66-1:蛇(志貴視点)
「あ──────」
頭蓋を駆ける痛み。
この危機感は、目の前の男に対してだ。
俺は──────遠野志貴は、この男にだけは、会ってはいけない気がしている──────
定まらない息遣いのまま眼鏡を外す。
懐に隠していたナイフを抜く。
視界の端にいる、童磨さんが何か言葉を発したような気がした。
だが、そんなこと今はどうでも良い。
サイレンのようにけたたましく鳴り続ける警告音。
"この男から少しでも意識を逸らせば、俺は死ぬ"
ナイフを構える。
距離をつかむ。
だが。
やはり、あまりにも遅かった。
俺が走り出す前に男は俺の背後にすり抜けていた。
そしてすぐさま、男は俺の手を打ち、ナイフを奪った。
その目は青く光りながら、俺の体の線を、直視していた。
「残念だったな。死を視るのは、何もお前だけの特権じゃない」
◇
66-2:蜘蛛(童磨視点)
たった今、ロアと志貴殿が遭遇した。
(あくまで最優先はロアの抹殺。任務遂行の際に志貴殿の護衛が障害になるのなら、俺は躊躇なく切り捨てさせてもらうよ)
とは言え、ロアが完全に志貴殿に視線と関心を向けている今の状況は、好機といえよう。
ロアの背後に向けて、俺は扇を振り下ろす。
その瞬間。
──────白いナニカが、視界に広がった。
◇
66-3:転生(志貴視点)
「──────あ」
ずざ、と肉を裂く音。
白い鋼は、まるで紙でも穿つように、この胸に突き刺さった。
体が倒れこむ。
全身から力が抜けて、床に崩れ落ちていく。
その最中。
見上げるように、男の顔を見た。
「──────」
目の前が、真っ暗になる。
男の顔。こんな男の顔を、俺は知らない。
なのに、覚えがある。この血の流れを覚えている。
だって、こいつは──────
あの夏の日に、俺の目の前で、
血にまみれていた少年の姿そのものだ。
だん、と床に倒れこんだ。
不思議と痛みも出血もない。
胸にはナイフが突き刺さったまま。
ただ、体温が下がっていく。意識がだんだんと薄れていく。
体の自由がなにもかも消え去っていく。
「お前が殺された借り、確かに返却した。もはや思い残すこともないだろう。焚書の時だ。遠野──────四季」
男は虚空に向かって言葉を送っている。
ああ──────どうして今まで忘れていたんだろう。
子供の頃。
遠野の屋敷で遊んだ、自分と、秋葉と、もう一人の子供のことを。
「シ──────キ」
「そうだよ志貴。本当に、久しぶりだ。まあ──────いささか、遅すぎたようだがね。この体の持ち主、遠野四季はたった今消え去った。君への復讐を完遂して、な」
転生 完