上弦の鬼たちは月姫世界に転生したようです。   作:白澄星火

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第8話:死徒二十七祖④

8-1:総耶市怪獣バトル

 

地方都市、総耶。

煌びやかな光を放つ街の中で、人々の喧騒が聞こえる。

それがいつもの日常。

 

しかしそれは、突如上空に現れた怪物たちの群れによって変容する。

まず最初は、ファブニールという怪物によるブレス攻撃が行われた。

 

たった一撃で、街は地獄へ叩き落された。

その後も続々とペガサスやワイバーンといった伝承上の怪物がやってくる。

 

この後の展開は誰だって予想がつく。

罪のない多くの市民を待ち受けるのは一歩的な殺戮なのだろう。

それが分かっているから、彼らはひと時でも長く命を繋ごうと、叫び声を上げながら逃げ惑う。

 

その様相は、怪物どもの手のひらの上で踊り狂う人形のよう。

そして今まさに、総耶市でもひと際高いビルの屋上に鎮座するワイバーンは、翼を目いっぱい広げ力をため込んでいた。

 

伝承の通り、ワイバーンはブレス攻撃を行わない。

だが、遠距離攻撃の手段を持ちえないわけではない。

 

ワイバーンが今の体勢から、翼を前方に叩きつけるだけで凄まじい衝撃が発生し、一瞬にして多くの人間の命を奪うだろう。

 

しかし寸前で、怪物には神からの罰が下った。

いや、それとも悪魔の悪戯だろうか。

 

雷がワイバーンに降り注ぎ、その身を硬直させる。

さらに続いて、5つの斬撃がビルの1階から屋上まで縦に走り、ワイバーンの身体を引き裂いた。

 

まさに伝記で見るような怪物退治。

それらを行ったのは、ビルの真下に立つ二人の男。

 

「哀しいのう。先ほどまで我が物顔で街を見下ろしていた化け物も今はこの有様」

 

「油断するな哀絶。以前そうやって鬼狩りに負けたばかりだろう馬鹿者!」

 

「分かっている積怒。だからそう声を荒立てるな。哀しくなる」

 

憤りに満ちた声に対して、憂いを帯びた声で返す男──────哀絶は槍を構えているが、作務衣にしめ縄と、ブリトンの騎士とは程遠い恰好であった。

 

その隣に立つ男の名前は積怒。

ぎりりと牙をむきながら額に皺を作り、手には錫杖を握りしめてる。

 

彼らの顔は瓜二つ。

乱れた長い黒髪、額に生えた二本の角。

 

網目のように浮かぶ血管。

 

積怒と哀絶はワイバーンを一匹討伐し、一息を付く。

 

しかし、そんな暇など与えないとばかりに彼らの背後50メートル先ににそびえ立つビルの10階あたりに大穴が開く。

そして、周囲にガラス片とコンクリートをまき散らし、大きな音として彼らの耳に遅れて届く。

 

二人は一斉に背後を向くが、時すでに遅し。

 

次の瞬間、凄まじい突風が吹き荒れると彼らの胴は二つに割れ、上空に投げ出された。

 

突然の出来事に、何が起きたか分からないまま目を剥く二人。

 

そして、空中で身動きが取れない積怒と哀絶の背後を取るように、鳥の翼を持った馬が現れる。

──────ペガサス。

雷霆を運ぶ天馬。

 

ペガサスは彼らを追撃しようと、(ひづめ)に力を籠める。

再びこの力が二人を襲えば、原形を留めず身体は四散するだろう。

 

しかし横から奪い去るようにして、積怒と哀絶と同じ顔の男が現れる。

 

「カカカッ喜ばしいのう。積怒に恩を売れるわ」

 

翼を持った男は楽し気に、(あしゆび)で二人をわしづかみにしながら空を飛ぶ。

 

必然と、ペガサスの敵意は獲物を横取りした彼に向けられた。

 

しかし、翼の男も黙ってやられるつもりは無いようで、先ほどまでの歓喜に満ちた表情を引っ込め、がぱっと口を開く。

 

そして繰り出される、強烈な音波攻撃。

ペガサスはたまらず身をよじらせる。

 

戦場で動きを止めてしまえば、後は狩られるだけ。

哀絶は槍をペガサスへと向ける。

 

「──────激涙刺突」

 

すると、ペガサスの身体は肉片と化し、地面にボトボトと落下していった。

 

突然現れた翼の男に救われた形となった積怒と哀絶の内、積怒は相変わらず眉をしかめている。

 

「いいから降ろせ空喜!いつまで私たちを吊り下げているつもりだ!」

 

「カカッ。そうか?では遠慮なく」

 

「──────そういうことでは」

 

言い切る前に、積怒は空喜によって上空から放り投げられる。

ついでに哀絶も。

 

二人そろって自由落下。

高度は数十メートル。

 

このまま地面に衝突すれば二人とも潰れたトマトのような惨状となるだろう。

しかしそうはならず、ふわり、と見えない力によってぎりぎりのところで受け止められる。

 

「これは楽しい。積怒と哀絶が豆粒みたいに空を飛んでおったわ」

 

声を弾ませ、ヤツデの葉の形のうちわを持つ男。

彼もまた同じ顔をしており、四人揃えば奇妙な光景が広がる。 

そしてなにより、積怒と哀絶の落下を防いだのは彼のようだ。

 

対する積怒は、いつも通り小言を言うわけでなく、ただ上を向いて目を見開いていた。

 

「──────!上を見ろ!」

 

彼の慌てように、哀絶と可楽が同時に空を見上げる。

 

視線の先、上空には三体ものワイバーンが彼らを見下ろしている。

複数体の竜は彼らを睨みつけながら、翼を一斉に大気へ打ち付け、竜巻を発生させる。

 

対して、可楽は地上で扇を構え、勢いよく振り上げた。

 

すると、突風が発生し、竜巻を散乱させた。

 

今の攻防で、ワイバーンは遠距離攻撃が彼らに有効ではないと判断したようで、そのまま口を大きく広げ、今度は翼で一気に後方の空気を叩いた。

すると、まさに槍のように一直線。

三体のワイバーンは彼らを飲み込もうと突進してくる。

 

一瞬にして、距離は縮まり、積怒たちの目前へ。

だが次の瞬間。

 

「──────寒烈の白姫」

 

凍える空気が吹き荒れる。

すると、三体のワイバーンは吸い込んでしまったのか、寸でのところで動きを止める。

そしてそのまま地面に自身の身体を叩きつけ、ピクリとも動かなくなった。

 

「いやあ危なかったねえ。寒烈の白姫を九体同時使用でやっと動きを止めてくれたよ」

 

「童磨・・・」

 

突如現れた男──────童磨の姿を見た瞬間、哀絶は安堵の表情を見せる。

しかし、一人落ち着かない様子の積怒。

 

「いや・・・まて。何かがおかしい」

 

「どうしたどうした?俺が来たというのに不安なのかい?」

 

「・・・違う。周りを見てみろ。──────なんで死体が動いているんだ?」

 

彼らは周囲を確認する。

 

すると、哀絶の言う通り、ワイバーンやペガサスによって命を奪われた人間は再び命を吹き返し、生きている人間を襲っている。

 

「これも上を飛んでいる生き物の仕業なのかな?」

 

「馬鹿者・・・そこだ。──────おそらく奴の仕業」

 

童磨の言葉を一蹴した積怒の視線の先。

 

生きた死体を束ねるように、中心に佇むのは典雅な貴族服と野蛮な毛皮のコートを纏った青年。

端正な顔立ちだが、目の焦点が合っていない。

 

肌も青白く、これではどちらが死体か分からない。

しかし、彼が現れるやいなや、上空の怪物たちは積怒たちを襲うことは無くなった。

 

その事実に気づいたのか、童磨は興味深そうに目を細め口の端を釣り上げた。

 

「彼、只者じゃないねえ。俺たち上弦と同じか、もしくはそれ以上の化け物だろう」

 

死徒二十七祖⑤に続く

 

 

 

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