上弦の鬼たちは月姫世界に転生したようです。   作:白澄星火

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第17話:VS ヴローヴ、決着

17-1:ヴローヴの過去

 

それは雪原の記憶だった。

 

それは迫害の記憶だった。

 

それは漂流の記憶だった。

 

それは救済の記憶だった。

 

それは叛逆の記憶だった。

 

──────即ち、ひとりの騎士の結末だった。

 

男は冤罪(えんざい)で国を追われた。政略で故郷を失った。

流刑の地はこの世の果てだった。

 

人の住めぬ極寒の海だった。

絶海に置き去りにされ生き続けるしかなかった。

 

寒さしかなかった。

痛みしかなかった。

 

朽ち果てた男を救ったものは、人間からも死徒(なかま)からも逃げ出した、朽ち木のような女だった。

 

一時の春があった。

 

男は雪原に咲く花を愛し、鳥を愛し、歌うように人を殺した。

男を慰める十人の妃も手に入れた。

主君への忠誠も、決して解けぬ氷壁と同義だった。

 

だが、魂に刻みついた痛みは癒えなかった。

寒さという名の渇きには抗えなかった。

 

男は、寒さから逃れる為に、騎士である事を放棄した。

 

(かどわ)かされたとはいえ。

唯一の日差しを、自らの手で閉ざしたのだ。

 

 

17-2:VS ヴローヴ、決着

 

俺の最後の攻撃は、扇で斬り裂くわけでも、爪を突き立てるわけでもなかった。

手のひらをヴローヴに接触させ、血鬼術を発動するというもの。

 

新たに獲得した血鬼術、彼岸・大紅蓮地獄はヴローヴの世界を浸食した。

であれば、本人にも効果があると、一か八か賭けに出たのだ。

 

そしてどうやら、今回ばかりは運が俺に味方をした。

 

敵の動きが止まる。

気温は一瞬で、本来の温度に切り替わった。

 

手のひらには、今にも止まりそうなほどゆっくりな脈が伝わってくる。

その中で、

 

「──────なんだ、これは?」

 

ゆらり、とヴローヴは独白した。

 

「この、言語化できない大気の肌触りは、いつか失った何物かだ」

 

何を言っているのか、どこの国の言葉かも分からない。

ただ、穏やかなその声は、春を謡う詩人のようだった。

 

「ああ──────痛みも、寒波も感じない。恐ろしいが、懐かしい。これではまるで、僕は死人になったようだ」

 

言葉を終えると、ヴローヴの眠るように身体を脱力させた。

こちらにのしかかってくる形となったため、咄嗟に抱きかかえる。

 

そんなことより、早くヴローヴの身体を、無惨様の元へ届けなくては。

 

後ろを振り返り、半天狗殿に声をかけようとする。

その時だった。

 

急激な眩暈と空腹に襲われる。

 

生命力を使いすぎたのだろう。

俺はその場でへたり込んでしまう。

 

辛うじて顔だけ動かせたため、半天狗殿へ視線を向ける。

そして、ヴローヴの件は任せた、と言わんばかりに目配せをする。

必死すぎて、もはや睨みつけているように見えただろう。

 

半天狗殿は困惑を飲み込むようにして頷くと、木竜でヴローヴの身体を丸呑みにし、どこかへ去っていった。

 

VS ヴローヴ、決着 完

 

 

 

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