上弦の鬼たちは月姫世界に転生したようです。   作:白澄星火

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第60話:タイムリミット

60-1:タイムリミット

 

事実を知った黒死牟殿が暴れた際、巻き込まれないようにと、妓夫太郎と堕姫は部屋から出て行った。

 

この場に残ったのは、俺と猗窩座殿、そして、まだ意識を取り戻さない黒死牟殿の3人。

 

先ほどまで、超然とした態度であった猗窩座殿だったが、時間が経つにつれ表情に緊張が見えてきた。

 

「・・・黒死牟ほどの実力者を、半ば騙すような形で一服盛るなど、いくら首輪をしているとはいえ正直恐ろしいな」

 

「いやいや猗窩座殿。"半ば"ではなく、あれは"完全に"騙し討ちだろうに。黒死牟はどれほど怒るのだろうなぁ」

 

俺がありのままの事実を言って見せると、猗窩座殿は居心地の悪そうに眼を下に向け、しばらく黙り込む。

そんな彼の様子が物珍しく感じ、顔を覗き込みながら、俺は言葉を続ける。

 

「おいおい猗窩座殿、今更腰が引けてきたのかい?」

 

「黙れ、考え事をしていただけだ。気楽なお前と違い、悩みは多いんだよ」

 

猗窩座殿は苛立ちを交えながら、視線を逸らす。

以前の彼だったら、有無を言わさず拳が飛んできたが、そのような予兆も無い。

 

(俺と猗窩座殿の仲も、縮まったということかな?)

 

俺たちの友情の深まりを実感する。

 

そして今、友である猗窩座殿は悩んでいる。

俺は、相談に乗ってあげることにした。

 

「抱えこむのは良くないぜ。もしかして、ロアを逃したことが、そんなに気がかりなのかい?あれは猗窩座殿のせいでは無いだろう」

 

「そういう問題ではない。だが、ロアに関連するというのは半分正解だ。尤も、さらにまずいことが今起きようとしているがな」

 

「それは?」

 

「法王庁・・・まぁ俺やシエルが属す組織の本拠地だな。そこから、前回以上の大戦力が送られてくる。そうすれば、ロアや獪岳はおろか、お前たち・・・いや、最悪の場合はこの街まるごと廃墟になるかもしれない」

 

猗窩座殿が重々しく口にするが、俺の感情はほとんど揺れ動かなかった。

ただただ、飄々と相槌を打つ。

 

「それは怖いねえ」

 

「だから、一刻も早く無惨様のようにこの街から離れた方が身のためだぞ」

 

「優しいねぇ、猗窩座殿は」

 

「・・・忠告はしたぞ」

 

「でも、もっと良い方法があるのではないかな?」

 

俺がそう言うと、猗窩座殿は訝し気な視線を送ってくる。

下手なことを言うと、拳が飛んできそうだ。

 

だが、そんなことは気にも留めず、俺は続けた。

 

「法王庁とやらの大戦力が来る前に、決着をつける・・・とか」

 

「簡単に言ってくれるな・・・」

 

「俺は本気だぜ」

 

俺はそう言って見せた。

 

猗窩座殿は深いため息をつく。

呆れ果てたのか、顔を下に向け、沈黙を続けた。

 

そして、何かを決心したかのように、強く拳を握りしめると、固く結ばれていた猗窩座殿の口がおもむろに開かれた。

 

「・・・いつもおちゃらけて、それなのに俺よりも強くて、そんなお前が嫌いだった。正直それは今でも変わらない。でも、今生の願いを聞いてくれ・・・勝手なのは・・・百も承知だ」

 

「聞かせておくれ、猗窩座殿」

 

「・・・俺は・・・小雪と、義父さん・・・そして、二人が住むこの街を守りたい・・・だから・・・だから、協力してくれ・・・童磨」

 

意外な返事だった。

猗窩座殿は、両手を地面につけ、頭を深く下げている。

 

・・・無下にするわけにはいかない。

こういう場合は、友として全力で助けるべきだろう。

 

(そうやって、人と人は仲良くなっていくものだからな。それに、協会の大戦力がロアや獪岳殿を討伐して、すぐ帰る保証もない。矛先がこっちに向く可能性だってある。結局のところ、この件は早めに解決するしかないと俺は思う・・・尤も、こんなことをわざわざ言うのは野暮だろう。せっかく仲良くなってきたんだからな)

 

「ああ。俺たちなら出来ると思うぜ。さあ、協会本部とどっちが早いか、勝負しようじゃないか」

 

タイムリミット 完

 

 

 

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