第25話:死徒 獪岳
25-1:死徒 獪岳
コンクリート造りの廃屋。
その2階。
何も置かれず、広々としている。
そこに。
「おにいちゃあああああん」
泣きじゃくるような、子供の声が響き渡る。
それが空間に反響して、何倍もの大きさになった。
しかし、まったく不快とは思わない。
なぜなら──────
「梅!」
俺より頭一つ分小さな体を、ぎゅっと抱きしめる。
腕の中には大切な妹──────梅。
梅は俺の胸に顔をうずめ、
「獪岳が・・・獪岳が・・・」
「分かった分かった。後で聞いてやるからなぁぁ。そんな事より今は、一刻も逃げた方が良いかもなぁぁ。"あのお方"の悲願が成し遂げられたとなれば、俺らは要らないからなぁぁ」
「・・・そうなの?お兄ちゃん」
「そうだなあ。お前は"あのお方"を慕ってたからなあ。悲しいよなぁ」
「・・・うん。でも良いの。お兄ちゃんさえいれば」
「そうかそうかぁ」
兄としてこの上無くうれしい言葉をもらい、今すぐ飛び跳ねたいところだがそんな場合ではない。
一刻も早くここを──────
その時だった。
「──────よォ」
背後から響き渡る声。
俺は鬱陶しげな表情を浮かべ振り向く。
「・・・獪岳」
うんざりしたような口調で、その名を呼んだ。
声の主に、言いようのない違和感を覚えたからだ。
知っている顔なのに、なぜか同一人物とは思えない。
まるで、別の存在に変わったかのようだった。
「・・・一応聞いとくが、俺たちと一緒に逃げるつもりで来てくれたのかぁぁ?」
「ハハッ。そんなつもりは無ぇよ」
「・・・獪岳、ごめんなさい。アンタを置いて逃げちゃって」
「・・・堕姫か。いや気にしてねえよ。お前らに会いに来たのはもっと別の理由・・・俺は、試し斬りがしたいんだよ」
「試し斬りだぁぁ?」
「今の俺はどこまで強くなったのかを試してえんだ。上弦なら陸・・・いや肆までは倒せるぐらいになったつもりなんだけどな」
カチャリ、と獪岳は刀を抜く。
確かに、こうして対峙するだけで以前とは別物だと感じる。
獪岳と戦うこと自体は別に良いが、すぐ近くに妹もいる。
それに、無惨様に場所も割れている。
こんなことをしている場合では無かった。
「・・・それ、今じゃなきゃダメかぁぁ?」
「だめと言ったら?」
「いや、俺たち"あのお方"に殺されるかもしれないんだけどなぁぁ」
「ハハッ。そうかよ。じゃあすぐ終わらせないとな。上弦の陸ごとき」
戦いは避けられそうにない。
でも、梅を巻き込みたくはない。
であれば、また離れ離れ?
いや、今回は無惨様も狙っているかもしれない。
梅を一人にするのは無しだ。
つまり、──────獪岳の言う通りというわけだ。
「そうだなぁぁ。すぐ終わらせないとなぁぁ。穴埋めの上弦の陸ごとき」
その挑発で、戦いの火ぶたが落とされた。
死徒 獪岳 完