64-1:上弦の弐 VS アカシャの蛇
長い秒針が音をたてて、6時を過ぎた事を告げてくる。
結局、志貴殿が居続ける茶道室に、誰も訪れることはなかった。
そして俺は、そろそろ護衛も飽きてきたな、と思い始めていた。
その時だった。
校舎の見回りをさせていた1体の結晶の御子が、破壊された。
(これは・・・)
俺は立ち上がり、廊下に出る。
結晶の御子が破壊されたのは、下の階の渡り廊下。
俺は、2間(約3.5メートル)先の階段まで一息で詰める。
次に、階段は駆け降りることすらせず、下の階まで一気に飛び降りた。
顔を上げると、そこには夕日に照らされた、まっすぐ続く廊下。
そして、少し離れたところから、俺が来るのを分かっていたかのように。
──────男が、こちらを見ていた。
俺が彼を目にしたのは、初めてだった。
でも一目で、"なんであるか"が分かった。
転生無限者、アカシャの蛇。
そう、彼の名は──────
「・・・ミハイル・ロア・バルダムヨォン」
「私を知っているか、転生せし鬼よ」
「転生・・・か。君ほどじゃないよ。まだ1度しか死んでいないからね」
「そう謙遜するな。死を経験した者など、我々ぐらいだ。つまり特別なのだよ。他者よりも、死を理解しているのだからな」
「二度とごめんだけどね」
「フン・・・そうだ、転生の経緯や手法を聞かせてくれ。ああそれと、どうやって不死身に近い肉体を得たかも、だ」
「話したら、大人しく殺されてくれるかい?」
「ぬかせ、私が君を
「う~ん、それは困るよ」
俺は、二対の扇を取り出し、構える。
(さて、当然だけど、やるしかないよね)
ただ、青い彼岸花を摂取してから、実戦経験は無い。
今の自分がロアにどれだけ通用するかは未知数。
だが、一方的にはならない自信はある。
俺は、ロアとの距離を詰めるために、踏み出そうとした。
だが、次の瞬間──────
ロアは、俺の背後に立っていた。
(やはり並みの死徒じゃないね。以前の俺だったら、全く反応できなかっただろう)
流石は青い彼岸花。
接種の前後で、これほど違うのか。
脊髄反射ではあるものの、ロアの驚異的な速度に反応できていた。
その後、空白を入れることなく、攻防が始まる。
まず最初にロアの手が、俺が握る扇を落とそうとした。
が、俺が手を逸らしたことで空を切った。
次に、俺は間髪入れずに、反撃のためにもう片方の扇を振るう。
しかし、ロアはそれをたやすく回避する。
このままお互い決めきれずに、技の応酬が続く、かのように思えた。
だがしかし。
「む・・・呼吸が・・・」
ロアは、俺の粉凍りを吸ったようだ。
眉をひそめながら、胸元をおさえている。
これで確実に動きは鈍るはず。
この好機を逃すわけにはいかない。
「血鬼術──────寒烈の白姫」
空白を入れず、俺は技を出した。
しかし、ロアは後ろに飛んで回避する。
そして、次の技を出しても、同じく回避される。
というより、俺との距離をロアは一定に保ち続けているようだ。
(粉凍りを吸わないためだね。つまり、接近戦はもう仕掛けてこないというわけか)
などと分析していると、誰かが、階段から降りてきた。
「童磨さん、これはいったい?」
志貴殿だった。
そして、彼の姿をロアが見た瞬間。
──────その表情は、愉しげに歪んだ。
上弦の弐 VS アカシャの蛇 完