第4話:上弦の陸、真祖と出逢う
4-1:真祖
──────"ネロ・カオス"
以前戦った死徒がそう名乗っていた。
・・・あいつは強かった。
しかも、まだ全力を出していないように見受けられた。
今度戦ったら、勝負は分からない。
特に・・・梅が心配だ。
梅を失うことだけは絶対に・・・ごめんだ。
だから、俺は・・・
「獪岳。梅を任せたからなぁぁ。絶対に守れよなぁぁ」
「任せとけ」
獪岳は頷いて了承の言葉を口にした。
そう。俺は、梅、獪岳の3人でコンクリート造りの廃屋、その2階を拠点にし活動している。
鬼同士でつるむことを許さなかった無惨様も、鬼狩りとの最終決戦で考えが変わったとのことだ。
そしてなにより、梅を戦いから遠ざけることが出来るのは助かる。
勿論、梅は猛反対。
絶対に俺から離れないと言って聞かなかった。
今までだったら、俺もすぐ折れた。
いや、そもそも梅と一時でも離れ離れになることすら考えもしなかっただろう。
だが、それはあくまで今までの敵が相手の場合。
今回の相手は上弦と遜色のない化け物だ。
梅を守りながら戦うのは正直きつい。
だから無惨様へ、梅に言って聞かせるように頼み込んだ。
そしたらすぐ快諾してくれた。
その後、梅へ指示が渡った。
すると梅は涙目になりながら、軽く頷いたのだった。
こうして俺は、安心して戦いに臨めるようになった。
そして廃屋の窓に身を乗り出した俺は、くるりと振り返る。
「梅、良い子で待ってるんだぞ」
俺はそう言って微笑んだ後、路地へと飛び降りた。
別れ際に、瞳に映ったのは梅の泣き顔。
(心配するなよなぁぁ。俺は絶対お前を一人になんてしないからなぁぁ)
そんなことを思いながら、周囲の路地を探索する。
すると突如肌に刺さる──────視線。
昨日からだ。
カラス、ねずみ、野良猫。
路地裏に棲む動物たちが、俺たちに視線を向けるようになった。
おそらくネロだ。唯一の目撃者である俺と梅の行動を監視しているのだろう。
(上等だ。俺の目に入った奴、片っ端から殺してやる)
獲物はざっと10から15。
鎌に殺意を乗せ、構える。
「血鬼術 飛び血鎌」
その言葉と共に、血鎌は獲物に向かって飛んで行った。
俺の血鎌は追尾性能がある。
そのため、入り組んだ路地を縫う様にぐるぐると巡りながら、一匹、二匹、一羽、二羽と葬っていく。
そして、ある程度片付け終わったところで、突然女の声が俺の鼓膜に響き渡った。
「あなたも、吸血鬼狩り?教会関係者じゃなければ嬉しいんだけど」
その声に、俺は咄嗟に振り向く。
すると、視界に飛び込んだのは金髪の女。
(綺麗な女だなぁぁ。でもまだ獲物は残ってるから話しかけないで欲しいんだよなぁぁ)
日本人離れな目鼻立ちに加え、紅い瞳は宝石のごとく。
透き通るような白い肌と、それを覆い隠すように、首から腰にかけて柔らかそうな純白の洋服に身を包み、スカートは丈の長い紫色、履物は黒い婦人靴。
見事に上から下まで露出が控えめな服だった。
しかし、身体の形はとても女性的だということが布の上からでも分かる。
そして何よりも、前頭部に二本だけ触角のように生えた髪が、親しみやすい印象を与える。
ただ、目を見れば分かるが、どうやら俺を警戒しているようだ。
だが無理もない。この見た目にこの武器だ。
俺もなれ合うつもりは無いが、かと言っていらぬ誤解をされるのは御免だ。
「・・・教会とは何も関係ないなぁぁ。ただ俺は、ネロっていう死徒を追ってるんだよなぁぁ」
俺が簡潔に答えると、女は目をパチクリさせるが、すぐに穏やかな笑みを浮かべてきた。
「であれば、わたしたち協力できそうね」
差し出される、細く雪のような白い手。
俺は面を食らってしまった。
こんな見た目の俺を初対面で、何の迷いもなく協力を持ちかけるなんて。
・・・協力、いや利用してやろう。
こいつが死徒を追い詰めた後、俺が横取りして逃げてやる。
そんなことを思案しながら、俺は血鎌を地面に投げ捨て敵意が無いことを伝える。
その後手を伸ばし、彼女と握手をした。
「俺は妓夫太郎だ。よろしくなぁぁ」
「よろしく、妓夫太郎。わたしはアルクェイド」
アルクェイドは眩しいくらい屈託のない笑顔を浮かべている。
心強い、と感じた。
同時に、なんだかむず痒い気がした。
生まれて初めての感情だったが、悪くはない。
上弦の陸、真祖と出逢う 完