義実現委員会に居場所は無い。

私だって戦闘員である前に学生だ、その手のバッシングや、怒られるのは嫌だ。

このマグロ漁はいい機会だ、ビナーと共に散ったという事で、暫く姿を眩まそう。痛々しい死神伝説もそろそろ歯止めが効かなそうだし。

 

「ジュンコ、実は私は包丁さばきには自信があってね。君に出来の良い刺身を食べさせてあげよう」

 

「ほんと!?やったあ!さ、釣るよ!」

 

その後、マグロが釣れるまで私たちは海釣りを楽しんだ。

久方ぶりのバカンスは、やはり楽しかった。

 

 

 

 

 

 

ツルギからの報告を受けた時、私は激しく動揺した。

証人のいる、限りなく死に近い事象。以前のような、手紙だけの悪戯とは一線を画す濃密な死の気配。

ツルギは飽くまでも「行方不明」という事にしようとしているが、強がりだ。本当は心配に決まっている。

 

「冗談では済まないんですよ……!」

 

「ユリなら大丈夫だ。アイツは強い」

 

「何を根拠に……!」

 

「これを見ろ、ゲヘナ地区で撮られた写真だ」

 

ツルギが出してきたのは、ゲロを吐きながら吹き飛んでいくユリの写真だった。風紀委員の一人、銀鏡イオリが撮影したもので、すぐにツルギの元に送られてきたらしい。

ユリの顔は青ざめているが、これは単純に写真からでも分かる回転運動で気持ち悪くなっただけだろう。

 

「これも見ろ、アビドスのホシノという人から送られてきた画像だ」

 

メールで添付されてきた画像には、「私が釣りました!」と書かれたプラカードをニコニコしながら持つユリの姿があった。

その傍らに横たわる大きなマグロを見て、私は地面にへたり込む。心配をかけさせて、この娘は。無駄な心労を増やさないでほしい。

 

「………ユリは無事なんですね。なら初めからそう言ってください」

 

「だが音信不通だ。電波の繋がらない所にいるらしい」

 

「まさか本当に行方不明とは。無事が分かっただけ良しとしましょう……ですが!あの子が帰ってきた暁には、必ず!お説教です!」

 

「余計帰ってこなくなると思うんだが」

 

「それでも、です!何としてでも捕まえます!正義実現委員会全体に指名手配状を出します!」

 

「…………何も言わん、好きにしろ」

 

しかし、私の思惑とは別に悪い噂が広まっていた。何でも、「正義実現委員会の副委員長が後輩を失ったせいで乱心だ」というものだ。

私が懇切丁寧に誤解を解こうとしても、誤解はますます曲解されて広まっていくばかり。挙げ句の果てには、ティーパーティーのナギサ様にまで呼び出される事になってしまった。

 

「単刀直入に聞きます……鬼灯ユリさんが鬼畜を極めた卑劣漢である連邦生徒会の組織に騙され、慈悲という言葉を知らない最悪のゲヘナの【死神】と呼ばれている生徒にそれはもう惨たらしく殺された……というのは間違っていませんね?」

 

「違いますっ!本当に行方不明なだけなんです!」

 

「そう、信じたい気持ちは分かりますが……」

 

「この写真を見てください!元気そうにしているでしょう!?」

 

「ハスミさん……っ!必ず、仇は……!」

 

「討たなくて結構です!死んでない子の仇撃ちなどする意味がありません!」

 

噂というのは恐ろしい。伝言ゲーム形式で伝わる噂はどんどん尾鰭を増していき、トリニティの生徒たちの優秀な脳みそによって、より残酷に、より悲劇的に脚色されて気がついた時にはトリニティ外にも広まっていた。

 

さらに、以前からゲリラ活動で問題児扱いされていた生徒の蜂起。問題は増える一向だ。

どうしようもなくなり、頭を抱えながらベンチに座っていると、私を案じたコハルがおずおずと声をかけてきた。

やはりこの子は優しい。

 

「ハスミ先輩、この手配書……逆効果ですよ」

 

「………本当に、そう思います。というか!これだけ騒ぎになっているのですからユリも気づいているのでは!?」

 

「その、ユリはこの事に気づいているからじゃないかと思うんです……」

 

考えてみれば、あの子は変な所で奥手というか、謎のこだわりを見せる。そのせいで帰ってきていなかったのだろう。

そう仮定すれば、この状況下で態々帰ってくるような図太さは出せないのだろう。というか、私でも嫌だ。

 

「手配書を撤回しましょう。手伝ってくれますか、コハル」

 

「は、はいっ!がんばります!」

 

だが、それでも結果は変わらなかった。

むしろ余計な詮索が噂を呼び、その噂もまた大きく捻じ曲げられていく。

ストレスで翼の抜け羽が出始めた頃、SNSに一件の投稿があった。落書きの情報だ。

 

「…………ユリ、貴女は本当に!」

 

落書きには古代語で「漁船既に死せり、正義まさに立つべし」と書かれていた。古代語を教えているのは、キヴォトスでもトリニティぐらいだ。

そして漁船、正義という単語。確実にユリの書き残しだ。

この期に及んでふざけているユリに良い加減腹が立ち、直接捜索に踏み出す事にした。

 

「ハスミ、どこへ行く?」

 

「悪い子にお仕置きを」

 

「…………早めに戻ってこい」

 

ツルギからも許可を得た。

待っていなさい、ユリ。必ず貴女を捕まえてお説教をします!

 

 

 

 

 

 

最悪だ。

どうしてこう、私ばかり酷い目に遭うんだろう?

何か私が悪い事をしたのだろうか?それとも、そういう星のもとに生まれてきてしまったのだろうか。

 

「ユリさん……そう気を落とさないでください」

 

「何なのあの卸問屋!私たちの釣ったマグロが一番美味しかったでしょ!一切れ分けてあげたのに!」

 

「……潰しますか?」

 

凡そ二週間ほどの海釣りの末、私たちは巨大マグロを釣り上げる事に成功した。大きさも、ハリも、美味しさも超一流。

私たちはマグロを品評会に出し、美食に値するかを確かめた。しかし、保守的に過ぎる主催者である卸問屋は私たちのマグロを全否定。

私は肩を落としてマグロを食べているというわけだ。

 

「こうなれば、また釣りに行くしかないよ!」

 

「ですわね。さ、行きましょう?」

 

再び海に出て、三週間の時をかけて近海の主とも呼べるほど大きなマグロを釣り上げた。その影響でマグロ漁船は港に戻る頃には壊れてしまったが。

 

「さぁ、認めてもらおうか。私たちのマグロをな!」

 

「くっ!悔しい……でもデカすぎる!これが一番だッ……!」

 

卸問屋を下し、マグロと記念撮影をしてバラして一番美味しい所以外を出荷する。中トロや大トロは、頬が蕩けるような味わいだった。

しかし、そこで事件が起こった。卸問屋が襲撃されたのだ。犯人はマグロの独占を狙うマフィアの一派。

許してはおけない。私たちのマグロを独占するなど。

 

「ユリさん、ここに決起表明を。」

 

「任せてくれ。カッコいいのを用意しよう」

 

そうして私が書いたのは、古書館で読んだ書物に書かれていた言葉をもじったもの。

即ち、「漁船既に死せり、正義まさに立つべし」というイカしたものだ。これは私たちの状況を言い表している。

 

「開けろ!正義実現美食研究部だ!」

 

「う、うわぁぁ!!!亡霊だぁぁぁ!!!」

 

「爆破しますわよ!」

 

「アンタ達のせいでマグロを食べれない人がいるのよ!」

 

私たちがマフィアを襲っている時、妙な反応をする奴らばかりだった。私を見て「亡霊」だの「幽霊」だの。失礼な奴らだ。

どうせまた例の【死神】のような痛々しい二つ名だろうと思い放置していると、その数日後に青ざめた顔のジュンコによって事の真相が明らかになった。

 

「た、たたた、大変よ!ユリ、アンタ何したの!?」

 

「何ですの、それは……?あら、これはこれは……」

 

「これ大丈夫なんですか〜?」

 

「指名手配書だって!ユリちゃん有名人だね!」

 

「ハァ?」

 

DEAD OR ALIVEと書かれた紙には、生徒証に写っているような人相の悪い私の顔が貼り付けてあった。……というか、生徒名簿からの引用だろう。

誰がこんなものを。生徒証の写真はコハルちゃんからも「人殺してそう」と評判なのに。

 

謂れのない罪で捕まるわけにもいかないので、漁村の隠れ家で隠れつつハルナ達に情報を集めてもらう。

 

「聞いた話によれば……ユリさんは正義実現委員会に過労死寸前の酷使をされた上に連邦生徒会下部組織シャーレの大人の元に慰みモノとして左遷され、尊厳とプライドを滅茶苦茶にされた挙句、ゲヘナにある悪の組織【死神】の手によってバラバラにされてキヴォトス各地にその身体がばら撒かれた哀れな生徒───だそうです」

 

「意味わからない。ナニソレ?知らない。怖」

 

「そうなの?」

 

「じゃあここにいる私は何なんだよ」

 

「それもそっか」

 

座り込み、頭を抱える。

本当に勘弁してほしい。指名手配書はよく見ればトリニティ印だし、きっとハスミ先輩が手配したものに違いない。

絶対帰ったら怒られる。それに、私の顔が広まってしまっている以上、どこにも行けない。

 

「そうだ!ねえユリ、これ付けたら?」

 

「それは……ハロウィン仮装セット?しかも『怪盗クローバー仮面』の。どうしてこれを?」

 

「卸問屋の人が、事情を察してくれたんだよ。自分には着れないから〜って」

 

「有難い、そういう事なら」

 

ジュンコから受け取った衣装を着込み、鏡を見る。胸が少しきつい……なんて事もなく。ピッタリと収まった。

別に胸が小さい事については気にしていない。本当だ。ハスミ先輩やツルギ先輩を見るたびに平らな胸を触ったりしてない。本当だ。

ハルナ、「私には着れませんわね」みたいな目で見るな。無くはないんだぞ。

 

「さて、ユリさんの変装も済んだ事ですし!そろそろ行きましょうか」

 

「そうですね〜、どこ行きましょうか」

 

「ねぇねぇ!D.U.に新しいケーキ屋さんがあるんだって!」

 

「では、ユリさんを送り届けるついでに寄っていきましょうか」

 

私はハルナ達に連れられて漁村から出る。しかし、この時私たちは後ろから睨みつけてくる大きな黒い翼の刺客に気づかなかった。

 

「何か寒気が……風邪かな」

 

私がハスミ先輩に出会うまで──────

 

残り、3日。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。