21-1:失われた呪い
これは、童磨と黒死牟が異変に気付く少し前。
鬼舞辻無惨が別のモノへと変異し、鬼にかけていた"呪い"とも呼べるものを失った時の出来事。
◇
廊下や広間が不規則に並べられた無限空間。
これを作り上げることなど、決して人の手では不可能だ。
そんな、上下すら分からない空間でひれ伏す少年。
額には角、背中には連太鼓と、その姿は雷神を思わせる。
「無惨様。死徒をお持ちしました」
「・・・よくやった半天狗。下がって良い」
受け答えしたその者の態度から主と言うことが分かる。
紳士服に身を包み、血のように赤い瞳を光らせるその男──────無惨。
彼の言葉の後に、べんと琵琶の音が鳴ると、少年は姿を消した。
今はこの場にいない少年が、無惨に差し出したのは──────人の形をしたナニカ。
眠るように瞳を閉じている。
しかし、肌は青白く、これでは生きているのか分からない。
それを見て、満足そうに口の端を釣り上げる無限城の主。
「・・・ついに、ついに私は太陽の下を歩くことが出来る。よくやった半天狗、童磨」
歓喜をにじませながら、腕をぼこぼこと膨れ上がらせる。
そして、蛇のような赤黒い肉の化け物が裾から現れる。
口には鋭い牙が光り、身体には眼球がいくつも付いている。
怪物は大きく口を開けると、横たわる生贄を丸呑みにした。
ごくり、と喉を通る音。
その後に続けて響いたのは捕食者である無惨のうめき声だった。
「ぐっ・・・ゔぅぅ」
胸を押さえつけ、身をかがめている。
そこに、揺らぎを持った女の声が聞こえた。
「無惨様・・・!」
声の主は、琵琶を持った一つ目の女。
声色と表情から、動揺しているのが分かる。
しかし、無惨は手のひらを掲げ、制止するような仕草を取った。
「・・・こんなものどうということは無い。必要な痛みだ。ならば受け入れよう」
「・・・無惨様」
切なく、女の声が漏れる。
だが、主が問題ないというのであれば、これ以上は何も言うまいと口を閉じ、ただ見守った。
──────しかし。
「ガ・・・アァァァァァァァ──────!」
無惨は雄たけびを上げる。
その声量は尋常ではなく、激しく空気を揺らし、無限空間はガタガタと音を立て始める。
無惨は苦しそうに、喉から胸のあたりを掻きむしる。
その中心には
決して理解できぬもの。
血の煮ごこりのような赤い果実。
死徒二十七祖たらしめる王冠。
ゼリア・アッフェンバウムから、ヴローヴ・アルハンゲリへ。
そして今、ヴローヴ・アルハンゲリから鬼舞辻無惨へと引き渡された。
その瞬間──────。
鬼たちを支配する"呪い"はすべて打ち消された。
鬼舞辻無惨、死徒と成る 完