上弦の鬼たちは月姫世界に転生したようです。   作:白澄星火

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幕間②
第30話:夜明け


30-1:見てはいけないモノ

 

「・・・お兄ちゃん、本当にここにするの?・・・うん・・・うん・・・もぉ、分かったってば」

 

非常階段の前で、独り言をこぼす女。

 

彼女が立つその場所は、区画まるごと廃棄されたような場所だった。

ビルの隙間から風が吹き、白く柔らかそうな猫っ毛がさらさらとなびいている。

 

透き通った肌が、錆び切った世界で猶更際立っていた。

 

その場に似つかわしくない女は、荒れ果てた階段を上っていく。

 

しかし、その歩みは突然停止した。

 

「・・・何?今の音」

 

女は、惚れ惚れするほど整った顔を上に向け、不機嫌そうな口調でつぶやく。

 

「もうすぐ夜明けだから急がないといけないのに、なんなのよ」

 

肩を落とし、今度は俯きがちに、はぁとため息。

 

だが、彼女の言う通り、期限は迫っている。

眉を顰めながらも、女は歩みを再開した。

 

階層が上がっていくにつれて、今まで風に紛れて聞こえづらかった異音も今では鮮明に。

 

じたばたと、床を叩く音だろうか。

 

ほどなくして4階にたどり着く。

目の前には閉じられた鉄製のドアが一つ。

 

そのドアノブに手をかけようとした、次の瞬間。

 

「・・・何?お兄ちゃん。・・・うん・・・うん・・・分かった」

 

女が再び一人、見えない兄との対話を行う。

それが終わると、4階の鉄製のドアを素通りし、5階まで上った。

 

今度こそ、ドアノブに手をかけ扉を開く。

 

すると、ドアの奥は暗闇が広がっていた。

だが、臆することなく女は足を踏み入れていった。

 

 

30-2:夜明け

 

無限城で戦った鬼たちにとって、この世界で初めての夜明けが訪れる。

 

ある者は賃貸の一室で身を潜め、ある者は進化の最中(さなか)

 

そして、ある者は。

 

「これが──────太陽か」

 

数百年ぶりの朝日を浴びていた。

本来、鬼であれば焼け死ぬはずが、その男は全身で日光を受け止めていた。

 

「原理血戒を奪い二十七祖に上がったとはいえ、ヴローヴ・アルハンゲリは本来()階梯の死徒。奴を吸収した私も、完全には日光を克服出来ていないというわけか」

 

手のひらを掲げ、独り()ちるその男の眉間はピクピクと動いていた。

声色は不快感が滲んでいる。

 

「・・・まだ足りないというわけか。」

 

男は吐き捨てるように言った後、腕をだらりと下し、踵を返して太陽とは逆方向へ。

 

しばらく歩くと、路地裏へたどり着く。

 

「──────鳴女」

 

「はい」

 

間髪入れず、女の返事があった。

男は、その者に淡々と指示を言い渡した。

 

「私を無限城へ飛ばせ。それと玉壺と半天狗も呼び寄せろ」

 

「かしこまりました」

 

女は了解の意を示すと、べんっと琵琶の音を響かせた。

 

夜明け 完

 

 

 

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