シャーレの居候は動かない   作:宇沢心経百面曼荼羅

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体調を崩してしまい、投稿が遅れました!すみませんでした!


平和な日々

 

「え?先生の好みを教えてほしい、ですか?」

 

ある休日、突然ダブルオーちゃんに大型ショッピングモールまで呼び出された。しかもミレニアムではなくトリニティのだ。

確かに、トリニティは様々な服飾を取り揃えているが、それでもジャンルは限定される。

 

トリニティでは主に、ベーシックは勿論のこと、エレガンスやガーリーなどを数多く取り揃えている。ダブルオーちゃんの感じなら、ストリート系やミレニアムカジュアルスタイルが似合うと思うのだが。

どうしてトリニティなのだろう?

 

「その……SNSで見たんだよ。すげぇ可愛い連中をさ……あーいう服とか着たら、先生もあたしのこと……」

 

おや、これは?もしかして、もしかするかもしれないな。そういう事なら私にも手伝えそうだ。

先生のパソコンをチラ見した時に見えた先生の検索履歴。あまりに衝撃的すぎていまだに覚えている。

 

そう、あれは三日前のこと。

シャーレで先生の散らかした下着や使った形跡のないマッサージ機などを片付けていた時のことだった。

普段は施錠されている休憩室の鍵が外れていたので、不審に思い中を覗くとパソコンの前で突っ伏して寝ている先生がいた。

 

「先生、こんな所で寝たら風邪を……おや?」

 

パソコンに映る文字の羅列。

「巨乳 バニー」「ロリ スク水」「胸 成長」などなど……。正直ドン引きしたが、中でも一番目を引いたのは「女子高生 足」という検索結果だ。

こればかりは何度も調べた形跡がある。おそらく、先生の好みは……

 

「ダブルオーちゃん、足を強調する服がいいですよ」

 

「あ、足っ!?そりゃなんでだよ。先生から聞いたのか?」

 

「先生の検索履歴から推察しました。もうすぐ5月も半ばですので、私としては涼しめの足を見せつけていくデザインの者がいいでしょう」

 

「…………!ありがとな、ジャスティス!」

 

そう言ってニッコリ笑うダブルオーちゃんを連れて、CCC+やHOBBY ROADの店に入り服を買う。

二人で服を選んで、着せ合いを楽しむという学生らしいことを初めてした気がする。

 

「あっ!見てよ、あれGODIRAの店舗じゃないか?寄っていこう!」

 

「ちょっ、待てよ!あたしは……!」

 

ダブルオーちゃんと一緒にモールを回る。途中で『GODIRA』のチョコクレープを食べながら、二人でたくさんの服を買った。

中等部の時はできなかった青春を今取り返しているのを感じる。しかし楽しい時間というのはあっという間で、気がつくとすでに夕方になっていた。

 

「…………あの、さ。ダブルオーちゃん」

 

「……オウ!また遊ぼーな!楽しかったぜ!」

 

カラッとした笑顔でひらひらと手を振り、駅の方へ向かうダブルオーちゃん。私はその姿を最後まで見送り、楽しかった余韻に浸りながらトリニティの学生寮まで足を運ぶ。

私の部屋に置いてある荷物をちょっとずつシャーレに移送するのだ。

 

「あっ、ユリちゃんじゃないですか!お久しぶりです!」

 

「……ヒフミ先輩!?どうしてここに」

 

「ちょうど良かったです、今度の中間試験なんですけど……ペロロ様のライブが被っていまして。代わりに受けてください!」

 

学生寮に入るなりヒフミ先輩から出しぬけにそんな事を言われる。その返答をする前に、ヒフミ先輩はダッシュでどこかへ行ってしまった。

しばらく呆けていたが、そんな場合ではないと思いヒフミ先輩を追いかける。

 

「わーっ!?追ってきました!あうう、どうしても行かなきゃいけないんですーっ!」

 

「待てぇーっ!この……逃げ足が早い!相変わらずですね!」

 

三十分ほどヒフミ先輩を追いかけていたが、結局撒かれてしまった。羽を震わせてサーチをするも、すでに範囲外に行かれてしまい見つけることは出来なかった。

だが、不審者は一人発見することができた。

 

「あら、見つかってしまいました」

 

「へ、変態………」

 

暗くて顔はよく見えないが、ピンク色の髪をした私よりも色々大きい生徒がトリニティ指定のスクール水着姿で佇んでいた。

理解が追いつかない。5月とはいえ、夜は寒い。だというのにこの変態は水着姿で徘徊している。

 

明らかに異常だ。

 

「そんなに震えないでください……包んであげましょう、色々と❤️」

 

「ヒィ……!この変態が!恥を知れ恥を!」

 

「あんっ!痛いです……❤️」

 

思わず発砲して撃退しようとすると、妙に艶かしい声を上げながら逆にこちらへ突っ込んでくる変態。

ノズルライトをつけてその顔を確認する。

 

「眩しいですね……」

 

「あれ……もしかして、浦和ハナコ先輩?」

 

浦和ハナコ。私が初等部の時でさえ噂をよく聞いた程の秀才。品行方正、容姿端麗にして次期ティーパーティーのホストや派閥長も狙えるという逸材。

少なくとも、私はそう聞いている。

 

「そういう貴女は……えっと、誰でしたっけ?」

 

「私のことなんてどうでも良いですが、浦和ハナコ先輩がどうしてこんな事を?ストレスに耐えかねましたか」

 

ちなみに、トリニティ出身の私だからこそ分かる言葉の裏というものがある。特に、ハナコ先輩のようなお偉いさんのは分かりやすい。

例えば、さっきの「誰でしたっけ?」というのは「貴女なんか眼中にありませんよ」という言葉の裏返しだ。

 

「趣味です❤️こうして夜な夜なトリニティを水着で徘徊するの……意外と楽しいですよ。貴女もやってみては?」

 

どうやら、マトモに話す気は無さそうだ。大方、衣擦れのしない水着のような戦闘服でも着ているのだろう。靴も履かずに歩いている、というのはやはり足音を消すためだ。

 

「結構です。どこへ行かれる予定だったのですか?今は夜の0時……こんな時間から外出とは頂けませんね」

 

「…………………。」

 

「はぁ、趣味だか何だか知りませんが、浦和ハナコ先輩は立場のあるお方なんですから。それに相応しい行いをしてください。寮まで送ります、同行を願えますね?」

 

「────思い出しました。鬼灯ユリさん、ですね?聞けばシャーレの先生を籠絡して、辛さのあまり失踪したと聞いていましたが……帰ってきていたとは」

 

「驚きました。浦和ハナコ()()もあのような下らない噂に踊らされるんですね。少々失望しました」

 

ハナコ先輩が少し怒ったような雰囲気を出し始めたので畳み掛ける。怒った人間はポロッと何かを口走ってしまうものだ。

それが情報を知っている人間なら尚更。

 

「失望、ですか────どうぞご自由に。トリニティに混乱を巻き起こした張本人に失望されても何も感じませんね。おや、プライドが傷付きましたか?」

 

「聞いていますよ、浦和ハナコさん。成績優秀なのですってね。これならばティーパーティー入りは確実、邪魔な勢力を片付けられる……とね」

 

「…………っ!何が分かるっていうんですか。汚い大人に尊厳も誇りも奪われた人間が、私に何を言うって言うんですか?」

 

「何を……ですか。結局、貴女は私達と同じなんですよ。毒蛇の巣に棲む一匹の毒蛇。服を脱いで痴女の真似をしたってその本質は変わりませんから」

 

「…………寮に戻ります。ついて来ないでくださいね」

 

そう言ってハナコ先輩はそそくさと立ち去っていった。最後にどこか昏い表情を見せたが、あれは何だったのだろうか。

次の日、シャーレに戻った私は日頃の日課を終わらせてからオフィスで会計情報の整理をしていた。

 

「相変わらず余計なものばかり買って……」

 

普段から仕事に追われている先生は、ストレスもあってか散財をよくする。タチが悪いのは、それらを経費で落としていると言うことだ。

ゲームの課金、おもちゃ代、それに如何わしいお店の数十万にも及ぶ『飲み物代』。

 

「……はぁ、これは問い詰める必要があるな」

 

当然、予算の私的利用は許されたことではない。私は急いで先生のいる場所───ミレニアムまでキヴォトスエクスプレスを使っていくことにした。

 

「僅か五駅で9000円っ!?詐欺ですよ、詐欺!」

 

「では帰れ!貧乏人を乗せる電車は無いからな!」

 

「この……持ってけ泥棒!絶対摘発してやるからな!」

 

駅員と若干揉めながらも、無事ミレニアムまでたどり着いた。先生は恐らく例のゲーム開発部にいるだろう。

指名手配書が撤廃された今、堂々と大手を振って道を歩けると言うのはありがたい。……が、それでも顔が広がりすぎた。

 

「う、うわぁーっ!?幽霊!非科学存在ぃいーっ!?」

 

「……はぁ、取り憑いてローストチキンにするぞー!」

 

「ぎゃあああああああっ!?な、なぜローストチキンなんだ!」

 

このように、私の顔を見て叫ぶ人々が続出する。

一々混乱を起こしてはどうしようもないので再び仮面を被る。これで立派な不審者に逆戻りというわけだ。

都合の良い隠れ蓑があって良かった。ジュンコに感謝しなくては。

 

「……おや?怪盗くん、また会ったね」

 

「ウタハさん?」

 

「今日はどうしたんだい?暇なら実験に協力して欲しいんだ。この光化学迷彩マントを……」

 

「すまない、今日は先生を探していてな。問い詰めねばならない事があるんだ」

 

「問い詰めないといけない事……ふむ、興味深い。私も同伴しよう」

 

「ご自由に」

 

ウタハさんが同行することになり、ゲーム開発部のある校舎へ向かう。しばらく歩いたあと、商業ビル街へ差し掛かった頃に再び来訪者があった。

ダブルオーちゃんがお洒落な格好をして街を出歩いていた。雰囲気に合っていてとても可愛らしい。

 

「おっ、ジャスティスじゃねえか!見ろよこれ、中々イカしてるだろ?先生に見せに行こうと思ってよ」

 

「ちょうど良かった。ネル、私たちも先生の所へ向かっているんだ。良ければ一緒にどうかな?」

 

その後も、黒い噂の絶えなかった料亭を爆破してきた美食研究会、面白がってどこからか駆けつけてきたトリニティ生数十名、騒乱の噂を聞きつけ、楽しみにきたゲヘナ生百余名、様子を見に来た風紀委員、正義実現委員会、ヴァルキューレ市警合わせて千人ほどが先生のいるゲーム開発部、その校舎に押し寄せていた。

 

「お前たち!!!!見直したぞ、技術や金を独占するブルジョワだと思っていたが……こうして人民が団結し、戦うとは!我ら工務部も協力しよう!」

 

「助かる!皆、突撃ぃいいい!!!」

 

やめろ、勝手に命令を下すな。よく見たらティーパーティー親衛隊の将校じゃないか。銃や装備をここぞとばかりにセールスしている奴もいる。

 

「待て!指揮は私が執る、私は正義実現委員会、【死神】、鬼灯ユリだ!正義は我らのもとにあり!」

 

「お前があの……【死神】!?死神が鬼灯ユリって、どういうことだ!?」

 

こうなったらもう自棄だ。この混乱に乗じて、先生の素行を叩き直してやる。先生を引き摺り出して、如何わしいエッチな店に行けないようにしてやらなくては。

 

「死神は死なる神!我が意志は不滅なり!私が潰えようと、第二、第三の死神がお前たちを勝利へと導く!我が元に続けぇええええ!!!」

 

「「「おおおおおおおおおおおっ!!!!」」」

 

近場にあった真っ赤なバイクに乗り、校舎へ突撃する。その後を大勢の軍勢が押し寄せる。グレネード弾が発射され、建物が半壊する。

いい狙いだ、先生がちょうど見えるくらいの塩梅で壊れてくれた。

 

「"な、何が起きてるの!?"」

 

「先生に次ぐ────。連邦生徒会から横領した予算で何をしていた!答えねばこの校舎を爆破する!」

 

「"もう爆破してるよね!?"」

 

「答えろ、にゃんにゃん学園って何なんだ!そこで何をしていた!」

 

「"んなぁっ!?"」

 

軍団からざわめきが出る。キヴォトスには「にゃんにゃん学園」だなんて学校は存在しない。それどころか、その手の店の名前は大体良くないものだ。

 

「最低……やっぱりそうだったんだ」

 

「私とは遊びだったの!?」

 

「なにっ」

 

どよめきは止まらず、先生は皆に囲まれる。

口々に先生を罵り、蔑んでいる。だがそのどれもが先生の為を思ったものである事は間違いない。

散財、横領、その他諸々の不誠実なこと。それらはここで精算させる。

 

「"にゃんにゃん学園っていうのは……ワイルドハントの子達が立てた同人クラブで……!出資をお願いされて……!"」

 

「先生、その……先生も男性ですから。そういったことは、隠していただきませんと」

 

「"だから違うからね!?"」

 

「……ああ、そういうことか!皆、ここは退くぞ。2人だけにしてやれ!」

 

誰かがそう言うと、ほとんどが引き上げていった。残ったのは私、先生、ウタハさん、ダブルオーちゃん、ハルナだけだった。

私以外、皆怖い顔をしている。どういう事だろうか。

 

「お前ら……そういう、事だったのかよ!」

 

「……これはどういう事かな?」

 

「なぜ皆さん残っていらして?ユリさんと先生だけにするのでは?」

 

「いや、何かを勘違いしているらしい……」

 

「"………なんで、こんな事になったか聞かせてもらおうか"」

 

恐る恐る先生の顔を見る。その顔は、今まで見たことのないくらい怒っていた。

 

 

 

 

 

 

鬼灯ユリ。戦闘力はそこまでないが、その戦果はトリニティの戦略兵器にも匹敵すると言われている一年生。

様々な憶測や噂が噂を呼び、いまやトリニティで彼女の名前を知らない生徒は居ない問題児。

 

「……なるほど、それで私に相談しに来たという訳かい?浦和ハナコ」

 

「ええ。あの子についての正しい情報が欲しいのです」

 

私の目の前に座っているのは、古くからの友人である百合園セイアちゃん。今日は鬼灯ユリについての情報を知りたいのと、日頃の雑談を兼ねて時間を共にしていた。

 

「すまない、私としても鬼灯ユリについては知らない……というのが本当のところなんだ。彼女に関する未来は見た事がない」

 

「……大局に関わってくる事はない、という事ですか。あの性能でですか?」

 

「ああ、彼女は夏の後からその未来が暗黒に包まれていてね。これは分岐か、それとも終わりか。定かではないけれど、どちらにせよ良い未来が待っているわけでは無さそうだ」

 

「………………。」

 

鬼灯ユリの言葉を思い出す。私の過去を知るような発言、そして的確に刺すような一言一言。好ましくはない、というのが本音だ。

しかし話によると、先生を籠絡して意のままにしているらしい。

 

「浦和ハナコ、まさかとは思うが君も例の噂を信じているのかい?あんな荒唐無稽な話を?」

 

「………嘘、なんですか?」

 

「当たり前だろう。第一、先生が誰かに籠絡されるような軟派な人に見えるのかい?」

 

「見えません……」

 

「浦和ハナコ、君らしくもない。さぁ、もう行きたまえ。じき刻限だ、君の夢に現れるのも、これが最後になりそうだ……やる事があってね」

 

「やる事?」

 

周りの景色が薄れていく。もう朝だというのか。

出来るなら、もっと話をしていたかったが仕方ない。

 

「先生を、導かなくては──────」

 

目が覚める。どうやら寝てしまっていたようだ。

今日もいつものように授業を適当に受け、いつもと変わらない、つまらない日常を過ごすと、そう思っていた。

それは、三限目の授業中のことだった。教室は爆風に包まれ、私たちは壁まで叩きつけられる。

 

「ギャハハ!アタシ達はゲラゲラヘルメット団!破壊こそがアタシの楽しみ!トリニティのクソどもを破壊してやるぜ!」

 

まずい、この講座は座学……つまり、誰も銃を持ってきていない。銃さえ持っていれば、こんな連中………。

隣でうずくまっている子が小さな悲鳴と嗚咽を漏らす。正義実現委員会は何をしているのか、これでは職務怠慢にも程がある。

 

「ギャハハ、死ね死ね!」

 

「誰か……居ないんですか、助けに来てくれる、誰か……!」

 

そういった瞬間、暴れていた1人が頭から吹き飛ばされる。静まり返る教室の中に現れたのは、1人の黒衣の生徒だった。

漆黒の襤褸を纏い、フードを目深に被ったその表情は窺い知れない。

 

「ギャハ……!?し、死神!死んだんじゃ!」

 

「死神が死ぬはずないだろう」

 

「た、確かに……!じゃねぇっ!お前ら、やっちまえ!」

 

「う、うおおおっ!」

 

銃弾の雨が死神と呼ばれた人物へと殺到する。しかし死神はひらりと躱し、手から何かを発射したかと思うと、銃を奪いそのまま奪った銃で敵を制圧し始めた。

強い、圧倒的だ。トリニティにもこんな、英雄然とした人がいるなんて。

 

「あ、あのっ!あなたのお名前を教えてくださいますか?」

 

戦闘が終わるとすぐに、私は死神に駆け寄った。死神は少し考え込むと、スッと黒百合を手渡してきた。そしてそのまま死神は破壊された窓の外から飛び出していく。

 

「………そういう、事なのですね。黒百合の君、私は……夢を見てもいいのでしょうか」

 

黒百合の君が、私の退屈な日常を破壊してくれそうな。そんな予感がした。

 

 

 

 

 

 

最近、ハナコさんにやたらと懐かれている。

この間手ひどく適当を言ったつもりだったが、何故だろうか。

先生にこっ酷く叱られ、私が恥ずかしいと思っている事をするように、と罰を受けた。先生はきっと、私が【死神】と呼ばれる事を恥ずかしがっていると知っていたのだ。

 

そう思えば適切な罰にも思えるが、こう、胸の辺りがキュッとなる。

 

「まぁ、またいらして下さったんですね。黒百合の君……」

 

ハナコさんは私の事を黒百合の君と呼ぶ。というより、夢見がちな女の子達は私を大体そう呼ぶ。これは、先生の提案によるものだ。

 

「"助けた子に黒百合を手渡すようにして、私がユリにあげた黒百合を全部渡し終わったらやめていいよ」

 

そう言って渡された三百本の黒百合。それを一日十五本以上のペースで捌いている。

キヴォトス各地を走り回り、人助けをするたびに黒百合を手渡す。感謝を直に言われるのは嬉しいが、大変だ。

 

(絶対終わったらバカンス行く)

 

などと思いながら日々頑張っているのだが、ここ最近は行く先々でハナコさんに出会う。私を手伝っているつもりなのか、出会うたびにお菓子を渡してくる。

糖分やエネルギー源となる食べ物類……おにぎりの方が望ましいが、好意は素直に受け取っておこう。

 

「あっ、ユリじゃない。懐かしいわねその格好」

 

「ジュンコ。お菓子いるかい?」

 

「えっ!?くれるの!?こんなにたくさん!?えへへっ、ありがと!」

 

ジュンコの可愛い笑顔を見てからというもの、私一人で処理しきれないお菓子は全てジュンコに流すようにしていた。

私が【死神】として活動再開してから、十七日が経った。久々に鏡を見たら、今にも死にそうな顔をしていた。

 

「"ユリっ!?ど、どうしたのその顔!"」

 

「あ、先生……。ちょっと無理しすぎまして」

 

「"ユリ、ちゃんと休んでる?最後にいつ寝たの?"」

 

「十七日前……」

 

「"駄目!寝なさい!"」

 

先生に何故かお叱りを受けてしまったので、今日ばかりは休む事にした。先生曰く、ゆっくりとこなさせる予定だったらしい。

だが悲しいかな、私には一日15件解決できてしまう能力があった。

 

「黒百合の君……?少し、疲れているのですか?」

 

「…………放っておけ、君には関係ない」

 

公園で眠っていたところをハナコさんに見つかり、起こされた事実に少々うんざりしながら応対する。

食べ物には困っていない。地下街に行けば、昔助けた人たちが私にご飯をご馳走してくれる。

一番困っているのは、三大欲求のうち睡眠欲だけだ。

 

「その、膝をお貸ししますよ……?」

 

「結構だ。うら若き乙女がそんな事をするな。私はもう行く」

 

膝枕などされれば、顔を覗かれてしまう。ただでさえあまり仲が良くないのだ。余計なストレスを感じる前に退散するのがいい。

睡眠の質が落ちてしまう。

 

「………やっぱり泊まるならトリニティのホテルだよな」

 

高級感のあるバロック様式のホテルにその晩は泊まり、夜を明かした。

結局一日中寝ていたが、久々に充実した一日だった。

 

朝が来て、窓を開ける。

 

「よおし、あと三日!頑張るぞー!」

 

心地よい風と日差しが私を包んでいた。

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