上弦の鬼たちは月姫世界に転生したようです。   作:白澄星火

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第36話:目指す道

36-1:目指す道

 

「それじゃ、わたしは帰るわね」

 

ノエルちゃんがそう言って、踵を返し部屋を出ていこうとした。

しかしその瞬間、コンコンと扉を叩く音。

 

こちらがどうぞ、と言う前に扉は開く。

そしてそこには。

 

「こんばんわ、代行者ノエル。連絡にあった二人はもう来ているようですね。それと童磨さん。暗示の時間です」

 

抑揚の無い声と、青色の髪。

来訪者は、シエルちゃんだった。

 

俺は、彼女にひらひらと手を振る。

 

「こんばんわシエルちゃん。よろしく頼むよ」

 

俺がそう言うと、靴を律儀に脱ぎそろえ、つかつかと玄関から俺たちがいる部屋まで歩いてくる。

そして彼女は、胡坐をかく俺の前でかがみ、真っ直ぐ視線を向けてきた。

 

その瞬間、ぐらり、と妙な感覚が襲って来る。

しかし、少しばかり生まれ始めていた空腹感は嘘みたいに消えていた。

 

猗窩座殿みたいな手荒な真似じゃなく、瞳を合わせただけでこんなことが出来るのか。

俺はこの時、彼女を敵に回せば長生き出来ないな、と直感した。

 

そんな中、妓夫太郎が堕姫の身体から這い出てきた。

 

「今の、何やったんだぁぁ?」

 

一連のやり取りをみて興味を持ったのか、彼がそう尋ねる。

対するシエルちゃんは驚くこともなく、淡々と。

 

「空腹を紛らわす暗示をかけました。貴方も受けますか?」

 

「良いなぁぁそれ」

 

妓夫太郎が即答する。

俺と同じく、戦いで力を使いすぎたのだろう。

今受けなければ、どこかで限界が来たはずだ。

 

さすがの危機管理能力といったところ。

 

早速、シエルちゃんと妓夫太郎の視線が交差する。

そしてそれは一瞬だった。

 

すぐに目を離すシエルちゃん。

効果のほどは妓夫太郎の反応から察することが出来た。

 

「ヒヒッ。これはすげえなぁぁ」

 

ニヤリ、と口角を歪める。

そんな兄の様子を見て、妹も声を上げた。

 

「お兄ちゃんばっかりずるい!私もそれやりたい!」

 

「良いのか?腹減らなくなるんだぞぉぉ?お前食べるの好きだろぉ」

 

「良いの。お兄ちゃんいつも我慢してたから。だから私だって・・・」

 

そういって無理矢理、シエルちゃんと妓夫太郎の間に割り込む堕姫。

口を堅く結び、瞳で強く懇願する。

 

するとシエルちゃんは、一つため息をついてから。

 

「・・・分かりました」

 

その言葉の後、すぐに暗示をかけた。

しかし、かけられた堕姫はというと。

 

「・・・?」

 

いつも妓夫太郎に食べさせてもらっているからか腹も減っていなかったようで、いまいち効果を感じていないようだ。

そんな彼女をよそに、シエルちゃんは、扉まで歩いていく。

 

「今日の分は終了です。おそらく貴方達には効きは弱いと思うので、明日も実施します。ではおやすみなさい」

 

そう言って、シエルちゃんは扉を開け、外に出ていった。

 

一連の様子を見ていたもう一人の代行者はというと。

 

「じゃあ、今度こそわたしも帰るわね。おやすみ」

 

ノエルちゃんも続けて、帰っていった。

 

部屋に残ったのは、必然と鬼だけになった。

 

「それにしても、無事でよかったよ」

 

やっと大事な話が出来ると思った俺は早速、新たな住人となった二人に対してそう切り出した後、こう続けた。

 

「今まで起きたこと、聞かせてもらえるかな?」

 

そんな俺の質問に対して、妓夫太郎の口から返答があった。

 

「・・・色々なことがあったなぁぁ・・・もう二度とこんな目に合うのは御免なんだよなぁぁ」

 

髪を乱雑に搔き乱しながら、うんざりしたような口調で。

 

述べられた内容は、主に3つ。

俺や黒死牟殿と同じく、無惨様の声が聞こえなくなったこと。

死徒となり、強力な力を得た獪岳に襲われたこと。

そしてどうやら自身の力を試したいらしく、妓夫太郎だけでなく俺たち上弦も狙われるはずだということ。

 

(・・・獪岳に、もしかしたら無惨様も、俺たちの敵になるかもしれないのか。まずいことになってきたね)

 

俺は妓夫太郎の話を受けて思考を巡らせる。

すると、堕姫の声が割って入った。

 

「獪岳とはネロの獣を倒すために共闘したけど、その時は全然強くなかったわ。本当に上弦の陸?と思っちゃったもの」

 

「でも、俺と戦った時は上弦の名に恥じない強さだったなぁぁ。獪岳の本当の恐ろしさは、あの成長速度だと俺は思ったなぁぁ」

 

堕姫の発言に続けられた妓夫太郎の言葉。

 

二人の話を聞くと、今の状況は俺たちの命を脅かすのに十分なものだ。

一瞬、鬼狩りに次々と上弦が狩られていった"あの時期"を思いだす。

 

しかし一つだけ、当時より有利な因子がある。

それは、代行者の存在。

 

かなり大きな組織のようだし、シエルちゃんほどの実力者が他にもいる可能性だってある。

つまり、彼らと敵対していないことが俺たちの命を救っているわけだ。

 

ただしそれは、代行者の前で、無害な存在としてふるまい続ければの話。

 

それは、生殺与奪の権利を他人に握られていることに他ならない。

さらに、妓夫太郎いわく代行者の駆除対象は"異端"全般で、死徒に限定されたものではないらしい。

俺たちがこうして、彼らと平和に話が出来るのは、猗窩座殿が条件を付けて見逃してくれているだけだ。

 

よって、今の状況は、長期的には破綻する。

それが猗窩座殿の寿命によってもたらされるものであるかは分からないが。

 

そんな懸念を解消するのが青い彼岸花だ。

これさえあれば、俺たちの不死性はさらに上がるし、行動範囲も広がる。

 

俺は方針を妓夫太郎と堕姫に伝えた。

すると二人は頷く。

 

こうして、上弦の弐と陸の目指す道は一つになった。

 

目指す道 完

 

 

 

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