上弦の鬼たちは月姫世界に転生したようです。   作:白澄星火

13 / 67
第13話:アッフェンバウムの原理

13-1:アッフェンバウムの原理

 

空気が歪む。

病想の青い熱が、街の気温を下げていく。

 

だが俺は、氷の死徒──────ヴローヴの異様な武器が自分を打倒しうるモノだと理解しながら、なお正面から飛び掛かる。

 

──────それを、

 

「貴様は知るまい。彼の領土はこの星の一部でありながら、"生きるに能わず"と除外された生命圏。

いかに不死身であろうと、この地獄に耐え切れるか・・・!」

 

ヴローヴを中心に広がる冷気。

最大限の警戒と共に、俺は急停止し、扇を振る。

 

「血鬼術──────凍て曇」

 

しかし、完全には相殺しきれない。

吹き荒び、金切り声をあげ、街を覆う絶対零度。

速度も威力も俺の血鬼術を上回る。

 

そして、その寒さによって硬直した俺の身体を、今まさに鋼の巨槍が貫こうとしていた。

胃袋から込み上げるような悪寒。

それはヴローヴの冷気か、それとも──────。

 

俺は、両腕を(きし)ませながら咄嗟に二対の扇を胸の前で重ねる。

 

そして、衝突の瞬間は予想よりも早く訪れた。

槍の先端が扇の中心に当たる。

 

何かがはじけ飛ぶ音──────。

 

威力を受けきれず、身体は後方へ。

 

「ぐっ・・・」

 

勢いよく吹き飛んだ俺の身体は、街の建造物に叩きつけられる。

 

バラバラと周囲に散っていくのは瓦礫、そして俺の身体。

会心の一撃をもらい、原形を留めることは出来なかった。

 

いくら上弦とはいえ、この状態で何事も無く再生できる鬼など存在しないだろう。

なにせ、すべての傷口が氷結しているのだから。

 

そう、誰がみても勝負は決した。

 

しかしそんな状況でも、ヴローヴは一歩も動かないまま、何かの合図を送るように右手をかかげた。

 

「その不死性どこまで通用するか、見定めてやろう」

 

ヴローヴの周囲の瓦礫が崩れていく。

その下から、何体もの死体が、うめきながら這い出てくる。

 

「男の身体を残さず食らえ」

 

ヴローヴに命じられ、死体たちが再生が間に合わない俺のもとへと歩み寄ってくる。

 

(はは・・・砂糖にたかる蟻みたいだ)

 

ボリボリと咀嚼音が聞こえる。

この音は、歯で氷を砕いているのだろうか。

 

ただ、満ちていく。

亡者の口に、胃袋に。

鬼だって消化、吸収されれば死ぬだろう。

陽光や日輪刀とならび、数少ない鬼の殺し方だ。

 

しかし俺は、この期に及んで達観していた。

しのぶちゃんに毒を盛られ、敗北したあの夜と同じ。

 

何も感じない。

 

俺は空っぽだった。

だからこそ、いつも全力を出せなかった。

 

二度目の敗北。二度目の死。

 

怖い。悔しい。

 

そんな感情は今も遠い場所にある。

 

(でも、なんでかな。死にたくないや)

 

散々口にしていた、人を救うだとか。

そんな理由じゃない。

 

もっと、人間臭い感情。

 

──────そうか。

 

俺は試したいんだ。

自分の性能を。

 

せっかくの二度目の人生だ。

持ってる力すべて出し切らないと、勿体ないだろ?

 

だから。

 

(血鬼術──────)

 

アッフェンバウムの原理 完

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。