神喰らい(ガチ)   作:喰らえッタ

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 ここ最近、極東ではとある現象が起きている。

 

 曰く、討伐目標であった大型アラガミが既に討伐されている

 

 曰く、バラックを襲ったアラガミの群れが壊滅している

 

 曰く、上記の近辺では観測された事のないオラクル反応が見られる

 

 

「フーム、実に興味深いね」

 

 ペイラー・榊はその細い目をモニターへと向けながら忙しなくキーボードへと指を走らせる。

 目下彼の興味を惹くのはとある現象に対するもの。いや、彼は決してこの件を超自然的な何か、とは露ほども考えていなかったが。

 キーボードを叩く音が響く部屋。エアロックが解除されるような音と共に、扉が開かれる。

 

「よお、博士。来たぜ」

 

 入ってきたのは、男女三人。

 雨宮リンドウ、橘サクヤ、そしてソーマ。このフェンリル極東支部の第一部隊に所属する神機使いである。

 彼らの入室に、榊は顔を上げる。

 

「やあやあ、第一部隊の諸君。悪いね、忙しいだろうに」

 

「世間話に呼んだ訳じゃないんだろ?」

 

「うん。折角忙しい君達が時間を作ってくれたんだ。単刀直入に言うと、君達第一部隊にはここ最近よく観測されているとあるオラクル反応を追ってほしい」

 

「オラクル反応……それって、大型アラガミがゴッドイーターの行く先々で討伐されているって話、ですよね?」

 

「その通り。こちらの人員が削られないのは嬉しい事だけど、そう手放しに喜べるような事でもないんだ」

 

「どういう事だ?」

 

 ソーマの問いに、榊はキーボードに指を走らせ複数あるモニターの一つを三人へと向ける。

 

「ここ最近の撃破報告があるアラガミに関するデータだよ。これを見て、気付く事はないかい?」

 

 榊にそう言われ、三人はそれぞれに画面へと視線を向けた。

 写真も無い文字だけの無機質な表。討伐されたアラガミとそれから討伐日時と場所など最低限の情報が載せられただけの内容。

 顎に手を当てて、首を傾げたサクヤが気付く。

 

「…………接触禁忌種が、増えてる?」

 

「その通り。ヴァジュラやボルグ・カムランのような通常大型アラガミも含まれているが、圧倒的に接触禁忌種の比率が高い。第一種、二種を問わずにね。逆に通常の大型アラガミに関しては、狩場の近くに発生した時に狩っている印象だ」

 

「危険なアラガミが減って万々歳、って訳じゃなさそうだ」

 

「そうだね。こうまで危険なアラガミを連続で討伐する事が出来るという事は、裏を返せばそれだけ強大な何かが、こちらの探知網を搔い潜って動き回っているという事になる。そこで、今回君達にはこの動き回っている何かの調査を任せたい。これは、支部長であるヨハンからも許可をもらっているよ」

 

「探るのは良いが、当てはあるのか?」

 

「確定ではないけどね。あちらこちらに移動してはいても、その速度自体はハッキリ言って特筆するほどじゃない。この部分を見てくれると分かるけど、恐らく対象の移動手段は徒歩、ないしは地上を移動するものだと思う。現に、アラガミの討伐例は空きがあれども、ほぼ直線的だからね」

 

 榊が示す様に、確かに討伐報告と地図を組み合わせるとほぼほぼ直線的な時系列であり、いきなり大きく場所が飛ぶことはない。

 

「この統計から、恐らく次に現れるのはこの辺りだ」

 

「鎮魂の廃寺、か」

 

 雪降り積もる信仰の跡地。

 強力なアラガミも多数出現する危険地帯でもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オラクル細胞の出現から一般兵器は、彼らのエサにしかならない。しかしその実、未だに有用な攻撃手段というものも確かに存在していた。

 その一つが、大質量による物理的な粉砕。

 

「逃げんな、クソ猿ゥゥゥゥゥ!!!」

 

 黄金の肉体に、赤い羽衣と割れた顔面を持つゴリラのような見た目のアラガミ、ハガンコンゴウ。

 コンゴウ神属に属する接触禁忌種、雷属性を自在に扱いその剛腕とずんぐりとした体形からは考えられない機動力を持って暴れ回る。

 ただ、恐るべきは個の戦闘力だけではない。彼らは同種並びに下位のコンゴウ神属を率いた群れを形成するのだ。

 その数の暴力は、熟練のゴッドイーターをして恐ろしいと評するほど。

 

 もっとも、今回ばかりは相手が悪すぎたが。

 

 ハガンコンゴウの身体を覆って余りある巨大な拳槌が襲い、その金色の身体は勢いよく大の字に雪原へと叩き潰される事になる。

 持ち上げられる赤黒い筋が凝縮したような拳。その後には体の大部分を結合崩壊を起こして死に体のハガンコンゴウが転がっていた。

 その黄金の身体を覆い隠す様に、広げられた掌が被さり掌に在る巨大な口が禁猿を丸のみにしてしまった。

 

 雪降る周りを見渡して少年、いや青年は一つ息を吐き出した。

 

「この辺りは、喰い放題だな。猿ばっかりだけど」

 

 ハガンコンゴウを食べ終えて、左腕を元に戻す。

 数年経った、という訳ではない。これは偏に、適者生存、弱肉強食の世界を駆け抜けた結果によるもの。

 

 あの日、スサノオとの戦いを制し、その身をコアからオラクルの欠片の全てを喰らった少年は生物としての位階を数段飛ばしで駆け上がる事になった。

 単純なフィジカルのみならず、左腕の強度、巨大化の範囲、そして()()()()

 これらを駆使して更に強大なアラガミを多数喰らい続けた事によって、その痩せた栄養失調の身体も大きく成長。

 年齢は、未だ一桁であるが、肉体の見た目は十代後半か二十代前半といった所。精神年齢にはまだ届いていないが、それでも動き回るのに支障のない体となった。

 身に纏うのは、左袖の無いパーカーと、穴の開いたワークパンツ。それから申し訳程度のサンダル。

 別に素っ裸でも支障はないが、そこは最低限の人類としての尊厳。

 

 周辺のアラガミを一掃し、彼はこの地で原形を留める廃屋の一つへと足を踏み入れた。因みに、青年はよっぽどの場所でなければどこにでも入り込める。その為の、左腕だ。

 廃屋は、昔の日本家屋の様に中央に囲炉裏が存在していた。囲炉裏の脇に膝をついて、そこに幾つかの乾燥させた廃材を置き、青年は左手の人差し指をその山へと向ける。

 オラクルの性質を変化させ発射するのは火花のようなオラクルバレット。

 威力は木の枝を折る事も出来ない程だが、その一方で燃え上がった炎は小さな火種となって廃材へと宿り、ゆっくりと燃え上がり始める。

 

 体が一気に成長してから、青年の身体は熱の変化などにも耐性のあるものとなっていた。今も、雪の中で薄着でもくしゃみは愚か身震いの一つも起きない。

 だが、だからといって五感が機能していない訳ではない。温感も同じく。

 

「…………はぁ」

 

 囲炉裏の前に胡坐をかいて座り込み、手を炙る。

 じんわりと温かくなる指先に、冷え切っていた事を改めて感じ取る。

 火の恩恵を受けるのは、ある意味で人類の特権だろう。野生の獣は火を恐れ、アラガミは火を暴力として振るう。

 指先が温まった所で、青年は左腕へと視線を落とす。

 

 人間としての腕の形を象りながら、その構成内容は純度百パーセントのオラクル細胞。左手の甲にはコアが輝き、それ以外は肩口に至るまで赤黒い剥き出しの筋肉のようなもので構成されている。

 

「ふぅ……」

 

 小さく息を吐きながら、目を閉じる。

 すると左腕が、一瞬だけギュッと人の形を失って肉の棒の様に変化した。

 手の甲に在ったコアが一気に肩の辺りまで移動し、肉を突き破る様にして二股に分かれた巨大な赤黒い刃が突き出してきた。

 中央に空白のある二股に分かれた大剣と言うべきか。その大きさは、ゴッドイーターの振るう剣形態の一つ“バスター”に迫る。

 更に刃が形成されると同時に、前腕を上下で挟むようにして六角形を真っ二つに割った様にこれまた赤黒い装甲が現れていた。

 

 青年の左腕の変異は、神機に触れた事に端を発する。だからだろうか、形態変化は喰らったアラガミや無機物ではなく神機としての特色が大きく表れていた。

 もっとも、彼の場合はこの左腕が剣形態であり、同時に砲撃形態でもある。元々第一世代神機を基盤とするとはいえ、青年は多くのアラガミを喰らった。自然、オラクル細胞は自身に必要な要素を取り込んで、より効率よく、そして効果的な変化を遂げていき、今に至っている。

 

 再び元の左腕の形態へと戻して、青年は両手を火へと翳した。

 剣形態の左腕は、現状における彼の切り札だ。そしてこれこそが、今まで接触禁忌種を相手取って彼が五体満足で生き残れている理由でもある。

 

 オラクル細胞には、ある一定の段階を超えると“偏食”の性質を発現する。要は、何でも捕食可能なオラクル細胞が、ある種類のエサ以外食べなくなる。食べる事は可能だが、限りなく避けるという事。

 神機やアラガミ装甲は、この偏食性質を利用して運用されている。

 

 そして、この性質を青年の左腕は有していた。

 

 彼の腕はアラガミにとって只管に不味い物なのだ。食えたものではないのだ。

 例外としては、神機を積極的に捕食するスサノオ位か。これを除けば、ある意味で特効兵器を持っているという事。

 

 しかし、問題はある。火を眺めながら、青年が考えるのはこの世界の事。

 

(まず間違いなく、俺の動きはフェンリルにバレてる筈。最悪なのは、出鱈目極東人のトップクラスである主人公含めた第一部隊から問答無用で討伐される事)

 

 一応、青年自身はそんじょそこらのゴッドイーターに負けるとは思わない。内心の状態は無視して、一方的に虐殺する事も出来るだろう。

 だがしかし、その一方で主人公含めた第一部隊は割と化物揃いである事も知っていた。特に主人公。

 この世界に、その主人公に該当する人間が現れるのかは不明だがぶっちゃけ彼、或いは彼女が居ないと冗談抜きに世界は滅ぶ。

 青年が代わりの動きを出来ない事も無いが、まず間違いなく悲劇が増える。それこそ、フェンリル極東支部の内部における情勢には化物と化した己では立ち入れないと考えていた。

 

(割と真面目に、アリサは廃人になるだろうし、ソーマは孤独なまま。リンドウさんも居なくなってからサクヤさん発狂するんじゃないか?それで一人で飛び出して、そのまま死んでそうだもん。コウタも危ない場面が何度かあった気がするし、それで第一部隊が壊滅すればそのまま極東支部もサヨウナラってね。シャレにならねぇ)

 

 生きる事に全てを注いできた青年だが、余裕が出来たここにきて欲が芽生えた。

 世界が滅びる様を見送るのも忍びない。それから、実際にキャラと相対したいとも思っていたりする。

 

(ワンチャン、シオみたいに保護枠に入れないか……?)

 

 青年の立ち位置は、事故の産物だ。だが、希望的観測はあまりしない方が良いだろう。

 

 オラクル細胞を制御した人間。その時点で厄ネタ。実験動物(モルモット)扱いは避けられないのだから。

 

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