41-1:玉壺の真の姿
「カカッ。儂を忘れては困るのう」
空喜はそう言って、アルクェイドへ飛び掛かかる。
しかし、彼女の射程に対してぎりぎり外側のところでその身を停止させた。
空喜はアルクェイドの間合いを完全に見切った──────わけではない。
現に、彼の視線は真祖の姫には向けられていない。
これは、単純な優先順位の問題だった。
「儂の本体が・・・これはまずいのう・・・」
そう言って、アルクェイドとは逆方向へ飛んでいく。
すると、空喜が向かった先でボゴン、と大きな音が鳴り響く。
さらに続けて、連続した爆発があった。
アルクェイドはその光景に釘付けになっている。
そんな彼女の背後。
「よそ見はいけませんぞ?」
玉壺の拳が迫っていた。
しかし、見ずとも上空に飛んで回避するアルクェイド。
そのまま木の枝に、片膝をついて座る。
「結構速いじゃない。今のは危なかったわ」
真祖の姫は、敵を素直に称賛する。
「それに、さっきよりも良いと思うわよ。その姿」
「ヒョッ。これはありがたい。いつぞやのバカガキとは違い、育ちが良い方は分かってくださりますな」
そう言って、キラキラと輝く鱗を見せつける玉壺の姿は、先ほどとは大きく違っていた。
2本の腕が生えた、筋骨隆々とした"人"の上半身。
下半身は蛇のようだが、背びれのようなものがぞろぞろと並んでいるところを見ると、やはり蛇と言うよりウツボかなにかなのだろうか。
「それに貴女こそ、そのスラリとした手足も大変乙なものですなぁ。・・・ふうむ、捕らえるのであれば手足の1本や2本くらい・・・」
口に手を当て、考え込む玉壺だったが、閃いた、とばかりに両手を叩く。
「そうだ──────逃げられぬようその足を、私の芸術品にしてしまっても構いませんかな?」
「芸術品?うーん、あなたの感性だと心配だから遠慮しておくわ」
アルクェイドの口から発せられた、その一言が決定打だった。
キレる玉壺。
「血鬼術──────陣殺魚鱗!!!」
ギャガガガガ!!と玉壺の体が跳ねまわる。
周囲の木が、なんの順序も法則性もなく、めちゃくちゃに押し倒され、ありとあらゆる場所の地面が弾けた。
さらに、玉壺の拳で打たれた場所の土や樹木は、一気に何十何百もの魚に変化した。
「さあ、どうかね、私のこの神の手の威力。そして
「──────確かに、驚異的な異能だわ。それにスピードもね。でも私だって、志貴にやられた傷が塞がったから、遠慮は出来ないわよ」
そう言って、枝から降りる。
だが、空中では身動きは出来ない。
玉壺はそう判断したのか、着地前のアルクェイドへと一直線。
しかし次の瞬間、玉壺の体は反対方向に弾かれ、吹き飛んだ。
木々をバキバキと折りながらも、アルクェイドと30メートルほど離れたところで止まった。
「・・・なんてデタラメな女だ・・・」
玉壺はうんざりしたように言葉をこぼす。
今の現象は、有り得ないことだからだ。
彼の身体を覆う鱗は金剛石よりもなお硬く、強い。
しかもそれは、玉壺が鬼だった時の話。
死徒となった彼の鱗の硬度はさらに強化され、それこそタングステン弾頭でも持ち出さないかぎり傷ひとつ付けることはできない。
だがそれを。
アルクェイドの爪は引き裂いた。
さらに驚異的なのは、その攻撃の速さ。
一撃目は玉壺の両腕を斬り落とし、二撃目で胴体に当てた。
それを、玉壺の反撃が間に合わないような速度で。
これほどまでの、力の差。
玉壺が弱いのではない。
志貴の傷を回復させたアルクェイドが強すぎたのだ。
つまり、後は一方的な蹂躙になる。
誰もがそう思うだろう。
しかしそこに、新たな怪物が割り込んだことで、事態は急変する。
上弦の伍 VS 真祖の姫 完