神喰らい(ガチ) 作:喰らえッタ
踏み締める雪に足跡が三つ刻まれる。
「相っ変わらず、ここは寒いな。さっさと済ませて、熱いシャワーを浴びたいもんだ」
「ヒバリちゃん?周辺のオラクル反応はどうかしら?」
『特に反応はありません。ただ……』
「ただ?」
『現在の鎮魂の廃寺と呼ばれるエリアの周辺含めて小型アラガミの反応すらありません。恐らく、榊博士の言う標的が周辺アラガミを一掃してしまったのかと』
「この辺一帯には、コンゴウ系が多い。恐らく大規模な戦闘音に誘われて出てきた所を潰したって所じゃないか?」
オペレーターである竹田ヒバリの報告を聞きながら、リンドウはそう結論付けた。
多種多様なアラガミは、その気候や地形に適応すると同時に五感に関してもそれぞれに進化している場合があった。
件のコンゴウ系は、目こそ普通だがその一方で音に敏感。そして、大きな音が鳴るとそちらを確認しに行くという習性を持っていた。
神機を担ぎ上げて、リンドウは顎を撫でた。
「もう移動しちまった可能性もあるのか」
「厄介ね。そもそも、そのオラクル反応の持ち主はどんなアラガミなのかしら?」
「うーん……アレじゃないか?ほら、正義のヒーロー。みたいな?」
「くだらない事言ってないで、行くぞ」
バッサリとリンドウの言葉を切って、ソーマは先を行く。
ただ、当ても無く探すのは得策とは言えない。鎮魂の廃寺も決して狭くはないのだから。
「分かれて探す?」
「いや、一塊の方が良いだろ。相手は接触禁忌種を単体でぶっ倒してる奴だしな。最悪なのは、俺達が各個撃破される事。とすれば、纏まって動いた結果本体を取り逃がす事になっても小さな痕跡を見つける方が遥かに良い」
おちゃらけた様に見えても極東最強の第一部隊を率いる隊長だ。
リンドウの判断に他二人も頷いた。そこで、再び通信が入る。
『リンドウさん!付近でオラクル反応が現れました!』
「おう、了解。場所は?」
『皆さんのいる地点から北西部に一キロ進んだ辺りに在る家屋の様です!』
「了解。そちらに向かう」
通信が途切れ、三人は頷くとゴッドイーターのフィジカルをもって駆けだした。
*
「チッ……!長居し過ぎた!」
「ひっ……!」
「アンタらも、動くなよ!?当たっちまうからな!!」
居住区の外で人類が生き残る事は、かなり難しい。アラガミもあるが、ソレと同じく牙をむくのが気候状況。
アラガミの出現から各地は異常気象に見舞われている。ここ鎮魂の廃寺も年がら年中雪が降り積もり、溶けない。
何より、アラガミもそうだが人間同士の諍いというものもある。
如何にフェンリルが暫定的な統治を行っていようとも、全てに目を配れるわけではない。居住区自体にも限界があり、そこから焙れながらそれでもゴッドイーターの恩恵を受ける為に出来上がったのが外部居住区だ。
だが、外部居住区自体もやはり限界がある。そしてそこから追い出された者達は、互いに身を寄せ合い。そして数少ない資源を奪い合う。
もっとも、今回左腕が異形と化している青年と出会ったのは四人家族であったが。
彼らが追われていたのは、ヴァジュラと呼称される巨大なトラのような赤いマント状の器官を有した大型アラガミ。
それが二体。加えて、青いマントのような器官をもつ体は虎で顔面は女神の彫像のような能面のプリティヴィ・マータが一体。
(クソッタレ!!群れだろうが、俺一人ならどうとでもなるってのに……!)
チラリと横目に後ろを確認しつつ、青年は突っ込んできたヴァジュラを巨大化させた左腕で突っ張って吹き飛ばす。
主に戦闘力ではなく、その知能が。
群れを率いるタイプのアラガミは、そのトップないしはナンバーツーの立ち位置に位置する事が多い個体は知能が高くなる。
この群れは、プリティヴィ・マータをトップとしたもの。その動きは、複数頭のヴァジュラが獲物を追い立て、仕留める。苦戦すればプリティヴィ・マータが後詰を行い、もし仮に自身も危険に陥ったならば、
非常に狡猾だ。加えて、獲物を甚振って殺そうとする辺り、かなり悪辣。
青年としては大きな動きは取りづらい。大きな動きとはイコールとして、周辺被害も度外視した動きであるという事。統率した相手の場合、この大きな動きの隙をついて庇う四人家族を襲いかねない。
(幸い、俺の左腕を警戒してボス猫は突っ込んでこない。でも、デカい動きをしてそのまま左腕を押さえ込まれたら、アウトだ。かといって武器モードじゃ、広い範囲の防御に向かない。せめて、射撃形態がスナイパーかアサルトなら良かったが……ブラストじゃあ、な)
近付いてくるヴァジュラの片割れを左腕を振って牽制し、更に突き飛ばされたもう片方を再度突き飛ばしてダウンさせる。
(微妙に、左腕の射程距離が測られてるな?本当に、頭のいいボス猫だ)
伸縮拡大縮小自在の左腕だが、だからといって最大サイズから最小サイズまで一瞬でサイズ変更できるわけではない。
故に、基本的に彼は射程距離二十三メートルを順守する。一定の大きさの腕を振り回す事が可能で、尚且つ懐に飛び込まれたとしても左腕の防御を間に合わせる事が可能な距離を、だ。
じりじりと後退しながら、相手の隙を窺う。
(焦れる、ないしは諦めてくれれば良し。今この場で仕留める必要はない)
既に青年に四人を見捨てるという選択肢はない。もし仮に放り出してヴァジュラたちのエサにしたとしても咎める者はいないというのに。
これは、彼自身の矜持の問題だ。
今ここで、彼らを見捨てれば彼は心身ともに化物になってしまうだろう。そして、化物を打倒すのはいつだって
そして、人間として抗うからこそ、救いの手は差し伸べられた。
「ッ!」
走るオラクルの光。炎属性の狙撃レーザーが、ヴァジュラの一体。その脇腹を貫いた。
同時に、二つの足音が二体のヴァジュラへと襲い掛かる。
「ソーマッ!そっちは任せた!」
「潰れろッ!!」
得物である神機を振るい斬りかかる二人。そしてこの瞬間、プリティヴィ・マータは撤退を選択していた。
知能の高さ。一目散に逃げようと踵を返し、その直後に下半身を再び走った炎の狙撃レーザーが襲う。
活性化を起こす前は比較的脆い胴体の結合崩壊が発生し、プリティヴィ・マータは大きく仰け反った。
それは、大き過ぎる隙だ。
「オッルァッッッッ!!」
駆け込み踏み込んで、振り被った左拳を突き出す青年。
伸びた腕は、瞬く間に巨大化しプリティヴィ・マータの身体を完全に隠す程の大きさの拳となったぶち込まれる。
そのまま伸び続けた腕は近くの岩壁にまで突き進み、プリティヴィ・マータごと粉砕してしまった。
潰れ、結合崩壊を起こす女帝虎。そこを、青年は逃す事無く掌の口で喰らいつき、その巨体ごとコアを捕食してしまう。
バリバリと無惨に砕けた岩壁ごとプリティヴィ・マータが捕食される一方で、二体のヴァジュラもまたアッサリと撃破されていたりする。
ここ極東において、ヴァジュラを討伐する事で漸く一人前とされる。
故に、この場に現着した第一部隊の面々にとっては複数体だろうが何の障害にもならないのだ。
瞬く間にコアが捕食されてその形を崩壊させていくアラガミの残骸たち。
かくして役者は出揃った。
*
離れていくヘリコプターのローター音。
その音を背に、石垣の縁の上に腰かけた青年は遠くを眺めていた。
そんな彼の隣に誰かがやって来る。
「よお、お疲れ」
「……」
神機を肩に担いだリンドウだ。
原作キャラの登場に内心で喜びつつも、青年は努めて冷静な態度を保っていた。
「てっきり、あのヘリに一緒に乗って帰るものだと思ったんだが?」
「いやいや、確かに一般人の保護も仕事だけどな。今回は別件だ。お前も、分かってんだろ?」
「コレの事だろ?」
持ち上げた左腕。赤黒い、グロテスクな皮膚の無い剥き出しの筋肉の束の様な見た目の人外の腕。
長い間ゴッドイーターとして前線を張るリンドウは覚えがあった。
「侵食だな。だが、それでなんでお前さんはアラガミ化してないんだ?」
「さあ?」
首を傾げる青年だが、
強いて挙げれば、彼の精神力がオラクル細胞の意思をねじ伏せた事だろうか。それにしたって
「どうするんだ?ゴッドイーターさん。俺を殺すか?」
「……」
青年の問いに、リンドウは答えず。代わりに、ポケットから煙草を取り出して一本咥えると火をつけた。
紫煙が冷たい空気の中に揺れる。
「……まあ、何だ。一部隊の隊長としてはお前さんを仕留める必要はあるだろうさ。実際、ゴッドイーターには介錯する人間もいる。というか、ゴッドイーターを知ってるんだな?」
「左腕がこうなる前は、俺も人間生活はしてたんでな。いろいろ言われちゃいるが、人類が殆どギリギリで持ちこたえてるのも、フェンリルとゴッドイーターが居てこそだろ」
「お前もなるか?」
「まさか。今でこそ安定していても、いつ俺が暴走するかも分からないんだぞ?その提案は正気じゃないだろ」
「いやいや、俺の勘じゃお前は大丈夫!って出てるから」
「勘……ハァ……無理矢理拘束する気が無いのなら、俺はもう行くぞ」
尻に着いた雪を払いつつ、青年は立ち上がる。そんな彼の背に、リンドウはもう一つだけ言葉を投げかけた。
「ああ、一つ聞かせてくれ」
「なんだ?」
「お前の名前は?」
「名前……」
リンドウの問いに、青年は顎を撫でた。
如何せん、スラムの出身である彼にとって名前というのは記号に過ぎず、そもそも名乗るという行為もしないのだから必要性が無かったのだ。というか、親が居ないのだから名付けてくれる者も居ない。
少し悩みつつ、原作キャラと被らない様に頭の中で文字をひっくり返す青年。
「……ドグ。ドグ=ターエア」
「ドグ?それが名前か?」
「今付けた。元々、名付け親もいないんでな」
それだけ言うと青年、ドグはその場から飛び降りてしまった。
その背を見送る形になったリンドウは、咥えていた煙草を落として踏み消すと、徐に胸ポケットに入れていた端末を手に取った。
起動する画面。そこに映るのは、先程のドグとのやり取りだ。
「気付いてたっぽいよな、アイツ。最後、一瞬だけカメラ目線になってたし」
動画に不備が無い事を確認して電源を落とし、リンドウが考えるのはドグと名乗った青年について。
もし仮に戦闘に発展していた場合、勝てたかどうか。
(伸縮自在の左腕。ただそれだけじゃない。アレは、俺たちにとって神機みたいなもんだ。要救助者四人を庇いながら、接触禁忌種のプリティヴィ・マータ一体と、ヴァジュラ二体を押さえ込んだのはアイツ自身の力量か。何より、あのリーダー格の一体は明らかに手練れだった。ゴッドイーターでも苦戦しかねない)
不穏分子である事は確か。しかしその一方で、どんな力であれ誰かを守ろうとしている姿勢もまた事実。
(とりあえず、博士と話し合うとするか)
悩みの種は尽きる事が無い。