神喰らい(ガチ)   作:喰らえッタ

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「ォォォオオオオオオオオオオオオオオラアァアアアアアアッッッ!!!」

 

 雄叫びと共に、左手で鷲掴みした卵型のアラガミ、ザイゴートを近くに居た他のザイゴートへと投げつける。

 元々耐久性に難のあるザイゴートはそれだけで大きく結合崩壊を起こし砕けてしまう。

 動かなくなったことを確認し、少年は駆けだした。

 多対一の戦闘において、最も避けるべきは囲まれる事。囲まれてしまえば、ソレは最早袋のネズミ。嬲られて殺されるのを待つしかない。

 

 神機と混ざり合うようにして異形と化した左腕。

 ソレは確かに、少年をこの世界に生かす力として成立していた。

 伸縮自在で最大サイズならば中型アラガミをすっぽり掴んでしまえる。更に鋼板だろうと切り裂く鋭い鉤爪。オウガテイルの棘だろうとコンゴウの突進すらも受け止めるパワーと強度。

 何より、その掌にある巨大な口。

 今も、目の前に飛び出してきたコクーンメイデンをその口で一飲みにしてしまった。

 この口は、元の神機としての特徴が色濃く出ているのか、アラガミを捕食する。その一方で、通常の有機物や無機物は喰らったとしても腹の足しにならない。

 利点は、殺したアラガミの死骸を残さずに済む事。そして、彼自身の腹が膨れる事。

 

 アラガミの包囲網を突破して、近く廃墟へと飛び込んだ少年は追撃が無い事を確認して壁に背を預けて息を吐き出した。

 

「はぁーーーー………強くはなっても、真面に人の前に立てねぇや」

 

 参った、と彼は自身の左腕を見下ろした。

 赤黒い筋繊維の束が寄り集まって腕の形を成している。今は右腕と同じ大きさに収まっているが、戦闘開始と共に原形を留めない変形を起こす。

 加えて、この通常時でも力が強い。それこそ、鉄筋コンクリートを素手で豆腐の様に毟れる程だ。

 

 幸いとして生きていく分には問題ない。中型のアラガミまでならば対応可能。大型となると討伐は難しいかもしれないが、その点を少年は心配していなかったりする。

 

(アラガミは共食いを続けると、突然変異する。実際、ゲームにもコア食って自分を成長させ続けた化物も居るし。だったら、この左腕でアラガミを狩り続ければ自然と強くなる筈)

 

 少年は拳を握る。

 この世界で、強いという事は生きる上で必須事項だった。特に、一人で生きていくのなら猶の事。

 何より、異形の左腕を得た結果人間社会から完全に外れざるを得なくなった少年にしてみれば強ければ強いほど都合が良い。

 もっとも、懸念事項が無い訳では無い。

 

(俺が暴走する可能性もあるけどね)

 

 完全にアラガミ化し乗っ取られてしまう可能性。無きにしも非ず、というか少年の見立てでは高確率でアラガミ化してしまうのではないだろうか、という見立てだ。

 それでも、どうしようもない。既に彼は覚悟を決めていた。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 アラガミの宝庫とされる極東。

 その数の多さと、同時に起きる生存競争によって生き残ったアラガミ達は他地方のモノとは一線を画す存在になるという。

 基本的に、そのピラミッドの頂点は大型アラガミの中でも接触禁忌種などが主となる。これらは、アラガミを狩るゴッドイーターも迂闊には手を出せず、もし仮に遭遇すれば逃走する事を推奨される程。

 

「くっそ……!」

 

 異形の左腕を振るい、少年は懸命に抗っていた。

 巨大な口の様な両腕に鬼のような頭部。四本の足と、それから大剣の様な巨大な長い尾を持つ怪物。

 黒い外骨格と、漏れ出る神属性のオラクルが体のあちこちから輝いていた。

 

 スサノオ。第一種接触禁忌種であり、同時にゴッドイーターの成れの果て。

 

 高い戦闘能力と、広大な攻撃範囲を持ち。オマケに神機を優先的に喰らう性質を持つ。

 少年が狙われたのは、その左腕の影響だった。

 

(運がねぇな、オイ!中型位なら未だしも、大型。それもスサノオなんて!真面に戦えるわけがねぇ!?)

 

 今も降り注ぐオラクルの光弾を左腕を巨大化させて防いでいるが、その赤黒い表面は光弾がぶつかるとぶすぶすと黒い煙を上げて焦げる始末。

 反撃に殴り掛かるが、大型のアラガミとしては比較的軟らかい方であるその黒い装甲も実力差のせいか真面に打撃を与える事も出来ていない。

 じりじりと追い込まれている。その果てに待つのは、捕食という名の死、だろう。

 

「…………ふざけるなよ」

 

 自身の死を明確に感じ取ったからか、少年の目の色が変わる。

 彼は死にたくないから(神機)を手に取り、そして(左腕)を得た。

 この世界は、理不尽だ。そして、理不尽とは到底太刀打ちする事は出来ない物。しかし、そこで諦めてしまえば、待っているのは凄惨なる終わりのみ。

 

「死んで、たまるか…………!!」

 

 左拳が握られる。

 とはいえ、唐突にその力が跳ね上がる訳では無い。感情の高ぶりは力に成れども、その限界は確かにあるのだから。

 であるのなら、どうするか。

 

 答えは簡単――――喰らえばいい

 

 少年は踵を返すと、スサノオから離れるように駆け出した。

 当然ながら、自身の御馳走を求めてスサノオもその後を追う事になる。

 その巨体などを加味して、軍配はアラガミに挙がるだろう。少年もそのことは理解している。

 彼が逃亡、いや戦略的後退を選んだのは、生き残るため。

 その意思を反映するように、彼の左腕は巨大化。その大きくなった掌には口が現れ、駆けながら道行く全てを喰らい始めた。

 土を、石を、僅かに残る草を、瓦礫を、廃墟を、そしてアラガミを。

 ただ只管に喰らいまくる。

 オラクル細胞というのは面白いもので、その形質をほとんど変える事無く環境へと適応する。

 その方法というのが、環境を喰らう事。

 寒冷な地ならば、雪や氷など。逆に溶岩地帯となれば、マグマや溶けた様々な物体。

 喰らう事で情報を得て、その形質を集合体として再現する。

 

 しかし、少年が今しようとしている事は少し違う。

 彼はアラガミとしての明確な“進化”を求めていた。言い方を変えれば、強化を求めていたのだ。

 小型も中型も関係ない。いや、そもそも明確な対象を定める事無くただ只管に喰らい続けるのみ。そして、その食欲に限界はない。

 

 どれ程走っただろうか。目につくありとあらゆるものを、喰らって、喰らって、喰らって。

 

「…………ッ!」

 

 唐突に、少年は地面を滑る様に止まりつつ、反転。

 振り被るのは、左拳。腰の捻りと共に、右ひじを引き手として勢いよく突き出した。

 伸びる左腕は、突き進むごとにその大きさを加速度的に増していった。

 追いかけていたスサノオへとぶつかる頃には、スサノオの巨体を一掴みに出来るであろう大きさにまで肥大化していた。

 

 黒い甲殻が、着弾した拳に耐えきれず亀裂を走らせる。

 この後退劇で少年が左手で喰らったのは、ビル二棟、家屋二十三件、自然物複数、小型アラガミ四十八体、中型アラガミ三十三体、大型アラガミの死骸複数。

 これらを喰らった左腕は、加速度的に成長を果たしていた。そこに、少年自身の危機への抵抗と力の渇望が組み合わさる事でより強靭に、そして巨大化を可能とする。

 

 勢いのままにスサノオの身体は押されていき、近くの原型を残した廃ビルの壁面へと激突。大きな粉塵と共に、ビルは倒壊していく。

 

「ッし!良い感じだ」

 

 引き戻し、元の大きさに戻った左拳を握る少年。

 手ごたえを感じていた。後数発も殴れば、スサノオであろうとも粉砕できるだろう、と。

 

 ほんの僅かな、気の緩み。

 

「…………ん?」

 

 舞い上がっていた粉塵の向こうに淡い、桜色のような色が見えた。

 直後、

 

「ぐぅぅぅ!?!?」

 

 飛んできた巨大な光弾が少年を襲う。

 咄嗟に左腕を盾にするが勢いは殺しきれず、その体は大きく吹き飛ばされて近くの家屋を数件突き破って岩壁へと叩きつけられていた。

 

 倒壊したビルの瓦礫を掻き分けて、甲殻に亀裂を幾重にも走らせて、瓦礫の隙間から神属性のオラクルを溢れさせつつ、スサノオが這い出して来る。

 複数居る接触禁忌種のアラガミの中で、スサノオの外骨格は決して堅牢ではない。特に、尾の剣と両腕の神機はゴッドイーターから見て攻撃力はすさまじいがその一方で結合崩壊を起こしやすい部位と言えるだろう。

 だが、壊れやすいからと言って、()()()()()()()()()()

 

 今この瞬間、スサノオは生存本能を爆発させる。そしてこの本能に感化されたオラクル細胞が尋常ではない活性化を見せていた。

 溢れ出たオラクルが宛ら桜吹雪の様に散り、更に亀裂の端った甲殻の隙間からはオラクルが宛ら鬣の様に噴き出している。

 そして何より、最大の武器である尾の剣と両腕の神機がより凶悪に、そしてこちらも過分なオラクルによって強化されていた。

 

 極限化スサノオ、とでも呼ぶべきか。自己崩壊と自己強化の瀬戸際で、時間経過で前者へと転がり落ちてしまいそうな最悪の状況。

 

 だが、生存本能が爆発したのは、何もスサノオだけではない。

 

「がァああああああああ!!!!」

 

 巨大な左腕が瓦礫を突き破り、少年が飛び出してきた。

 目がキマッテいる。理性のタガが外れて、生存本能と闘争本能の二つが剥き出しとなっている。

 

「喰ってやるよ、サソリ野郎ォォォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 弱者淘汰のこの世界。強い者だけが、生き残る。

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