上弦の鬼たちは月姫世界に転生したようです。   作:白澄星火

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第49話:取引

49-1:取引

 

袋の中から現れたのは、四肢をもがれ、血にまみれた男だった。

身体中には、刀の切っ先がいくつも突き刺さり、傷口からはヒビは広がっている。

 

その男は、つつけば途端に崩れてしまうのではと思うほど脆く、弱々しい姿であった。

 

投網に(さら)われた魚、蜘蛛の巣に絡まった虫の運命は言うまでもない。

捕獲捕食による惨めな死だ。

 

そして、その男の生殺与奪すべてを握るのは、すぐ横に立つ異形、玉壺。

 

「ヒョッ。皆様、良い表情をお浮かべになられた。そう、この男は──────」

 

「──────ええ。知ってるわ。アカシャの蛇──────ミハイル・ロア・バルダムヨォン」

 

玉壺の言葉を遮るように、アルクェイドは冷たく言い放つ。

まるで、傷だらけの男──────ロアと彼女の間には深い因縁

があると言わんばかりに。

 

続けて、狛治が口を開いた。

 

「・・・なるほどな。お前たち鬼の考えることは分かりやすい。つまり、"蛇"と青い彼岸花の交換というわけか」

 

「ヒョヒョッ。ほぼ正解でございます。元々、ロアを用意していたのは別の目的──────代行者に見逃してもらうための交渉材料だったのですが、お蔭で良い掘り出し物が見つかりました。感謝しますよ猗窩座殿」

 

「そうか、だがその要求を飲むと思うか?こちらはロア一人を手に入れるだけだぞ?あまりにも不公平だと思うが?」

 

そう言って、狛治は拳を構える。

交渉を受け付けないという意思を、言葉にせずとも相手に伝えた。

 

しかし、彼の胸から突然ビープ音が鳴った。

そして、続けて響いたのは子供の声だった。

 

「ようやく会えたな。バルダムヨォン」

 

「・・・何・・・者だ。随分と私に・・・気安いようだが」

 

ロアは、無線機の向こう側から発せられる声の主に対して、この場で初めてとなる言葉を発した。

そしてその絞り出された言葉の返答はすぐにあった。

 

「この街に派遣された司祭代行だよ。名前はマーリオゥ・ジャッロ・ベスティーノ」

 

「ベス・・・ティーノ・・・ラウレンティスの・・・隠し子・・・だな?・・・そう・・・か。まだ生きているとは驚きだ・・・どうやら・・・そちらはそちらで・・・愉快な事態(こと)になっているな?」

 

「ああ、おかげさまでな、爺さんは今も正気じゃねぇよ。・・・で、どうなんだ?テメェ、完全にバルダムヨォンか?」

 

「ふっ・・・抜かせ・・・転生に成功・・・していたら・・・このようなヘマは・・・していない」

 

「だろうな。だったら、さっさと目を覚ましてこい・・・と言いたいところだが、今の状況を鑑みると、そうもいかねぇみたいだな・・・つまり、ロアは人質というわけだ。俺たちが交渉を断ればロアは葬られ、10年後まで機会は訪れねぇ。間違いなく、その間に爺さんは・・・クソッ・・・やってくれたな──────鬼ども」

 

マーリオゥは、マイク越しでも分かるほどの憎悪を鬼に向けた。

対する鬼、その内の一人である玉壺は声を弾ませながら話し始めた。

 

「ヒョヒョッ。状況をご理解いただき何より。ですが、貴方たち教会も損にはならないと思いますがねぇ」

 

「・・・へぇ。例えばどんなだ?」

 

「交渉が成立した後、我々は大人しく引きましょう。もちろんロアを置いて。そしたらすぐに、ロアを一度街に放ちつつも、代行者たちに監視させておけばよろしいのでは?そうすれば、ロアの覚醒後にすぐ捕獲が出来るでしょう」

 

「そんなことか。言うと思ったぜ。まぁしょうがねえ。オレたちも、拒否したらせっかくのお宝がパァだ。交渉を受け入れるぞ。狛治」

 

「──────しかし・・・!」

 

取り乱す狛治、抗議の意が見て取れるが、彼が最後まで言い切る前に、アルクェイドが割って入った。

 

「ふざけないで頂戴。"蛇"を逃がすなんてありえないわ」

 

「ここは引いてくれ真祖の姫様。いずれロアは必ず殺し切るから安心しろよ。幸い今は、第七聖典の使い手も用意してるからな。そんなこより、こっちは解脱の法をなんとしても手に入れなきゃいけないんだよ」

 

「関係ない。邪魔をするのであれば、今ここで──────」

 

アルクェイドの殺気が、周囲を包む。

それにより、マイク越しのマーリオゥや、交渉を有利に進めていた玉壺でさえも戦慄し、彼らは言葉を失った。

 

その場にいた者たちは一斉に凍り付いた。

ただ一人を除いて。

 

「──────交渉の邪魔をするんだったら、俺が相手になるぜ、アルクェイド・ブリュンスタッド。尤も、俺からしたらアンタともう一度戦えるのはそれはそれでアリなんだけどな」

 

声を上げたのは、獪岳だった。

人から鬼へ、そして今では死徒となり、力を伸ばし続ける異才。

死徒となってから時間もたたずに、ロアを捕獲するほどの実力を持つ彼は今自信に満ち溢れていた。

 

「ハハッ。俺は一体、どこまでやれるんだろうな?なぁ?」

 

何よりも大きいのは、自身の力を試したいという欲求。

そんな彼の目の前にいる真祖の姫は、絶好の得物であった。

 

獪岳のその一連の言動から、マーリオゥはすぐに彼の習性を理解し、さらには利害の一致を見出したようで、死徒に対して意外な返答をした。

 

「助かるぜ。ぞれじゃあ、俺たちは別の場所で交渉を進めようか。移動するぞ。狛治」

 

「・・・承知しました」

 

狛治は頷き、その場を後にした。

 

アルクェイドはすぐに追いかけようとするが、獪岳がそれを阻止する。

 

「まぁ待てって。アンタは俺と戦うんだよ」

 

「邪魔を──────するな」

 

ビキビキと、鋭い爪が伸びていくと同時に空気が軋んだ。

対する獪岳はそれに気圧されることもなく、不敵に笑ったまま刀を構えていた。

 

取引 完

 

 

 

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