44-1:行かないで
「それより、敵はどうしたんだ?」
志貴のその問いに、秋葉と琥珀は目を合わせる。
すると、琥珀が口を開いた。
「あの客人の方が秋葉様を守ってくれたのではないでしょうか?ねえ、秋葉様?」
「そ・・・そうね。本当に助かったわ」
2人とも、目が泳いでいる。
志貴はそんな彼女らの様子に違和感を覚えたのか、眉を
しかしすぐに、ハッとしたような表情を浮かた。
「アルクェイド・・・!アルクェイドは!?」
志貴がそう問うと、秋葉は屋敷の外を指さす。
「・・・でも、生きています。兄さんは安心して、休んでいてください。私が必ず、助け出します」
真剣な眼差しで言い切った。
これは当主としての責務なのだと、言葉にしなくても瞳がそう訴えていた。
秋葉は、身体を起こそうとする。
しかし、志貴の手がそれを中断させた。
「俺が・・・カタを付けてくる」
「・・・兄さん、お願いですから、行かないでください・・・」
秋葉が泣きつく。
すると、志貴は優しく微笑み返す。
「心配するな秋葉。必ず帰ってくる。それと翡翠、琥珀。秋葉をよろしく頼む」
「「はい、志貴様」」
そんな使用人2人の返答を聞き、志貴は頷いた後、屋敷の外へ飛び出す。
取り残された秋葉の手が、力なく虚空を掴んでいた。
◇
44-2:哀絶 VS 遠野志貴
志貴は走る。
真祖の姫の元へと。
本来であれば、彼の助けなどアルクェイドに対しては不要だ。
しかし、遠野邸を守るために、2度も敵の攻撃を真正面から受けた。
そのため、蓄積されたダメージにより本来の力を出し切れていない。
現に、いまだに激しい激突音が鳴り響いている。
これは、彼女が万全であれば有り得ない事だった。
あと少し。
あと少しで、志貴はアルクェイドの元へ到着する。
──────筈だった。
「・・・哀しいことだ」
志貴の進路に立ちふさがるように、槍を持った青年──────哀絶が現れた。
「貴様らが寄ってたかっていじめるせいで、分身体も儂1人・・・」
「──────そこを、どけ」
「そんなことを言うな哀しくなる。儂だって好きでここに立っているわけではない。力を使いすぎたから、仕方が無く足止めの役割をしているだけだ」
「お前の事情なんて、知ったことか」
悠長に会話をしている暇など無い、とばかりに会話を早々に切り上げ、志貴の身体が弾かれたように前へ。
眼鏡はすでに外されている。
すなわち、"直死の魔眼"が、哀絶の死の線を捉えているということ。
線をなぞれば、その傷は絶対に再生出来ない。
ましてや、"点"を付けばいかなる不死であろうと、殺すことが出来る。
だが、哀絶はそれを知っている。
妓夫太郎とネロとの戦いから情報を得ていたのだ。
そのため、決して近づかれぬよう、哀絶は後ろにとんだ。
それも、一気に5メートル。
「その目は、近づかなければ脅威ではない。さらに、間合いはこちらが有利・・・哀しいことだ。つまり貴様は絶対に儂に勝てないということ」
その言葉の後、重心を低くしたまま一歩踏み出す哀絶。
──────風が一瞬、凪いだ。
そして次の瞬間には、見事なまでの槍さばきを見せた。
それは、凄まじいスピードで放たれる、連続の突き技。
志貴は受けるので精いっぱいで、距離を詰めて死の線を斬ることなど到底不可能だった。
「くそっ、アルクェイドを助けなきゃ・・・いけないのに」
志貴の表情に憤りが宿る。
それは、目の前の敵に対してか。
それとも、不甲斐ない自分に対してか。
そんな中。
「──────手を貸そう。遠野志貴」
ナイフと槍が交差する金属音に交じって、代行者の声が響き渡った。
哀絶 VS 遠野志貴 完