35-1:上弦の壱、弐、陸、集結する
俺は梅に移動を任せ、妹の身体の中で休息をとる。
すぐ前を歩くのは代行者──────名はノエルというらしい。
道中、俺たちの会話は無く、二人分の足音だけが響く。
梅の背中から眼を出して空を見れば、霞一つ無く鮮明な月。
それにしても、ここは本当に良い場所だと思う。
元々居た世界より豊かで、清潔で、静かだ。
だからこそ、俺たちのような存在は、世間からすれば場違いに映るのだろう。
それは、ノエルの態度からも分かった。
梅もそれを感じ取っているようで、機嫌はなかなか戻らない。
そんな時間がしばらく続いた。
そして。
ノエルの足が突然止まる。
「ここよ」
彼女は振り返らず、短く言った。
目の前には、二階建ての集合住宅。
ノエルが再び歩き出したため、後ろに続く。
そのまま2階まで階段を上ると、右手側にはずらりと扉が並んでいた。
一つ、二つと通り過ぎ、三つ目の扉の前に立つと、カバンから鍵を取り出し、開錠した。
ドアノブを回し、がちゃりと扉を開けると、ノエルが最初に玄関に足を踏み入れる。
続けて、靴を脱ぎ揃えた後、俺たちに向けて手招きした。
「上がって」
彼女の言葉にうなずき、玄関まで入った梅に対して、靴は脱ぐように、と小声で背中の口からくぎを刺す。
すると妹はぷりぷりと怒り出した。
「もうっ、分かってるってるわよう」
とのこと。
妹の可愛さに、一人でほっこりしていると、効いたことのある声が部屋の奥から響いた。
「おや?ノエルちゃん、それと梅の声がしたね?」
仲間というのは童磨さんのことだったか。
なぜか、ほっとした。
まあ確かに、上弦で頼りになるのは童磨さんか黒死牟様、それと今は人間になってしまったが猗窩座様ぐらいで、その内の一人を引き当てたことは幸いだ。
梅も安堵を覚えたのか、歩調が速くなる。
そして、踏み入れた一室。
そこには、童磨さんの他にもう一人。
──────上弦の壱、黒死牟様。
その光景が、信じられなかった。
あの上弦の壱が、無惨様の元ではなく、ここに?
その違和感は、少しだけ梅も感じたようで。
「わっ、黒死牟様もいたんだ。てっきり無惨様の方に行ってるかと思ってた。それに童磨じゃん、元気?」
梅が軽い口調で言うと、童磨さんはひらひらと手を振ってきた。
一方、黒死牟様は目をつぶり、ピクリとも動かない。
──────序列の乱れ。
などと、怒られるかと思いヒヤリとしたが、何事も無かった。
黒死牟様は妙に女に優しい。
・・・お侍ってのはみんなそうなのだろうか。
上弦の壱、弐、陸、集結する 完