58-1:妓夫太郎、日光を克服する
妓夫太郎が青い彼岸花を接種してから一夜明け、時刻は午前8時ごろ。
上弦の鬼たちが暮らすアパートの駐車場に、童磨は立っていた。
彼は鬼であるにもかかわらず、日光を浴びても平気になっていた。
太陽の方へ身体をむけ、姿勢をぐーんと伸ばし、大きく息を吸う。
そのまま数秒伸びをキープした後は、だらんと脱力しながら息を吐いた。
そして、自身が暮らす部屋のドアから視線を感じたのか、くるりと向きを変えた。
「おーい、妓夫太郎も怖がらずこっちにおいで」
そう言いながら、手招きをする童磨。
彼が話しかけた相手は、ドアの隙間から顔を半分出した妓夫太郎だった。
その表情は、隠れていても分かるほど、疑念や不安に満ちていた。
「童磨さん、本当に大丈夫なのかぁぁ?俺だけ焼け死ぬってことは無いよなぁぁ」
「どうしてそんなことが起きるというんだい?妓夫太郎は心配性だなぁ」
「はぁぁ・・・しょうがない。これがうまくいけば、梅にも日の光を見せてやることもできるからなぁぁ」
妓夫太郎は観念したようで、階段をとぼとぼ降りていく。
しかし、日陰と日向の境目を超える寸前で、足を止めた。
妓夫太郎は深呼吸をする。
それを、童磨は何も言わずただ見守っていた。
そして。
ついに妓夫太郎は
その後二歩、三歩と、しっかりした足取りで童磨のもとへ歩いていく。
そして二人が向かい合うと、童磨は優しく微笑んだ。
「どうだい?感想は」
「・・・あったかい・・・なぁぁ」
「それはなによりだ。ほら、上を見てごらん」
「──────、──────」
妓夫太郎は思わず言葉を失った。
頬には、涙が伝っている。
「・・・梅にも見せてやりてぇなぁぁ」
◇
58-2:工作
時刻は昼の12時過ぎ
昨日と同じく、アパートの屋根には狛治、中にはシエルというフォーメーションで代行者は上弦の鬼たちの元へ訪れていた。
そしてどうやら、堕姫への青い彼岸花接種は終わっているようで、妓夫太郎の膝の上で寝息を立てている。
つまり残るは黒死牟のみだった。
シエルは、向かい合うようにして膝をつき、口を開けるよう促す。
対する黒死牟は、少しだけ渋った後、言われたようにした。
黒死牟の口の中に、青い彼岸花が入れられる。
数秒経ったところで、妓夫太郎や堕姫と同様に、眠りに落ちた。
するとシエルは顔をのぞき込んだり、脈を測ったり、頬を叩いたりして本当に黒死牟が寝ているか確認した。
それに何の意味があるのか、すぐ近くに座っている妓夫太郎は首を傾げている。
一連の確認を終えると、シエルは無線に話しかける。
「予定通り実行します」
がちゃり、と玄関のドアが開く音が響いた。
少し間を置いて、足早に歩いてくる音がしたと思えば、部屋のドアが開かれた。
そこには、代行者──────狛治が立っていた。
狛治は何も言わず、シエルにカプセルを手渡す。
受け取ったシエルは、黒死牟の体を起こし、口に無理矢理カプセルを入れた。
それを見ていた妓夫太郎は、当然のように声を上げた。
「おい、アンタらなにして・・・」
「まぁまぁ、妓夫太郎。ここは抑えておくれ」
童磨が制止する。
それで妓夫太郎は引き下がるが、瞳は不信感が消えない。
「後で説明してくれよなぁぁ」
「もちろんだよ」
妓夫太郎、日光を克服する 完