第57話:事件の翌日
57-1:事件の翌日
代行者連続殺害事件の次の日。
事件の報告や会議などに忙殺された狛治は、疲れ切った表情で或るアパートの屋根にしゃがみ込んでいた。
すっかり日は落ち、街には明かりが灯っている。
入居者のドアの前にはシエルが立っており、彼女は屋根から顔をのぞかせる狛治と目配せをした。
その後シエルは軽く頷き、ドアノブを回して玄関に入っていった。
シエルは靴を脱ぐと、入りますよと短く言った後つかつかと奥の部屋まで歩いていく。
部屋のドアを開き、シエルが足を踏み入れたその瞬間、入居者たちは様々な表情を浮かべていた。
まず六つ目の侍──────黒死牟はただ目を見開いていた。
入居者の中で唯一の女性である堕姫は、あんぐりと口を開き、そんな彼女の兄である妓夫太郎も、流石は血のつながりか、同じような表情を浮かべていた。
最後に、虹色の瞳を持つ童磨はわざとらしく、「わあ」と驚くような素振りを見せていた。
彼らの並々ならぬ反応は、シエルの手に握られているものが理由だった。
鬼の弱点、日光を克服する魔薬。
──────青い彼岸花。
ごくり、と誰かがつばを飲み込む音が響くと、それを起点にして、まるで
「童磨さんから話があったけど、やっぱり実際に目にすると違うなぁぁ」
「シエル・・・それ、はやく頂戴!」
「・・・これで太陽の克服が出来る・・・か」
鬼たちが、一斉に喋り出すものだから、シエルの顔に困惑が浮かんだ。
それを童磨がフォローを入れることで踊る会議は進展を見せる。
「それで、誰からいくんだい?」
「何か変なものを入れられてる可能性だって捨てきれないからなぁぁ。梅が最初なのは絶対にダメだ。俺が最初が良いなぁぁ」
最初に名乗りを上げたのは、妓夫太郎。
残りの二人の反応は様々だった。
「もう、私が最初が良かったのに!だってお日様を浴びれれるのよ!」
「妓夫太郎・・・私は異論はない」
「黒死牟さん、ありがとうございます。それと梅、ワガママ言うなよなぁぁ。遅いか早いの違いしかないんだから、我慢しろよなぁぁ」
妓夫太郎が
すると堕姫は頬を膨らませつつも大人しくなった。
こうして、ひとまずは本来忌避される毒見役が決まったため、シエルは妓夫郎の前で片膝をつく。
「では、口を開けて下さい」
シエルがそう言うと、妓夫太郎は素直に口を開けた。
そして、青い彼岸花が入れられていく。
ごくり。
妓夫太郎は、シエルの手が止まった後、すぐに飲み込んだ。
周囲はただ黙って見守っている。
すると、接種してから20秒ほど経過後、異変があった。
「なんだか、すごく眠たいなぁぁ」
ふらふらと、妓夫太郎の頭が揺れる。
瞳は虚ろだった。
ぱくぱくと動く口は、何かを訴えかけようとしているようだったが、続けて出てきた言葉は呂律が回っていなかった。
そしてついに、妓夫太郎はばたんと倒れる。
それを見ていた堕姫は取り乱し始めた。
「ちょっと、お兄ちゃん!?どうしちゃったのよ!」
「今のを見るに、俺があの時意識を失ったのは、傷によるものではなく、青い彼岸花のせいだったのかな?」
「いやよお兄ちゃん!死んだら許さないから!」
「・・・別に妓夫太郎は死ぬわけではないと思うよ堕姫」
童磨がフォローを入れるが、堕姫は聞く耳をもたず、兄に縋り付いている。
それを見ていたシエルは、肩を竦めると。
「残りの二人については、日を改めましょうか」
「それが良いとおもうよ。シエルちゃん」
「では、明日の昼に一度、こちらに立ち寄りますので」
事件の翌日 完