11-1:燃え滓
「・・・ふん。終わってみれば造作もない」
そう言い捨てる男。
彼が見下ろした視線の先には、煙を上げる黒い炭が散乱していた。
これが、元々は人の形をし、先ほどまで言語を話していた、と聞けば誰もが信じることは無いだろう。
しかし、焦た臭いを放つその残骸は、紛れもなく生物──────"だった"。
そしてその生物は、野蛮なコートを羽織る生気のない男によって焼き殺され、炭へと変えられたのだ。
男は踵を返し、歩いていく。
彼の行く先は誰も知らない。
虚ろな瞳のまま、騎士は彷徨う。
主のいない、この夜空の下を。
◇
11-2:氷VS炎決着。そして
目が覚める。
睡眠からの覚醒、これは何年振りだろうか?
確実に百年は超える。
そう、鬼になってから睡眠などとったことも無かったし、その必要もないからだ。
久々の感覚とともに、自然と指先が目元に伸びる。
そしてそのまま瞼を擦って、身体を伸ばす。
上体に力を入れて、身体を起こせば一日の始まり。
──────そのはずだった。
しかし、指はいっこうに視界に現れないし、あたりを見渡そうとしても首が回らない。
いや、そもそも身体など存在するのかさえ疑わしい。まったく自由が利かない。
頭頂部からつま先までを、何者かに固定されているのではと錯覚してしまうほど。
それとも、今までの人生すべてが虚像で、実際は脳髄がプカプカと浮いているだけの存在が見ていた夢なのだろうか。
そんなことを考えていると、少しだけ視界を動かせることに気づく。
いや、"動かせるようになった"と表現するべきだろう。
最初に瞳に飛び込んできたのは優雅な貴族服に身を包んだ洋風な男。
見開かれた目、そして、うめき声を漏らすように、ゆっくりと口を開いた。
「・・・貴様、一体どういう身体をしている。消し炭から復活するなど、よもや祖の一角か?」
俺の姿に驚いているのはすぐに分かった。
しかしなによりも、"祖"という言葉が胸に引っかかった。
俺は記憶力が良いし、情報への関心も高いからハッキリと覚えている。
数分前の公園での会話を。
そこにいたのは俺ではなく、妓夫太郎。
"真祖の姫君"と呼ばれる女の子と、"死徒二十七祖"呼ばれる男との間で交わされた会話の内容すべて、無惨様を通して情報は共有されている。
──────共通する"祖"という単語。
しかし何故か、目の前の男が"真祖の姫君"と同類だとはどうしても思えなかった。
そしてその視界の先の男は、無造作に手を突き出す。
「・・・貴様が祖であろうがなかろうが、関係なかったな。こうして何度も焼き尽くせば関係の無いことだ。もし仮に原理血戒を持ちえるのなら、我が魔力路として使ってやろう」
(・・・まずい。炎の手がまた来る。身体の再生を後にして、まずは回避だね)
身体を起こそうとするが激痛が走る。
それと引き換えに、身体に自由が戻ってきた。
身体が再生し、神経が生えてきた証拠だろう。
しかし今はそんなことを気にしている暇は無い。
これほど傷を負ったのは無限城での一件以来だ。
もう一度あの炎を食らえば、しばらく再生できなくなる。
一刻も早くここから──────。
だが、回避は間に合わなかった。
灼熱の赤が再び視界に広がる。
とは言え、俺もただ黙って焼かれはしない。
「血鬼術──────寒烈の白姫」
4体もの氷の天女から同時に繰り出される低温。
氷と炎の対決が再び火ぶたを切った。
しかし、誰が見ても結果は明らかだ。
血鬼術の出力が戻っていない。
さらに俺の身体の半分は、まだ焼け落ちている。
(・・・今度こそ、負けるかもね)
寒烈の白姫が溶け始める。
しかし、想像よりゆっくりと。
先ほどと同等の炎の攻撃が来れば、数秒で蒸発する程度の氷像だ。
そのはずが、思いのほか耐えている。
(どうしちゃったんだろう?でも・・・)
攻めるなら今だろう。
炎の手は確かに驚異的な火力だ。
しかし、速度が遅い。
囲まれてしまっては厄介だが、それさえ注意すればどうということはない。
肉体の再生が完了した。
(よし、今だ)
攻撃を回避しながら、一気に炎の死徒の元へ。
いとも簡単に、自身の扇の間合いまで敵を捉える。
そして、振り下ろした扇は深く敵の肩口を裂いた。
たまらず後退する炎の死徒。
俺は空白を入れず、第二第三の攻撃を加える。
敵は確実に、動きが鈍くなっている。
(力の使い過ぎ、それに粉氷が効いているな)
状況を冷静に分析する。
その一方で敵の表情は焦燥が広がっていく。
「──────、やめ、ろ──────」
虚飾のない命乞い。
駄々をこねる子供のようだ。
達人の如き鉈さばきも失われた。
ただただ、目前の恐怖を振り払うように、デタラメに鉈を振るう。
それを見て、哀れと思った。
しかし、攻撃の手を緩める理由にはならない。
バキン
ついに鉈が割れた。
俺の二対の扇を何度も受けたからだろう。
すると、敵は突然悲鳴を上げる。
「寒い──────寒い──────ここは、寒い──────!」
そう言って飛び退いた。
おそらく、人間の血を吸って肉体を回復させるのだろう。
死徒と鬼、似たような生物のためすぐ分かった。
「させないよ」
すぐに、俺も上空へ飛ぼうとする。
その時だった。
木で出来た竜が視界を通り過ぎる。
そして、炎の死徒の身体を丸のみにし、地面へと連れ戻した。
しかし、これでは先ほどの光景の、文字通り焼き直しだろう。
案の定、木竜は爆炎と共に弾け飛んだ。
しかしすぐに別の木竜が死徒の周囲を取り囲む。
速攻焼かれて炭にされるが、それを上回る速度で木竜が生み出される。
まさに無尽蔵。
こんな真似が出来るのは一人しか知らない。
「さっきはよくもワシを炭にしてくれたな。死徒よ、のう」
氷の上弦 VS 炎の死徒 完