56-1:事件終結
──────第七聖典。
聖堂協会が主の威光を示すために作り上げ、長く使い手不在だった問外不出の聖遺物。
シエルの声に応え、変形する鉄の刃。
剣は収まり、そのカタチを杭打ち機に変えた。
鉄の塊に装填された刃は1メートルを超え、もはや杭打ち機というより、一種の重機とも言えた。
──────
肉体ではなく、魂を破壊する聖典が起動を終える。
死徒である自身すら殺し得る凶器を前にして、獪岳は久方ぶりに冷や汗を流した。
「・・・その武器とも戦ってみたかったが、俺はここで死ぬには早すぎる。また今度だ。その時に決着をつけようぜ、代行者」
「逃がすとお思いですか?今すぐここで──────」
シエルが切っ先を敵に向ける。
その瞬間、獪岳の命運は決定づけられた。
しかし、断罪は成されなかった。
──────耳元から流れる声が、彼女の動きを一瞬止めさせた。
「今・・・ロアを・・・逃した・・・と?」
思わずオウム返しをした、彼女の瞳が大きく見開かれる。
断罪者を動揺させるには十分すぎるものだったのだろう。
その一瞬を見計らって、獪岳は姿を眩ませる。
シエルはぎりりと刃を食いしばった。
危険な死徒をよりによって二人同時に逃がすなど、あってはならない。
シエルはすぐさま、真上に飛んだ。
飛んだ、と言っても翼によるものではなく、彼女の並外れた脚力による跳躍。
上空からは、状況が見えやすいという判断によるものだろう。
しかし、動揺によって生まれた遅れを取り戻せるほど、獪岳のスピードは甘くはない。
シエルは苦虫を噛み潰したような顔を一瞬浮かべた後、そのまま重力に身を任せ、着地した。
今度は、地面に転がった男の元へ歩いていく。
獪岳に首を斬られ、さらには進行したヒビによって一度は身体が崩壊寸前であった童磨。
しかし、青い彼岸花の効果か、状態は落ち着いていた。
童磨は、シエルに助けられた後、自身の首を拾う動きすら見せないまま気を失っている。
にもかかわらず、何事もなく首が繋がっていた。
胴から生えたのか、無意識下で首を繋げたのか、それは誰にも分からない。
シエルも特に気にする素振りもなく、近くでしゃがみ込んだ後、童磨の体を持ち上げた。
さらに言えば片手で、である。
もう片方の腕は第七聖典が抱えられていた。
そのままシエルは歩き出す。
先ほどまで死徒と激闘していたことに目をつぶれば、華奢な少女が体格の良い男を一人で運んでいることになり、異様な光景だった。
こうして、事件は終結を迎えた。
獪岳により複数犠牲となった代行者たち、そしてロアの逃亡。
この夜の出来事は、教会にとって衝撃的なものであった。
事件終結 完