17-1:ヴローヴの過去
それは雪原の記憶だった。
それは迫害の記憶だった。
それは漂流の記憶だった。
それは救済の記憶だった。
それは叛逆の記憶だった。
──────即ち、ひとりの騎士の結末だった。
男は
流刑の地はこの世の果てだった。
人の住めぬ極寒の海だった。
絶海に置き去りにされ生き続けるしかなかった。
寒さしかなかった。
痛みしかなかった。
朽ち果てた男を救ったものは、人間からも
一時の春があった。
男は雪原に咲く花を愛し、鳥を愛し、歌うように人を殺した。
男を慰める十人の妃も手に入れた。
主君への忠誠も、決して解けぬ氷壁と同義だった。
だが、魂に刻みついた痛みは癒えなかった。
寒さという名の渇きには抗えなかった。
男は、寒さから逃れる為に、騎士である事を放棄した。
唯一の日差しを、自らの手で閉ざしたのだ。
◇
17-2:VS ヴローヴ、決着
俺の最後の攻撃は、扇で斬り裂くわけでも、爪を突き立てるわけでもなかった。
手のひらをヴローヴに接触させ、血鬼術を発動するというもの。
新たに獲得した血鬼術、彼岸・大紅蓮地獄はヴローヴの世界を浸食した。
であれば、本人にも効果があると、一か八か賭けに出たのだ。
そしてどうやら、今回ばかりは運が俺に味方をした。
敵の動きが止まる。
気温は一瞬で、本来の温度に切り替わった。
手のひらには、今にも止まりそうなほどゆっくりな脈が伝わってくる。
その中で、
「──────なんだ、これは?」
ゆらり、とヴローヴは独白した。
「この、言語化できない大気の肌触りは、いつか失った何物かだ」
何を言っているのか、どこの国の言葉かも分からない。
ただ、穏やかなその声は、春を謡う詩人のようだった。
「ああ──────痛みも、寒波も感じない。恐ろしいが、懐かしい。これではまるで、僕は死人になったようだ」
言葉を終えると、ヴローヴの眠るように身体を脱力させた。
こちらにのしかかってくる形となったため、咄嗟に抱きかかえる。
そんなことより、早くヴローヴの身体を、無惨様の元へ届けなくては。
後ろを振り返り、半天狗殿に声をかけようとする。
その時だった。
急激な眩暈と空腹に襲われる。
生命力を使いすぎたのだろう。
俺はその場でへたり込んでしまう。
辛うじて顔だけ動かせたため、半天狗殿へ視線を向ける。
そして、ヴローヴの件は任せた、と言わんばかりに目配せをする。
必死すぎて、もはや睨みつけているように見えただろう。
半天狗殿は困惑を飲み込むようにして頷くと、木竜でヴローヴの身体を丸呑みにし、どこかへ去っていった。
VS ヴローヴ、決着 完