上弦の鬼たちは月姫世界に転生したようです。   作:白澄星火

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転生編
第1話:上弦の弐 VS 埋葬機関七位


1-1:代行者

 

"とっととくたばれ糞野郎"

そんなことを、しのぶちゃんに言われたっけ。

 

(でも残念だったねしのぶちゃん)

 

俺は、生きていた。

確かに、地に足をつけて。

夢かと思って、頬をつねったり指を斬り落としたりしたが、覚めることはなかった。

 

(・・・でも、此処はどこだろうか?)

 

意識を得たのは、つい先ほどのことだった。

 

(確かに俺は、地獄に堕ちた。そのはずなんだけどな)

 

気付いたら"此処"にいた。

眼前に広がるのは、地獄とは程遠い平和な場所。

 

空を見上げれば、月が出ている。

間違いなく夜だ。

 

でも、あまり星は見えない。そこら中に明かりが灯っているからだろう。

よっぽど進んだ文明のようだ。

 

(・・・日本ではないよね?)

 

本で見た、英吉利(えいぎりす)だろうか?

 

それにしても良いところだ。

物乞いもいないから、とっても静かだし。

 

そんなことを考えながら、街灯に照らされた閑静な住宅街を歩く。

行く当てもないのに、なぜだかこの国のことをもっと知りたくて、勝手に足が動く。

 

(あと、しのぶちゃんにも会えないかな)

 

──────生まれ変わりなんてある筈も無い。

以前の俺だったらそんな風に否定し、馬鹿馬鹿しいと切り捨てただろう。

 

でも、俺は見た。"地獄"を。

本当にあったんだ。

 

だからきっと、生まれ変わりもあるんじゃないかと思うようになってしまった。

 

(・・・あったら良いな。ね、しのぶちゃんもそう思うでしょ?)

 

そんな色惚け丸出しな考えに耽っている中、向こう側からこちらに歩いてくる人影が見えた。

 

(・・・人だ。女の子、だね)

 

十代半ばくらいの女の子だった。

 

(なんでこんなところを歩いているんだろう?)

 

彼女は修道着に編み上げブーツと、特徴的な装いだった。

だが、それらは不思議と調和がとれている。

 

(きりしたん、というやつだね。それにしても綺麗な子だなあ。)

 

青みがかった髪は全体的に短いが、耳のあたりを伸ばしているようだった。

さらに、真ん中分けでおでこを出していたため、思わずしのぶちゃんと重ねてしまった。

 

瞳は髪色と同じ青。

それと、目鼻立ちがくっきりしており、東洋人離れした容姿だった。

 

やはりここは日本ではないのだろう。

 

そしてなにより、俺は彼女に対して、"綺麗だ"なんて見惚れてしまった。

俺はあの一件からおかしくなっているのかもしれない。

 

(・・・でも、俺は鬼だ)

 

人を食べる。これだけは変わらない。

 

こんな綺麗な女の子を前にしてやっぱり俺の胸を支配するのは、"殺して食べる"ことだった。

 

「やぁやぁ、良い夜だねぇ」

 

「・・・」

 

「おっとごめんごめん。いきなり日本語で話しかけられても吃驚(びっくり)しちゃうよね。ごめんね。最後にお話ししたかったけど、諦めることにするよ。それではさよなら。素敵なお嬢さん」

 

その言葉の後、俺は彼女に爪を振り下ろす。

そしてこのまま彼女は殺され、食われ、俺の一部として生き続ける。

 

そのはずだった。

 

──────ズドン!

 

(・・・ッ!?)

 

強い衝撃を受けると共に、俺の身体は道沿いの壁へめり込んだ。

 

予想外の反撃。

しかし俺は冷静さを失っていない。

 

(すぐに相手の次の攻撃に備えないと)

 

しかし、俺は半歩すら前に踏み出すことが出来なかった。

自分の身体に目を向けると、両の腕と心臓に剣が刺さっていることに気づく。

 

(この剣で俺を壁に縫い付け固定したのか)

 

さらに彼女の攻撃は続く。

 

チリ、と焼けるような痛み。

 

俺は一瞬にして、この攻撃が鬼にとって致命的なものだと理解した。

 

──────熱い。

 

まるで太陽に焼かれているようだ。

このまま動けずにいれば、待っているのは一方的な蹂躙。

なんとかしないと。

 

(・・・仕方がない)

 

俺は二対の扇を出すとともに、とっておきの技の名を響かせる。

 

「血・・・鬼術 霧氷・・・睡蓮菩・・・薩・・・」

 

道沿いの壁ごと破壊しながら現れた氷の仏像。

近くにいるだけでたちまち氷漬けになるほどの冷気が、俺の身体を冷却する。

 

すると、だんだんと楽になってきた。

さらに、両の手が自由になったため身体に刺さった剣を一本ずつ抜いていく。

 

「いやあ、久しぶりだよ。最初からこの技を出さないといけない相手は」

 

正直、完全に油断していた。

この子、柱だろうか?

でも、血鬼術を使ったようにも見えた。

 

どちらにせよ、早く殺したほうが良さそうだ。

 

俺は二対の扇を重ね合わせた後、ゆっくりと開く。

 

「結晶ノ御子」

 

──────6体。

俺の姿を模した小さな氷の像。

 

霧氷・睡蓮菩薩とこの子たちを同時使用したのはこれで二回目。

前回は入れ替わりの血戦だったかな。

 

(悪気はないんだけど、この技を出した状態であれば無惨様と黒死牟殿以外には負ける気がしないんだよね。)

 

召喚から間髪入れずに、6体の結晶ノ御子から一斉に放たれる粉凍り。

さらには念押しで睡蓮菩薩の口から放たれる冷気は前方の住宅二、三戸軒を丸ごと飲み込む。

 

(・・・さすがにやりすぎたかな?)

 

霧が晴れるのを待つ。

 

(さて・・・さすがに今ので氷漬けになっただろう)

 

その刹那、背後に感じた殺気。

それは、あたりに漂う冷気よりも鋭く俺の身体を凍てつかせる。

 

振り返りざまに、右腕に握った扇を横薙ぎに掃うが、風を切る音が響くだけ。

そして、直後に瞳に映るのは血しぶきを上げながら宙を舞う俺の右腕。

 

一瞬、その光景に目を剥くがすぐに、右腕を斬られたのだと理解する。

 

(だけど、俺もただ黙って右腕を差し出すほど馬鹿じゃないよ)

 

霧が晴れ、結晶ノ御子の視覚情報を使えるようになれば、すぐに相手の位置を把握できる。

 

(・・・上か)

 

──────ざんっ

 

残った左手で扇を振れば、この手にしっかりと、肉を割いた感触を得た。

 

だが、俺は攻撃の手を緩めない。

 

睡蓮菩薩の手のひらが彼女の身体をはじく。

まるで虫を叩き落すかの如く。

 

すると、鈍い音と共に彼女の身体は吹き飛ぶ。

そして、勢いよく道路へ叩きつけられると、凍り付いた彼女の身体は砕け散った。

 

さすがに死んだだろう。

だが念のため、結晶ノ御子を彼女の元へ向かわせ、状態を確認させる。

 

すると、結晶ノ御子を通して俺の視界に映った彼女は、右半分を失ったただの死体だった。

 

(・・・ふう。ヒヤリとしたよ)

 

強敵だった。

それこそ、上弦に匹敵するほど。

 

(大切に食べてあげよう)

 

水連菩薩と結晶ノ御子を解くと、ばしゃりと水に戻り、道路脇に流れていった。

 

そして地面に足をつけ、彼女の元にゆっくりと歩いていく。

 

しかし次の瞬間、俺は目に飛び込んできた光景に固まってしまった。

 

「・・・君、人間じゃないね」

 

俺は目の前の女性に向けて、とても失礼な言葉を吐いた。

 

でもしょうがないだろう?

だって彼女は立ち上がったのだから。

 

こんなの人間じゃ不可能だ。

 

しかし、彼女は俺の言葉を特段気にした様子は無いようだ。

いや、そもそも外国人なのだから、今の言葉が通じる筈もないか。

 

などと、考えごとをしている間にも、彼女は鬼のように肉体を高速で再生させている。

 

そして、完全に肉体を修復し終えた彼女は楽し気に口を開く。

 

「驚きましたか?私はシエル。代行者です」

 

「だいこうしゃ?ごめん、よく分からないや。あと、日本人だったんだんだね」

 

「・・・とぼけないで下さい。それと、貴方の腕、私が斬り落としたのにもう生えてきてますよね?それが何よりの証拠です。貴方が死徒であることの」

 

「そういう君も、身体半分失ったのに生きてるってことは俺と同類だったようだ。これは失礼したね」

 

「貴方と一緒にしないでください」

 

「う~ん?鬼じゃなかったら、一体君は何者なのかな?」

 

俺は彼女に問う。

しかし、答えは返ってこなかった。

 

なぜなら、彼女は俺の前から消えたからだ。

 

いや、正確には、"俺が彼女の前から消えた"。

 

なぜなら、ここは・・・

 

──────べんっ

 

上弦の弐 VS 埋葬機関七位 完

 

 

 

 




設定の矛盾やキャラ崩壊などあったらすみません。
遠慮なくご指摘いただけると幸いです。

(特に、佐々木少年先生のコミカライズ版月姫を読んだは十年近く前ですので・・・今頑張って読み返してます・・・!)
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