12-1:一転、氷結
「──────アアアアア!」
炎の死徒の顔色、苦しみようは今や病的だ。
木竜を燃やし続け、灼熱の中にいるはずがひとりだけ世界が違う。
まるで正反対の世界にいるような白い呼吸。
(なんだか様子が・・・でも、半天狗殿が動きを封じている内に・・・)
俺は胸に引っ掛かりを感じつつも、爪を鋭く伸ばし、敵の力を大幅に削ぐための予備動作に入る。
死徒は血を吸う。
であれば、彼らの燃料は血なのだろう。
それを奪えば無力化につながるはずだ。
今の状況では、出血を強いることこそが近道。
自身の身体を勢いよく前方に弾く。
炎に焼かれようが気にしない。
そして勢いのまま敵に接近し、胸を貫く。
──────
まるで、血の浴槽の栓が抜けるようだ。
すると、世界を裂く絶叫と共に、その吸血鬼の、真の
大気が
原子の活動が早きから遅きに切り替わる。
凝固した超低温の断層に弾かれて、行き場を失った電子が反応する。
「──────ああ、本当に」
かかげられる冷血の腕。
広げられた手のひらは、それこそ、温かな熱を切望するように
「──────ここは、寒い」
それは"気温が下がった"というより"世界が変わった"ような、前兆の無い変化だった。
回避すら間に合わない。
扇状に広がる災害は、約33間(約60メートル)先の建物を発動から2秒かからず丸ごと凍結させた。
半天狗殿は木竜ごと全身、俺は左半身が氷漬けになった。
「勘弁してくれよ~鬼だって氷結は苦手なんだぜ?なにせ肉体の再生が難しいからなあ」
そう。だからこそ、俺は入れ替わりの血戦を勝ち上がってきた。
上弦の再生力さえ、俺の血鬼術の前には無力だった。
だから今こうして、自分に対してその力が振るわれた現実が、何より危機的状況なのだと理解できてしまう。
(・・・半天狗殿はしばらくだめそうだな。俺もこの状況をすぐに打開しないと)
俺は自分の身体を砕き始める。
そんな俺を、敵──────氷の死徒は冷淡に見つめている。
今までの病み切った眼ではなく、的確に獲物を観察する、雪原の猟師のように。
「・・・よくもおれから、ここまで熱を奪ってくれた」
憎悪をだけをこめた、刃物のような声。
氷の死徒の闘志は衰えていない。
・・・いや。
正しくは、いま初めて彼は、"戦う"気になったのだ。
敵の右手が、自らの影に向けられる。
長く・・・不自然なまでに長く伸びた影から、巨大な得物が浮上する。
武器を持つ。ただそれだけで、彼が達人だと直感が告げる。
先ほどまでの大鉈を無暗に振りかざす男とはまるで別人。
黒死牟殿や猗窩座殿と同じ、武を極めた者なのだと分かる。
正に、俺とは真逆の存在。
そしてなによりも、やっと会話が成立しそうな雰囲気だ。
「・・・名前を聞いておこうか。君に少し興味が湧いたからね」
「名乗るほどの
「まあまあそう言わずに。おっと、俺も自己紹介がまだだったね。童磨だよ。よろしく」
俺の言葉を受けて、氷の死徒は一瞬だけ憤りを引っ込めた。
そしてただ、淡々と。
「ヴローヴ・・・ヴローヴ・アルハンゲリ」
そう、己の名を告げた。
一転、氷結 完