67-1:上弦の弐 VS 白い蜘蛛
全身に強い衝撃を受けたと思えば、廊下の壁を破壊しながら部屋の中へ。
だが、勢いは止まらなかった。
あろうことか、部屋の窓すら突き破り、俺の身体は中庭に投げ出された。
このまま受け身を碌に取らなければ、深手を負うだろう。
そう判断した俺は空中で態勢を立て直し、着地した。
そしてすぐさま、俺は校舎の窓に視線を移す。
そこに。
(白くて大きな・・・生き物?)
死徒でも、ましてや鬼でもない、異質なものが壁に張り付いていた。
樹脂のような、皮のような、硬くしなやかな外皮。
だらしなく肥大化した腹部。
その腹部から伸びた6本の脚。
右肩の瘤からは、大きな爪と牙。
蜘蛛に酷似した下半身。
人間に類似した上半身。
8つの単眼は、やはり蜘蛛を思わせる。
(あれは確か・・・無惨様お気に入りの累殿の"家族"とやらにあのような姿の鬼がいると聞いたことはある・・・が)
しかし。
それとは別物だと、根拠は無いがそう判断した。
(敵意も、殺意も感じない・・・混濁、混沌とした意識・・・向けられた側としては・・・不快、だね)
そんなことを思っていると、視線の先の異形は、金切り声を上げ──────
白い多腕を、鞭のようにしならせながら伸ばしてきた。
それに対し、俺は呼応するように、
「血鬼術──────蔓蓮華」
氷で出来た蔓が、怪物の腕を縛り上げる。
(この腕は、大したことは無いね。本命は恐らく──────」
俺は、白い異形の体を見ながら考えを巡らせる。
すると。
怪物の右肩の瘤から生えた、大きな爪が噴射される。
(うん、この勢いで来られると、少し厄介だね。ここは回避して・・・と)
俺は跳躍し、校舎の屋上へ逃げる。
だが、どうやら爪には追尾機能があるようだ。
速度を落とさぬまま、上空まで駆け上がってくる。
(・・・仕方ない。撃ち落とそう)
「血鬼術──────冬ざれ氷柱・弩(いしゆみ)」
これは、今までの冬ざれ氷柱のような、氷柱を落下させるものではない。
かつて死闘を繰り広げた、ヴローヴが使用していた技を真似た、氷の槍。
自由落下ではなく、推進力をもって対象を貫く。
(よし、爪は破壊できた。今度は──────)
再度、怪物の多腕が殺到する。
蔓蓮華の蔦を解いたのだろう。
(捕縛が突破されるなら、斬り落とすか)
「血鬼術──────枯園垂り」
俺が扇を連続で振るうと、輪切りにされた白い肉塊が地面に落ちていく。
(これで飛び道具は潰した。仕上げはやっぱり"コレ"だね)
「血鬼術──────霧氷・睡蓮菩薩」
上空で生成した氷の巨像が、その巨体を落下させながら、平手を振るう。
すると、壁に張り付いた白い蜘蛛は、大きな音を立てて地面に叩き付けられた。
人とも、虫とも言えないような腹部をさらけ出しながら、もぞもぞと蠢く害虫。
そこに、睡蓮菩薩が上空から押しつぶす。
これで、駆除完了──────とはいかなかった。
(・・・今ので勝ったと思ったんだが、すごい耐久力だ)
怪物は、氷の巨像を多腕で締め上げ、破壊を試みる。
だが、それをさせないために、俺は御子を6体生成する。
「行っておいで」
氷像は、校舎の壁を伝って、怪物のもとへ駆け下りた。
そして。
「血鬼術──────寒烈の白姫」
6体同時、凍てつく息吹。
さすがにこれは効いたようで、蜘蛛は完全に動作を停止させた。
「さて、志貴殿の元に戻らないと、だね」
上弦の弐 VS 白い蜘蛛 完