48-1:黒雷神
獪岳は凄まじいスピードで縦横無尽に駆け回り、稲妻を放つ。
彼が通り過ぎるだけで葉は吹き荒れ、木々は軋み揺れ動いた。
正に暴風雨の如く。
人間である志貴はどうしようもできず、ただただ目を泳がせるだけ。
ただし、アルクェイドは違った。
流石は真祖の姫というべきか、彼女は獪岳を瞳で捉え続けていた。
そして、降り注ぐ雷はすべて、自身が爪を振るった際に生じる衝撃波でかき消し、己と志貴の身を守っている。
そんな様子に、獪岳は上空から不満を漏らす。
「あぁ、つまんねぇなぁ!真祖の姫君よぉ!はやくそこの弱虫を放り出して俺とやり合おうぜ・・・!」
そう言って、一段とギアを上げる獪岳。
シイイイと、空気が漏れるような音と、それに続いたのは。
「雷の呼吸 玖ノ型──────
その直後、遠野邸から見渡せる範囲すべての夜空を塗りつぶすように、"黒"が広がった。
黒雷神──────それは国産みの神、
司るのは、雷害の予兆として現れる真っ黒な曇り空と、それによって太陽光が遮断された薄暗い大地である。
そして、その御業はたった今、獪岳はよって再現された。
さらに続く。
「雷の呼吸 終ノ型──────
と、言いかけたところで獪岳の言葉が中断された。
それはなぜか。
答えは、彼の腹部に広がる、赤黒いシミ。
その中心には、十字の剣が刺さっていた。
そして口から一気に血を噴き出すと、獪岳はべしゃり、と地面に落下した。
「・・・ハッ。良いところだったのに横やりとはな。行儀が悪いぜ、代行者」
吐き捨てるように言った獪岳、そしてその視線の先には。
「俺にとっては関係無いことだな。さぁ、観念しろ、獪岳」
突如現れたのは、両手両足に装甲をまとった男。
その者の名は──────
「・・・狛治さん・・・?」
志貴の声が弱々しく響く。
対する代行者──────狛治は何も答えず、すぐに敵の追撃に走った。
「素流・砕式──────万葉閃柳」
仰向け状態の獪岳目掛け、振り下ろされた拳。
それを、身を転がして躱した獪岳は、そのまま回転を利用して技を放った。
「雷の呼吸 参ノ型──────
狛治の周囲を取り囲むようにして、無数の斬撃が走る。
しかし全てを紙一重で回避した上で、狛治はさらにカウンターを放つ。
対する獪岳は後ろに飛んだことで避けた。
「ハハッ・・・良いじゃねぇか」
獪岳は笑う。
この戦いを心底楽しんでいるように見えた。
そんな中、玉壺が興味深そうに声を上げる。
「ヒョッ・・・これはこれは猗窩座殿・・・"そこ"に舞っている花弁はもしや・・・?」
その言葉の後、狛治の表情が一変した。
「・・・くそっさっきの攻撃で・・・」
狛治の腰に付けた小さなポーチに斬り傷が入り、そこから青い花弁が舞っていた。
「・・・中は無事か・・・?」
狛治は冷静さを失っていた。
ポーチの中に手を入れ、いくつか花弁を手に取る。
すると彼の表情に少しだけ安堵が宿った。
それを見ていた玉壺は、顎に手を当てた。
「やはり青い彼岸花・・・まさか本当に実在するとは・・・ではでは猗窩座殿・・・わたくしと大事な話し合いをいたしましょう」
「おいおい、せっかく良いところだったのによぉ」
「黙れバカガキが!・・・コホン失礼。ではでは皆様、こちらをご覧ください」
そう言って、玉壺は、獪岳が持ってきていた荷物のジッパーを開けた。
そこには──────。
黒雷神 完