上弦の鬼たちは月姫世界に転生したようです。   作:白澄星火

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第66話:転生

66-1:蛇(志貴視点)

 

「あ──────」

 

頭蓋を駆ける痛み。

この危機感は、目の前の男に対してだ。

 

俺は──────遠野志貴は、この男にだけは、会ってはいけない気がしている──────

 

定まらない息遣いのまま眼鏡を外す。

懐に隠していたナイフを抜く。

 

視界の端にいる、童磨さんが何か言葉を発したような気がした。

だが、そんなこと今はどうでも良い。

 

サイレンのようにけたたましく鳴り続ける警告音。

 

"この男から少しでも意識を逸らせば、俺は死ぬ"

 

ナイフを構える。

距離をつかむ。

 

だが。

 

やはり、あまりにも遅かった。

 

俺が走り出す前に男は俺の背後にすり抜けていた。

そしてすぐさま、男は俺の手を打ち、ナイフを奪った。

 

その目は青く光りながら、俺の体の線を、直視していた。

 

「残念だったな。死を視るのは、何もお前だけの特権じゃない」

 

 

66-2:蜘蛛(童磨視点)

 

たった今、ロアと志貴殿が遭遇した。

 

(あくまで最優先はロアの抹殺。任務遂行の際に志貴殿の護衛が障害になるのなら、俺は躊躇なく切り捨てさせてもらうよ)

 

とは言え、ロアが完全に志貴殿に視線と関心を向けている今の状況は、好機といえよう。

ロアの背後に向けて、俺は扇を振り下ろす。

 

その瞬間。

 

──────白いナニカが、視界に広がった。

 

 

66-3:転生(志貴視点)

 

「──────あ」

 

ずざ、と肉を裂く音。

白い鋼は、まるで紙でも穿つように、この胸に突き刺さった。

 

体が倒れこむ。

全身から力が抜けて、床に崩れ落ちていく。

その最中。

 

見上げるように、男の顔を見た。

 

「──────」

 

目の前が、真っ暗になる。

男の顔。こんな男の顔を、俺は知らない。

なのに、覚えがある。この血の流れを覚えている。

 

だって、こいつは──────

あの夏の日に、俺の目の前で、

血にまみれていた少年の姿そのものだ。

 

だん、と床に倒れこんだ。

不思議と痛みも出血もない。

胸にはナイフが突き刺さったまま。

 

ただ、体温が下がっていく。意識がだんだんと薄れていく。

体の自由がなにもかも消え去っていく。

 

「お前が殺された借り、確かに返却した。もはや思い残すこともないだろう。焚書の時だ。遠野──────四季」

 

男は虚空に向かって言葉を送っている。

ああ──────どうして今まで忘れていたんだろう。

 

子供の頃。

遠野の屋敷で遊んだ、自分と、秋葉と、もう一人の子供のことを。

 

「シ──────キ」

 

「そうだよ志貴。本当に、久しぶりだ。まあ──────いささか、遅すぎたようだがね。この体の持ち主、遠野四季はたった今消え去った。君への復讐を完遂して、な」

 

転生 完

 

 

 

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