39-1:本体
「・・・何かカラクリがある。そうに違いないわ」
秋葉はそう言うと、糸のようなものを周囲に張り巡らせた。
その範囲は、遠野邸の敷地すべてを呑み込むほど。
そして。
「──────そこにいたの」
秋葉がニヤリと笑う。
それを受けて、積怒が表情を一変させた。
「マズい!本体を守れ哀絶!」
しかし遅かった。
屋敷の外で、ボゴン、と爆発音が鳴った。
それも一回ではない。
続けて、絨毯爆撃のような音が鳴り響く。
すると、積怒と可楽の身体がボロボロと崩れ落ちていった。
それを見て、秋葉の顔に安堵が宿る。
「・・・やはり本体がいたようね。──────そうだ。早く兄さんのところへ」
秋葉が髪色を黒に戻し、踵を返して歩いていく。
だが、数歩進んだところでピタリと歩みが止まった。
動揺で揺らぐ瞳。
彼女はゆっくりと振り返る。
そこには、額に二本の角を生やした少年がいた。
雷神を思わせる衣装と連太鼓。
ひとつひとつの太鼓には、"憎"の文字。
少年は、仁王立ちのまま、秋葉を睨みつける。
「のう。さきほど貴様は、手のひらにのるような"小さく弱き者"を焼いて炙った。なんという極悪非道。これはもう、鬼畜の所業だ」
ズン、と空気が重くなる。
窮地に追い込まれ、爆発的に力を発揮するのは人間だけではない。
この少年の本体──────半天狗という鬼は、これまで何度も何度も、窮地に追い込まれた。
そして、その度に、己の身を守ってくれる強い感情を、血鬼術により具現化・分裂し、勝ってきた鬼だ。
それは、死徒となった現在においても変わらない。
むしろ超抜能力となり、一層強化されている。
そのため、生み出される分身の強さは、未知数。
雷神を思わせる姿の少年──────憎珀天の他に、もっと強力な分身が生まれる可能性だって十分にある。
現に。
ドン、と憎珀天が連太鼓を叩くと。
──────空が割れた。
その隙間から、赤色の竜が顔を出す。
憎珀天は満足気にそれを眺めていると。
「新たなる我が分身。
その言葉の後、苦竜は赤い鱗をしならせ、地に降り立つ。
ズン、と地面が揺れた。
竜の身体を中心にして、周囲は瞬く間に凍り付く。
「アァ・・・クルシイ──────サムイ──────シンソ──────ハヤク」
さらに翼を目いっぱい広げれば、浸食は一気に加速。
一瞬で、遠野邸の敷地のおよそ半分が氷土となった。
それを見ていた秋葉は絶句している。
「よくも・・・こんな・・・」
強い憤りで身体が震える。
再び、髪色は真っ赤に染まった。
「すぐに消してあげるわ。あなたも、あの竜も」
上弦の肆 VS 遠野秋葉 完