上弦の鬼たちは月姫世界に転生したようです。   作:白澄星火

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第40話:上弦の伍 VS 真祖の姫①

40-1:風にあおられて

 

時は少しだけ遡る。

 

真祖の姫──────アルクェイドが屋敷から吹き飛ばされた先での出来事。

 

 

40-2:上弦の伍 玉壺

 

遠野邸の敷地は広大である。

豪邸と噴水付きの庭、そしてそれらを取り囲むように森林が広がる。

 

アルクェイドは、森林区域まで飛ばされていた。

しかし、無傷で立っている。

 

けろりとした顔で、服に着いた木の葉を払っていた。

 

そんな彼女の目の前に。

 

突然現れたのか、それとも最初からそこにあったのか。

森林の中に一つ、壺が置かれていた。

 

「ヒョッ」

 

壺口から声がした。

そして、その壺の中から、煙のように、異形の影が立ち上がる。

 

「これはこれは、真祖の姫君。お会いできてうれしい限り」

 

ゆらゆらと気味の悪い青白い体が揺れた。

目の位置についた2つの口。

額と、口の位置についている目。

耳とうなじから垂れた小さな腕。

体の両脇にも、ずらずらと10本以上の手が、まるでムカデのように生えている。

 

突然現れたソレに、アルクェイドは(いぶか)し気な視線を向ける。

 

「あなたも、うちわの男や老人の仲間?」

 

「ヒョヒョッ。仲間と言うほど良好な間柄ではありませんがねえ。それと自己紹介がまだでした。わたくしは玉壺と申すもの」

 

壺の男──────玉壺は、頭をペコリと下げた。

 

「早速ですが、真祖の姫君。大人しく眠っていただきたい」

 

そう言って、短い手の一つから、ズ・・・と新しい壺が生みだされた。

 

ピチョン、と水がはじけるような音とともに、その中から2匹の奇妙な魚が飛び出してくる。

 

ぎょろりと大きな目玉を剥きだした、デメキンのようなその魚は、ゆらゆらと空中を泳ぎながら──────いきなり、ブウ、と膨らんだ。

 

「──────千本針・魚殺!!」

 

2匹の金魚の口から、無数の針が飛び出す。

 

しかしそれを、アルクェイドは難なく回避する。

針は空を切って、ガガガッ、と樹木に突き刺さった。

 

玉壺の攻撃は緩む気配を見せない。

二匹の金魚が再び膨らむ。

 

対するアルクェイドは回避の準備に取り掛かり、脚部に力を入れる。

 

お互いが次の一手に取り掛かっていた。

だがそこに、乱入する者が。

 

「カカカッ!喜ばしいのう!玉壺が手柄を上げる前に間に合ったわ!」

 

「・・・空喜殿・・・」

 

空喜と呼ばれた、鳥のような青年が姿を現すと、玉壺は悔しそうに表情を歪ませる。

 

そして空喜はアルクェイドに向かって、がぱりと口を開き、キイイイイイと鋭い雄たけびを上げた。

 

すると、彼女は耳を手のひらで覆い、音響攻撃から身を護る。

しかし敵は一人ではない。

 

玉壺の千本針が、アルクェイドに向け放たれた。

上弦の肆と伍の同時攻撃には、流石の真祖の姫もひとたまりも無い。

 

──────と、思われた。

 

「なるほど。大体分かってきたわ。あなた達、()階梯──────上級死徒ね」

 

冷静な分析を口にしながら、まずは上空に飛んで針を避けた。

そしてそのまま、空中に羽ばたいている空喜に接近し、彼の顎を破壊して音波攻撃を中断させた。

 

流れるような一連の動作の後、狩人は地面に降り立つ。

 

「でも残念、私の耐性の前では大したダメージは望めないわよ」

 

と、アルクェイドは誇らしげに口にする。

 

対する玉壺は、ふむふむと小さな手を口に当てて考え事をしていた。

また、地面に打ち捨てられるように墜落した空喜だったが、何事も無かったようにむくりと起き上がる。

 

「カカカッ!いくら死徒となったとは言え、こんな化け物相手では、おのれが強くなった実感すらさせてもらえないのう!」

 

「ヒョッ。一緒にしないでいただきたい空喜殿。わたくしの血鬼術なら、ほらこのように」

 

玉壺は瞬時に4つの壺を同時に取り出した。

 

その口からは、巨大なタコの足が一気に飛び出す。

 

「──────蛸壺地獄!」

 

それはもはや、津波のようだった。

8本×4で合計32本のタコの足がアルクェイドを襲う。

 

しかし、彼女の腕の一振りで、一瞬でバラバラになった。

 

それでも攻撃の手を緩めない玉壺。

さらに壺の数を増やして、その10あまりの壺の口をアルクェイドに向ける。

 

「血鬼術──────一万滑空粘魚」

 

壺から、おびただしい数の魚が飛び出し、雪崩を打つ。

 

「ヒョッ!どうでしょう、この物量──────ですが貴方の実力から、これも対処可能なのは織り込み済み」

 

玉壺の言う通り、アルクェイドは一万匹すべてを両断する。

 

──────だがこの血鬼術の恐ろしさは粘魚の数だけではない。

 

「では、粘魚がまきちらす経皮毒の体液は如何かな?」

 

玉壺は誇らしげに言う。

しかし、そんな隠し技さえ、真祖の姫君は容易く吹き飛ばす。

 

──────アルクェイド・ブリュンスタッドのスペックは並外れていた。

 

高い生命力と強力な抗体。

彼女の武器である鋭い爪を本気で振るえば、余波で衝撃波が発生する。

 

粘魚の体液は、彼女の身体に一度も触れることなく周囲に散っていった。

 

今度はアルクェイドが攻勢に出る。

一気に踏み出し、玉壺の頭蓋を砕かんと、爪が振るわれた。

 

しかし、手ごたえが無い。

細切れになった薄皮が舞う。

 

壺からひらひらしているのは、玉壺の形をした皮だ。

皮を残して壺から抜けたのだ。

 

アルクェイドは顔をしかめて上を見る。

 

その先。傍らの木。

何かが巻き付いていた。

巨大な蛇のような何かが。

 

上弦の伍 VS 真祖の姫②へ続く

 

 

 

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