34-1:女同士の火花
──────日が沈んだ。
やっと外を出歩ける。
なにより人を待たせている。
人、といっても代行者なのだが。
だから当然罠の可能性もあるため、梅に扉を開けさせるのはリスクがあった。
もちろん、出来る限りのことはした。
梅の血鬼術──────
だが、念には念を。
俺は妹の背中から這い出て、扉まで歩いた。
「梅、そこに居るんだぞぉぉ」
横目で見ながら俺がそう言うと、部屋の隅にちょこんと座る梅はコクリと頷く。
大人しくしてくれていることに安堵を覚えつつ、俺は目の前のドラノブに手をかけた。
(敵意の無いことを伝え、罠が無いかを確認したらすぐ梅の身体に戻らないとなぁぁ。今凄く腹が減ってるからなぁぁ)
次の行動をあらかじめ考えて、扉を開ける。
すると、その先に居たのは。
日本人離れの顔立ちをした修道女。
西洋の血が入っているのだろうか。
それと、とにかく顔が小さい。
赤みがかった茶髪、それを後ろで一つにまとめ、肩に流している。
ただ、俺の姿に驚いたようで、彼女はビクリと肩を浮かせ、一瞬目を背けた。
その瞬間うなじが見えたため、俺は不覚にも鼓動を速めてしまった。
──────だが、梅の方が美人だ。
少し危なかったが、すぐに冷静さを取り戻す。
「すまねぇなぁぁ待たせちまって。とにかくアンタになんもしないからなぁぁ。ほらこの通りだ」
そう言って、手を上げ無防備な状態を曝け出す。
だが、相手も特に攻撃するそぶりは見せない。
尤も、警戒はしているようだ。
それにしても。
(・・・まさかこの代行者・・・弱いのかぁぁ?)
今の態度が、この女の演技じゃなければ、だが。
──────怯え切った眼。
今まで何度も向けられてきた。
そしてそれは、俺が鬼として強くなった分だけ増えていった。
つまり、俺の生来からの醜さの他に、見ただけで他人を畏怖させるなにかあるんだろう。
よくわからないが。
だが女はそれを明確に感じ取って、怖気を震っている。
経験談だが、今まで出会った鬼狩りでこんな表情を向けてきたのは弱い奴らばっかりだった。
俺は梅に危害が及ぶ心配が限りなく低いことに安堵し、後ろを向いた。
「梅、出てきて良いぞぉ」
「・・・」
歩いてきた梅の表情は不機嫌そうだった。
そのまま俺と代行者の間に入るような形で立ち止まる。
梅は女を真正面から凝視し、代行者は負けじと不敵な笑みで返す。
「・・・何かしら?」
代行者の棘のある声色。
対する梅は首を傾けて下から睨めつけている。
その応酬を傍観する俺。
(俺と梅に向ける態度の違いで分かった。まさかこの代行者・・・自分より強い奴には弱気だが、そうでない奴には──────)
もちろん、俺の自慢の妹が弱いとは言わない。
いや、ハッキリ言おう。妹の方が強いはずだ。
だがそんなことよりも、目の前の代行者が、どこか人間臭くて。
それでいて、俺たち鬼とどこか似ている。そう思った。
鬼は、人間でいることから逃げた、弱い奴らだ。
目の前の女は、そんな俺たちと似た危うさが感じ取れた。
そう思うと、なんだか親近感が湧いてきた。
(まあ、とにかく今は二人の間に散る火花を鎮火しないとなぁぁ)
俺はするに行動に出た。
「そうピリピリするなよなぁぁ」
そう言って、梅の頭に手を置く。
すると、梅は頬を膨らませながら振り向いた。
「でもお兄ちゃん!この女、ゼッタイお兄ちゃんを醜いって思った!表情を見ればわかるもの」
「そうかそうかぁ。でも俺は気にしねぇからなぁぁ。そんなことより早くここを移動しないとだからなぁぁ」
俺の言葉で梅は矛を収めたようで、頷く。
対する代行者は一つため息をついて。
「それでは、行きましょうか」
女同士の火花 完