54-1:感情
「よくぞノエルを助けてくれました。ありがとうございます」
声の主の姿は見えない。
しかし、淡々としつつも、この優しい声色を俺は知っている。
「シエル・・・ちゃん・・・?」
「一つ、謝らなければなりませんね・・・青い彼岸花を貴方達に与えるのを、狛治に止めさせていたのは私ですから。でも、確証が欲しかったんです。貴方達鬼が、本当に人間に害を及ぼさないのかを」
「そう・・・か。じゃあ、今俺の口に入っているのって」
俺がそう尋ねると、シエルちゃんは少しの沈黙を挟んだ後、咳ばらいをした。
そして。
「私は──────貴方を認めます」
そう言って見せたのだ。
俺は、その一言が信じられなかった。
確かに、代行者からの信頼を勝ち取るのが俺の生存戦略だった。
しかし、シエルちゃん相手にこの言葉をもらえるとは、想定外だった。
なぜなら俺は初め、この子を食べようとした。
自分でも、最悪な出会いだったと思う。
それでも、俺を認める、と。
この子は言った。
(なんだろう、この気持ち。しのぶちゃんに抱いたものとは違う。でも・・・暖かい)
続けて、シエルちゃんは言った。
「童磨さんは休んで、ただ見ていてください。埋葬機関第七位の、完全武装した実力を」
そして、謡うように、願いを捧げるように。
代行者は、洗礼を口にした。
「──────"主の御名において、第一の死因よ、
しかし、その言葉を最後に、俺の意識はだんだんと薄れていった。
まどろみの中で俺は、彼女の雄姿を見れないのは残念だと、柄にもないことを思った。
◇
54-2:第七聖典
7.62mmの火花を散らす投石機。
戦場において過剰火力と言われる大口径の弾丸が死徒──────獪岳に放たれる。
8mm、9mmに代表される、兵士を負傷させ戦闘不能にするための暴力ではない。
これは肉と鉄を吹き飛ばすために調整された、吸血鬼殺しの近代兵器。
しかし、獪岳には届かない。
稲妻の如きスピードで、容易く回避されてしまう。
「ハハッ。大したもんだぜ、──────火力だけは、な」
そう言って、獪岳はシエルの背後に回り込む。
──────獲った。
と思ったことだろう。
だが、獪岳の身体は突如として仰け反り、そのまま硬直した。
彼を襲ったのは、一撃で大型動物の身体機能を停止・破壊する雷撃。
雷の呼吸と血鬼術を得意とする獪岳が、よりによって同属性の攻撃を食らったのだ。
その理由。
天才魔術師ロアの知識を使用できるシエルは、魔術協会の最上位、
そして、先ほど放たれたのは、数秘紋による雷霆。
ただ、それを真正面から受けつつも原形を保っている獪岳もまた、規格外の化け物といえよう。
数秒で身体機能を取り戻し、後方に跳躍すると、シエルとの戦闘を継続すべく刀を構える。
そんな獪岳を見て、シエルは決心したように。
「──────"主の御名において、第三の死因よ、
自らに向けて詠唱する。
現状、銃器による制圧は不可能だと判断したのだろう。
であれば、刃を散らす白兵戦の時間になる。
貴方を認めます 完