上弦の鬼たちは月姫世界に転生したようです。   作:白澄星火

63 / 67
第63話:改めて、ありがとう

63-1:改めて、ありがとう

 

「・・・もう一度、良いかい?」

 

「だから、遠野シキは俺一人だけですよ。遠野家養子の、もう一人の遠野シキなんて知りません」

 

志貴殿の言葉に対して、俺は開いた口が塞がらなかった。

・・・嘘をついているようには見えない。

 

本当に、困惑した表情でこちらを見ている。

まるで、俺がおかしなことを言っているかのように。

 

(猗窩座殿、遠野秋葉に騙されたか?)

 

そんなことを思っていると。

 

「要件はそれだけですが?実は俺、生徒指導の先生たちと話す予定もあるんですよ。しかもココ(茶道室)で」

 

「ああ~職員会議で話題になってたわね、志貴クンが夜遊びしてるって」

 

「ノエル先生、人聞きが悪いですよ。そんなんじゃありません・・・」

 

志貴殿が弁明する通り、どう見ても夜遊びするような不良少年には見えないし、嘘が上手にも見えない。

 

"シキなんて知らない"

おそらく本当のことなのだろう。

 

(であれば、遠野秋葉に聞くしかない・・・か)

 

「ありがとう志貴殿。俺の思い違いのようだ。くれぐれもこのことは、妹さんには言わないでおくれよ。それでは、これで失礼するよ」

 

そう言って、立ち上がる。

ノエルちゃんも同じ考えのようで、視線を交差させると彼女も立ち上がった。

 

「じゃあね、志貴クン」

 

ノエルちゃんも志貴殿へ挨拶を済ませる。

俺は先に草履を履き、ドアを開いて待つ。

 

こういう場合、女性を先に通すのが良いとされている。

 

ノエルちゃんが俺に軽く会釈をし、部屋の外に出ると、すぐに俺も続いた。

 

ドアを閉めると、同時に2人同時に肩を落とした。

 

「いやあ、結局遠野邸まで行かないとだねえ」

 

「でも、志貴クンを守るのも必要ですよね?」

 

「そうだねえ、それは俺がやろうか。ノエルちゃんは猗窩座殿への報告と合流をお願いできるかな?」

 

「・・・助かります」

 

「気にしないでおくれ。ロアみたいな危険な相手、ノエルちゃんには荷が重いでしょう」

 

俺がそう言うと、ノエルちゃんがこちらに身を乗り出してきた。

 

「ありがとうございます!そうなんです!私は弱いんです!だから、強い相手はよろしくお願いしますね!?」

 

「あはは。任されたよ。でも、獪岳殿にボロ負けしたばかりだからねえ。今の俺は、死ににくいのが取り柄ってところかな」

 

「・・・それでも、あの日の夜は助かりました。本当に、ありがとうございます」

 

ノエルちゃんはそう言って、深々と頭を下げた。

 

本来、彼女は命の奪い合いをするような仕事が向いていないのだろう。

それは、実力もそうだし、人格もそうだ。

それでも。

弱くても、一生懸命背伸びしている姿は、少しだけしのぶちゃんに重なって見えた。

 

「良い良い。俺は困っている女の子を放っておけないからね」

 

俺がそう言うと、ノエルちゃんは顔を上げる。

そこには、安心したような、緩んだ表情が浮かんでいた。

そして彼女は軽く会釈をし、去っていく。

 

俺は手を振って見送った後、茶道室の隣の部屋に入り、時間をつぶすことにした。

 

改めて、ありがとう 完

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。