上弦の鬼たちは月姫世界に転生したようです。   作:白澄星火

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第14話:VS ネロ、決着

14-1:VS ネロ、決着

 

街の方での戦いの激しさは、公園からでも分かった。

大きな音、補充される空の怪物。

 

きっと、童磨さんが街の被害を最小限にしれくれているだろう。

 

なぜ俺たち鬼がわざわざこんなことをしているか?

 

理由は、人間の執念を嫌というほど程味わったからだ。

 

元の世界で鬼狩りが脅威なのと同じように、こちらの世界で一番脅威なのは死徒ではなく、代行者。

奴らと全面戦争になれば、鬼狩りに滅ぼされた時の二の轍を踏むことになる。

 

よって、目を付けられないよう、街の被害を最小限にとどめようとしている。

それが結果的に人間を守ることにつながっているのはなんとも皮肉な話だ。

 

そして上弦の一番下、陸である俺は、あろうことか重要な役割を任されている。

いや、正確には任されていた、と言うべきだろう。

 

それは、死徒二十七祖、ネロ・カオスの捕獲だ。

元々は、こいつを無惨様に献上するのが俺の任務。

 

しかし、街の方で無惨様が吸収するのにもっとふさわしい死徒が現れたため、ネロは不要になった。

よって、ネロ・カオスの殺害こそ、今の俺の使命だ。

 

だが、こいつはまったく死なない。

俺も、ましてや無惨様であっても、ネロを殺せるとは思えない。

 

かと思えば、志貴の目、あれは危険だ。

 

直感が告げる。

あれは死徒も鬼も殺しうる、と。

 

(ネロを殺されたら、次は志貴を殺さないとだめなのかぁぁ?なんだか気が重いなぁぁ)

 

さて、どうする?

 

だが思考に耽る暇は無い。

 

ネロが生み出した生物、それは今まで見てきた何にも分類できない、異物。

(かに)(さそり)を合体させたような化け物。

 

まず甲殻が固い。

辛うじて刃が通っても、図体の大きさから言えば、かすり傷に等しい。

 

さらに最悪なのは、俺たちを取り囲むように何匹もいることだ。

それこそ、公園を埋め尽くすほど。

 

油断していれば、食われる。

そんな状況だった。

 

しかし、志貴はそれを難なく殺した。

嘘みたいに、するりと刃を入れて。

 

彼が短い得物を一突きするだけで化け物は灰となって消えていったのだ。

 

(俺の血鎌はナマクラなわけじゃないんだけどなぁぁ。志貴のはどうなってるんだぁぁ?)

 

心の中でぼやく。

 

アルクェイドも鋭い爪で化け物を圧倒しており、余裕な表情で口を開く。

 

「ネロ・カオス、なぜ教会に捕捉されるリスクを侵してまでこんな真似を?」

 

「不思議か?真祖の姫よ。まあ無理もない。ここ最近この街に現れた"異物ども"を知らないのだろう」

 

「異物ですって?」

 

アルクェイドの言葉の後、誰一人声を上げなかった。

俺は、もしやという思いと、やっぱりという思いを半分ずつ抱えながら、ネロの方に顔を向ける。

 

すると、ネロの苛立ちが滲んだ瞳と目が合ったため、必然と"異物"というのは俺だということが明確になる。

そして彼は続ける。

 

「貴様らの行動は私の獣が捕捉していた。もちろん今夜、私を捕縛しようと動くことも。ただ知っていたとて一対多であれば敗北する危険があった。よって街を襲わせ脅威を分散させた」

 

「つまり、俺たち三人相手には勝てる、そう言いたいんだなぁぁ?」

 

俺がそう言い放ったその瞬間、何匹か化け物の動きが止まる。

そして、力なく地面に転がった。

それこそ、虫のようにひっくり返って。

 

「ヒヒッやっと毒が効いてきたなぁぁ」

 

そう、これは狙い通り。

俺は今まで、この化け物たちと鎌一本で戦ってきた。

 

もう一本はというと、公園中をぐるぐると巡り、少しずつ化け物に傷をつけていった。

傷口から毒が入れば、後は時間の問題。

 

白兵戦に平行して、緻密な血鬼術の操作を為せるのは、俺の頭脳によるもの。

これだけは誰にも負けない自信がある。

 

ネロからすれば、一瞬にして公園に跋扈していた使い魔がすべて死亡する事態。

もちろん、奴の身体にはまだ多くの獣がいるだろうが、動揺は隠せないようで、半歩後ずさりしたのが見えた。

 

そして、その心の揺らぎを見逃さない、志貴という殺人鬼。

 

一瞬で距離を詰め、ネロの左腕を奪う。

 

勿論、傷口は治らない。

志貴に斬られたところ、はたとえ不死であろうと治らないことが明確になった。

 

これはアルクェイドが対ネロの鍵と評するのも頷ける。

 

このまま志貴がネロを殺すだろう、そう思った瞬間──────。

 

「ク・・・フハハハハ」

 

壊れたように、ネロは笑い始める。

いや、本当に壊れているのか、身体にヒビが走っていく。

 

しかし、それは進化ともいえるものだった。

黒い外套の大男は強靭な筋肉で覆われた獣と成った。

 

とは言え、二足で立っている。

よって、目の前に居るのは一人の男。

 

だというのに、身体に飼っている化け物を全て凝縮したような存在感。

 

一にして群体。

それがこの男の強さ。

 

獣は身をかがめ、大地を蹴る。

すると目に負えない速度で志貴の元へ。

 

俺は咄嗟に身体を動かしたが、決着がつく方が早かった。

 

ネロの鋭い爪が志貴の左腕を裂く。

対して志貴のナイフはネロの胸元に突き立てられていた。

 

ネロは敗北を察した虚無的な表情を浮かべる。

 

「・・・まさか、な。──────おまえが私の"死"か・・・」

 

そう言ってネロは口元を緩ませると、身体が空気に溶け、消えていった。

 

彼の死を見届けた志貴は、全身の力が抜けたように、公園に座り込んだ。

目元を抑え、うめき声をあげている。

 

そして耐え切れなくなり、仰向けになる志貴。

 

「つか・・・れたな」

 

出血がひどい。

このままでは死ぬだろう。

 

志貴は眠るように瞼を閉じる。

そこに。

 

アルクェイドが頬を叩いた。

 

「だめよ志貴。そんな傷で眠ったらもう起きられないわよ」

 

「あ・・・アルクェイド・・・生きていたのか」

 

「おかげ様でね」

 

「"点"って・・・やつが・・・視えたよ」

 

「そう、やっぱり視えていたのね。そじゃ志貴は──────・・・志貴?」

 

アルクェイドが志貴の顔を覗き込むが返事はない。

彼の表情は安らかな眠りにつき、まるでもう起きないような──────

 

しかしその刹那、

アルクェイドは志貴のみぞおちに拳を入れる。

 

すると、情けない悲鳴を上げながら志貴は目を覚ます。

 

微笑ましいやりとりに、自然と頬が緩む。

なぜだが嫉妬は感じない。

初めての人間との共闘で絆されたか。

 

この場にいては引き返せなくなると思い、俺は踵を返す。

 

「じゃあなぁ。次会う時は敵かもしれないが、そんときは恨むなよなぁぁ」

 

別れの時まで、俺はこんなことしか言えない。

だが、そう育ったのだからしょうがない。

それに、次会う時が敵というのは、本当にあり得ることだから嘘ではない。

 

そんな俺の態度に対し、二人は温かい言葉を投げかけてきた。

 

「ありがとね、妓夫太郎」

「心強かったぜ」

 

人間──────ともう一人は真祖の姫君とやらに、こんなことを言われるとは思いもしなかった。

だが、俺は振り向かない。

彼らの声を背にしながら、街へと向かう。

 

VS ネロ、決着 完

 

 

 

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