47-1:神の手 VS 直視の魔眼
狛治と哀絶の戦いが終わってもなお、アルクェイドと玉壺の戦いは続いていた。
だがそれは、あまりにも風変わりな光景だった。
「くそっくそっ・・・なぜ当たらない・・・!?」
「うーん・・・わたしだってあらゆる呪いの耐性はあるけど、でもこれはちょっと当たるのは嫌だなぁ・・・」
すばしっこく、おどけた表情でアルクェイドは回避を続ける。
そんな彼女に対し、イライラを募らせる玉壺。
珍妙とも言えるような両者の争いが続く。
そんな中、志貴が到着した。
すると彼の登場に対して、真っ先に反応を示したのは玉壺だった。
しめたといわんばかりに、志貴に一直線に飛び出す。
そして、獲物に向かって伸ばされる右手。
この後の結果は誰の目にも明らかだった。
化け物同士の戦いに迷い込んでしまったか弱き生物は、一方的に捕食される運命なのだ。
だがしかし。
志貴は待ち構えていたかのように、ナイフを突き出した。
そう、この男は怪物の喉元に届き得る牙を持っていた。
──────直死の魔眼。
生きているのなら神すら殺してみせる、と言わしめたほどの代物である。
そして今、直死の魔眼の持ち主に向かって伸ばされているのはまさしく、神の手であった。
それは、異能と異能の激突。
どちらが相手により強い反則技を押し付けるか。
その決着は──────
「うっ・・・ぐうっ・・・」
玉壺がうめき声をあげた。
それは恐怖か、はたまた動揺か。
身体を震わせながら、右の手のひらを自身の顔の前に移動する。
その瞳に映るのは、びっしりと、まとわりつくような赤。
玉壺の手は、中指と人差し指の間から手首まで、パックリと裂けていた。
「・・・バカなバカなバカな・・・!わたくしの神の手が、そんな矮小な刃物にいいいい」
みっともなく狼狽える中、血は止まる気配を見せず、今もあふれ続けている。
それは、死徒である玉壺にとってはあり得ないことだった。
「・・・なぜだ・・・なぜ血が止まらない・・・小僧・・・わたくしの身体に、何をした!」
玉壺が、もう片方の手を振り下ろす。
対する志貴もナイフを振るうが、両者には肉体スペックの差が如実に現れていた。
当然のことながら死徒の方が攻撃が速いため、このままでは玉壺の攻撃が志貴に届く、そんな状況だった。
──────しかし、そうはならなかった。
突如として、玉壺の身体が志貴から見て直角の方向に吹き飛んだからだ。
目前の出来事に目を見開く志貴。
玉壺と入れ替わるように、彼の瞳の飛び込んできたのは。
「助かったわ、志貴。おかげでアイツに隙が出来たわ」
そう言ってアルクェイドが笑うと、志貴は肩の力を抜き、ため息交じりにつぶやく。
「助かったのはこっちの台詞だ。それよりアルクェイド。アイツまだ・・・」
「──────えぇ」
アルクェイドは頷く。
今の一撃でも、玉壺の命に届くことは無いということだろうか。
彼女は視線を、敵が飛ばされた方向に移す。
その先では、玉壺が再び、蛇のようにぬるりと茂みの奥から這い出ていた。
「ヒョッ。これはこれは。圧倒的不利を認めるしかないですねぇ。ですが──────獪岳殿」
不敵に笑った後、何者かの名前を呼ぶ玉壺。
その背後からは、何やら成人男性が入るほど大きなバッグを肩に担いだ少年が歩いてきた。
「ハハッ、間に合った間に合った。言われた通り、助けに来てやったぜ玉壺さんよ」
獪岳と呼ばれた男は、頭を掻きながらアルクェイドと志貴を交互に見る。
そして、小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「なるほどねぇ・・・ったく、弱り切っちゃってまぁ。こっちの心が痛むぜ。だが念には念を。やべぇ時はこの"保険"を使えば良いんだろ?」
「えぇ。良い交渉材料になるはずでしょう。ですが、事前に申し上げた通り──────」
「分かってるって。真祖の姫は殺すな、だろ?」
獪岳は玉壺の言葉を遮るようにして言った後、荷物を地面に投げ捨てた。
続けて、背中に差した刀をすらりと抜く。
「──────さあて、楽しませてくれよ?」
神の手 VS 直視の魔眼 完