7-1:幻想種
住宅街がら少し離れた場所にそびえたつ送電塔。
高さは約30メートルほど。
そのてっぺんには、本来居る筈ではない人影が。
「むせるほどの血のにおい・・・遠くは・・・ない!」
眉をしかめ、街並みを見下ろす修道着の女。
眦を決し、靴底で鉄塔を叩くと、彼女の身体は弾丸のように打ち出された。
しばらく滑空するが、重力の影響で高度が下がる。
しかし、地面に落下する前に家屋の屋根を踏みしめ、もう一度跳躍する。
瞬く間に公園の上空にたどり着くと、修道着の女は持ち手が小さい十字の剣を構える。
下の様子は、三人の若い男女と、彼らに対し津波のように押し寄せる黒い獣。
そしてその黒い津波は大柄な外套の男によるものか、次々と獣を生み落としていく。
彼らを視認した修道着の女は目を見開いた後剣をおさめ、茂みに隠れる。
樹木に身を寄せ、左半分ほど身体を出して公園の状況を観察する。
すると、大柄な男が暗闇から姿を現し、彼女の背後に立った。
「やあやあ久しぶりだねえ。シエルちゃん」
彼女に話しかけたのは、赤を基調とした密着感のある服に、血を被ったような髪の男。
振り向き様にその男の姿を見た修道着の女──────シエルは、うんざりしたように眉間に皺を寄せる。
「あなたは・・・」
「こうして話をするのも悪くないんだけど、妓夫太郎を助けないといけないから、通してくれるかい?」
男は、虹色の眼を細めながら頼み込む。
対するシエルは茂みに身を隠しながらもう一度公園の方を覗き込む。
興味深そうに見つめた後、観察と状況把握を終えたシエルはもう一度男へ視線を戻した。
「痩せ細った男があなたの仲間ですね。真祖の姫と手を組んでいる理由を教えてくれませんか?」
「真祖の姫?よくわからないけど、俺たちの狙いはそこに居る黒い外套の男だよ」
と俺が返答した、その時だった。
二人の真上を、伝承に登場するような怪物たちが列をなして飛んで行った。
「ペガサス・・・ワイバーン・・・!?それにファブニールまで・・・まさかネロ・・・この街まるごと焼き尽くす気かですか!?」
向かった先を目で追うシエル。
すると。
──────ゴウッ
爆発音と共に、眩い光が夜空を塗りつぶした。
一面、真昼日の空の如く。
そして今度は、潮が引いていくかのように、光は街の中心部へ。
それは、爆心地がどこであるかを如実に表していた。
続けて、阿鼻叫喚の嵐が、中心街から離れた場所にある公園まで響き渡る。
幻想種という人知を超えた存在によって、一瞬にして多くの人間の命が簡単に奪われた。
──────街は地獄と化した。
同じ方向を向きながら、シエルと男は立ちすくむ。
「うわ~これはひどいね」
「おかしい。死徒であれば、あえてこれほどまでの騒ぎを起こすことは無いのです・・・ネロめ、やけを起こしましたか・・・」
「なるほど。わかってきたよ。これ以上騒ぎになると、君たち代行者が出張ってくるわけだね。・・・であれば、俺も手伝おう。ネロは妓夫太郎に任せるとことにするよ。玉壺殿も加勢する予定だしね。彼の血鬼術は不死の怪物であろうと有効だ」
男の言葉に、シエルは不信感を拭えないようだ。
それも当然、数時間前に自分を食おうとした男だ。
しかし、背に腹は代えられない。
シエルは頷きと共にそれを飲み込む。
「・・・急ぎましょう」
死徒二十七祖④に続く