S.H.I.E.L.D.長官のボディーガードは魔女   作:LemoИ

5 / 8
閑話挟もうかなと思ったんですが、そのまま本編進めることにしました。色々書きたくて欲張ったら1万字超えてました。
戦闘描写は相変わらず自信無いです(ネットで調べたり試行錯誤しました笑)

ちなみに、春の新米マスター応援のモルガンピックアップ召喚で陛下を2人お迎えして宝具4になりました。


【挿絵表示】
私服陛下イラスト描きました。

※今話から基本的にモルガン視点で話を進めて行く感じにしています。違和感あったらすみません…



キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー①

まだ朝日が登ろうとするくらいの時刻。

ベッドに蹲っていた私は、端末から突然鳴り響いた緊急用のアラートで叩き起こされました。

 

 

「はぁ……。」

 

 

眠い……。

 

 

ですが幸い、私の住んでいる部屋はS.H.I.E.L.D本部のトリスケリオン内にあるので、移動時間には困りません。

 

欠伸をしながら起き上がり、手早く寝巻き代わりのスウェットを脱ぎ捨て、クローゼットの中にあるいつものスーツに袖を通してから髪を梳かして結び、軽く化粧を施しました。

そして最後にいつも持ち歩いているグロック19を太腿のホルスターに仕舞い、マスターの書斎へと向かいました。

 

軽くノックをしてから書斎に入ると、デスクの背にある窓から、昇ったばかりの陽の光が目に飛び込んできました。

 

 

「おはようございます、マスター。」

 

 

「朝から悪いなモルガン。」

 

 

「……いえ、問題ありません。」

 

 

眼帯の無い方の目元を見ると、マスターも若干眠たそうにしていました。

 

 

「早速本題だ。衛星打ち上げ用プラットフォームを備えたレムリア・スターという船が海賊に奪われた。身代金は15億ドル。これは、インサイト計画において非常に重要な役割を担っている。その奪還のために、キャプテンロジャースと、クインジェット、ストライクチーム、そしてナターシャにも準備を。」

 

 

「承知しました。」

 

 

私はすぐにタブレットをスワイプさせてナターシャとリーダーのラムロウに連絡をしました。

 

キャプテン・ロジャースは日課のランニングに出ていたので、迎えに行くことにしました。早歩きでガレージに向かい、停めてある自分の車のエンジンを起動して鈍い音を立てながら、かなりの速度で出庫しました。

 

私は、キャプテン・ロジャースがいつもランニングをしているトリスケリオンの近くのリフレクティング・プールへとハンドルを切りました。

 

後、その道中にドライブスルー付きのカフェがあるので、秒速でコーヒーを購入しました。

 

そして、更に走らせて数分後には、キャプテンの姿を見つけ、私は車を路肩に付けて窓を開けました。

 

彼は、初めて見る黒人の男性と談笑していました。

本来は遮るべきでは無いのでしょうが、状況が状況です。

 

 

「おはようございますロジャースさん、老人ホームのお迎えに参りました。お急ぎください。」

 

 

「言ってくれるな。」

 

 

そう言って彼は、私の隣の助手席に乗り込んで来ました。

 

 

「車だって使う。」

 

「そりゃ、そうだろ。やぁどうも。」

 

黒人の男性は、運転席に居た私にも挨拶をしてきました。

 

「………どうも。」

 

私は、いつも他の人にするのと同じ挨拶をして車を発進しました。

他の車の間を縫うように滑らかに走らせつつ、目線は正面に向けたまま、器用に助手席の彼に土色のファイルを渡しました。

アナログな彼のために、わざわざペーパーの資料を一瞬で用意しました。

 

 

「既にストライクチームと後、ナターシャが準備しています。」

 

 

「あぁ、分かった。ありがとう。ところでそのコー……「私の分だけです。」だろうと思ったよ。」

 

 

◇◇◇

 

 

書斎に戻ると、マスターはチームが出発する前に、ナターシャを呼び出していました。

 

「他のメンバーには知らせずに、君にだけもうひとつ任務を与えたい。レムリア・スターのコンピューターからデータをこのUSBにコピーして持ってきてくれ。」

 

 

そう言ってマスターはS.H.I.E.L.Dの黒い鷲のロゴが刻印された銀色のUSBをナターシャに差し出しました。

 

 

「了解。」

 

「お気をつけて。」

 

「えぇ、ありがとうモルガン。」

 

 

少し前にストレートにした綺麗な髪を揺らしながら、ナターシャは書斎を後にしました。

 

 

「キャプテン・ロジャースにこの事を知られた場合、ほぼ確実に非難されるかと。なんなら賭けましょうか?」

 

「だろうな。だが、仕方ない。後これは、賭けにすらならんぞ。」

 

言われてみれば確かにそうでした。

 

 

「……ですが、彼のあの正義感が、偽りのもので無いならば、信用しても良いかと。」

 

「……考えておく。」

 

 

 

◇◇◇

 

 

船と人質の奪還に成功した連絡が、本部の方にも届きました。

そして、私の予想通り彼は真っ先にマスターの書斎に突撃してきました。

 

「あんたは嘘をつくのをやめられないのか?」

 

「やはりですか…。」

 

開口一番の言葉は予想通りではありました。

 

「嘘はついていない。ロマノフには別の任務を与えた。」

 

「それを僕に教える義理は無いか。」

 

「私は誰にも義理など無い。」

 

「人質が死ぬところだったぞ。」

 

「そうならないように、史上最強の兵士を送り込んだんだ。」

 

「兵士は信頼し合う。それがチームだ。ただ銃を撃ちまくる集団じゃない。」

 

「私は人を信じた結果、この目を失った。君には、気の進まない任務はさせたくなかった。だがロマノフならどんな任務であっても嫌がらない。」

 

「別の任務があるメンバーがいたらチームとして統率が取れない。」

 

「情報の分断というやつだ。秘密が漏れないよう、誰も全貌を知ることは無い。」

 

「あんた以外は?」

 

私も知ってはいますが、今ここで言う必要は無いでしょう…

 

「君は誤解している。私はオープンだぞ。気さくなたちなんだ。」

 

この反応は、ある程度予想していたことではありました。

 

彼の正義感はかなりのものです。

それが彼の力の源、アイデンティティと言っても差し支えないでしょう。

 

ですがその価値観が、今のシールドを危惧して動いているマスターのやり方とは噛み合わなかったと…。

 

そしてマスターは、キャプテンを地下にあるインサイト計画を見せる決断をしました。

あの船の目的と、ナターシャの任務がなんだったのかを説明するために。

 

 

「インサイトベイ。」

 

 

『キャプテンロジャースはインサイト計画にはアクセス出来ません。』

 

 

「長官権限だ。ニコラス・J・フューリー。」

 

 

『確認しました。』

 

 

キャプテンの格納庫へのアクセスが長官権限によって許可され、エレベーターは緩やかに下降し始めました。

 

私はエレベーターが着くまで特にやることがないため、透明の壁にもたれかかってスマホに届いていたメッセージの返信をすることにしました。

 

 

「昔は音楽が流れてた。」

 

「あぁ……私の祖父は40年エレベーター係をやってた。」

 

「……またその話ですか。」

 

もう数回聞いたことあるんですが…

 

「別に良いだろ……そこそこ洒落たビルだが結構なチップが貰えた。祖父は毎晩それをランチの袋に入れて持って帰ってきた。街の人たちと挨拶を交しながら。だが段々街もガラが悪くなり、挨拶しても『うるせぇ!』と言われる。祖父は袋をギュッと握るようになった。」

 

「ひったくられた?」

 

「ゴロツキがやってきちゃ、中身何だ?」

 

「それで?」

 

「見せてやったさ。山ほどの1ドル札と22口径マグナム……祖父は人が好きだった。だが、あまり信じちゃいなかった。」

 

 

そしてエレベーターは地下へと入り、先程まで見えていた外の景色は、巨大な格納庫へと変わっていきました。

エレベーターのガラスの先にあるのは灰色の3つの巨大な機体。

 

キャプテンも綺麗に二度見をしていました。

 

「あぁ、あれか?22口径よりちょっとデカいだろ。」

 

「一体どこがちょっとですか。あんな22口径あってたまるものですか。」

 

 

私たちは、エレベーターを降り、大量の金属音が鳴り響く格納庫へと足を踏み入れました。

私たち3人の来訪に少なからず視線を集めている気がします。

 

 

「これが、インサイト計画だ。次世代型ヘリキャリア3機を偵察衛星のネットワークとリンクさせる。」

 

「レムリア・スターが打ち上げたやつか?」

 

「一度飛び立てば着陸する必要が無い。補給無しでずっと飛行を続けられる。リパルサーエンジンのおかげでな。」

 

「スタークか?」

 

「やつのアイデアも入っている。前に、旧型のタービンで苦労したからな。」

 

「精密な長距離砲を装備。1分で1000人もの敵を一掃出来る。テロリストが巣から出てきたら衛星がそのDNAを検知する。危険の種は未然に除去出来るってわけだ。」

 

「悪さをする前に罰を与えると?」

 

「我々に待つ余裕は無い。」

 

「我々?」

 

「ニューヨークの戦いの後、世界安全保障委員会に防衛の強化を訴えた。こいつがあれば先手を打てる。」

 

「全人類に銃を向けることでか…。」

 

「SSRのファイルを読んだが、あの時代だって結構汚いことをやってる。」

 

「あぁ、道を踏み外した。おかげで眠れない夜もあった。だが、自由のために戦っていたんだ。この先にあるのは恐怖だ。」

 

「S.H.I.E.L.Dは現実を見つめ、希望的観測は持たない。君も反発ばかりしてないで協力して欲しいものだね。」

 

「……あまり期待するな。」

 

そう言い残してキャプテンは、私たちに背を向けてその場を後にしました。

 

「こっちに対する反応も私は粗方検討ついてましたよ。」

 

「だろうな。」

 

私は、彼のその屈強な背中を眺めながらそうボヤきました。

 

 

◇◇◇

 

 

「モルガン……。」

 

書斎のソファーで作業していると突然マスターが私の名前を呼んだので、目線をパソコンからずらしました。

視線の先に居たのは普段以上に真剣な顔をした、マスターの姿でした。

 

その様子に私はこくりと頷き、ゆっくり立ち上がりました。

 

 

「外部を遮断。」

 

 

その言葉によって、書斎の窓ガラスが薄暗くなりました。

マスターと私以外の誰にも聞かれないようにするために。

 

そして、ナターシャから受け取ったUSBをデスクに挿しました。

 

 

「レムリア・スターの衛星打ち上げファイルを開け。」

 

 

マスターは正面の壁にある大きめのモニターに話しかけました。

 

 

『アクセス出来ません。』

 

 

「は……?」

 

 

私は思わず心の声が漏れていました。

 

 

「暗号化を解除。」

 

 

『解除出来ません。』

 

 

「長官権限だ、ニコラス・J・フューリー」

 

 

『拒否されました。ファイルは封印されています。』

 

 

「誰の権限で?」

 

 

『ニコラス・J・フューリー。』

 

 

マスターは、視線を私の方へ向けてきました。

 

明らかにおかしい。

 

自分の名前で封印されているものを自分で開けない状況……

しかも、S.H.I.E.L.Dの長官が。

 

 

「モルガン……」

 

 

マスターの眉間にしわを寄せた真剣な表情。

 

その様子に私も思わず緊張して唾液を飲み込んでいました。

 

「…はい、マスター。」

 

「もう、向こうもなりふり構わないだろう。」

 

「えぇ、真っ先にあなたを消しに来そうですね。その次に私かマリアでしょうか……」

 

「とにかくだ……誰も信じるな。」

 

「はい。」

 

そもそも私は、これまでマスター達以外に誰かを心の底から信じたことがあったでしょうか…?

 

本当に皮肉もいいところですね………

 

 

やっと、生きる目的と役割を見出して腰を据えたと思ったのに、その場所がこんなだったなんて。

このウィルスのように蔓延っている現状打破のためのインサイト計画も…

 

 

◇◇◇

 

 

「安全保障委員会。」

 

『了解』

 

 

私はマスターに続いてエレベーターに乗り込み、今度は上へと向かいました。

エレベーターを降りて、その先に居たのは、ガラス越しに見える安全保障委員会のメンバーのホログラムと、アレクサンダー・ピアースの姿でした。

 

 

「こんな上まで来るとは。また船でも乗っ取られたか?」

 

 

「もしくは核戦争が起きたか。」

 

 

マスター、冗談にしては物騒過ぎませんかね。

 

私は、マスターが挨拶する少し後ろで彼に会釈しました。

 

 

「あぁ、モルガンも元気そうで何よりだ。」

 

「恐縮です。」

 

 

 

「揉めてますか?」

 

そう尋ねて、マスターは先程まで会議していたもう何も無い空間に視線を移しました。

 

「政治資金でどうにかなる。」

 

「実は……お願いがあって来ました。インサイト計画の実施を延期して頂きたいんです。」

 

「ニック、それには綿密な根回しが必要だぞ。」

 

私は、マスターの計画を延期をしたいという言葉を聞いた瞬間、ピアースの表情がほんの少し変わったのを見逃しませんでした。

 

 

「懸念があって…考え過ぎだと良いが、問題が無いか確かめたいんです。」

 

「もし問題があったら?」

 

「ヘリキャリアを飛ばなさくて良かったと安堵するでしょう。」

 

「分かった…じゃあ姪の誕生パーティーにアイアンマンをよこしてくれ。」

 

「感謝します。」

 

あの彼がそんなことに応じてくれますかね……

 

「顔見せだけじゃなく、参加するんだぞ。」

 

私は、若干の緊張感を覚えながら2人の男が握手する様子を眺めていました。

 

 

◇◇◇

 

 

 

『通信暗号化プロトコル、開始。』

 

『こちらヒル。』

 

 

機械的な音声の後に聞こえたのは、私もよく知る人物のものでした。

 

 

「ワシントンDCに来て欲しい。くれぐれも内密にだ。」

 

『4時間ください。』

 

「3時間だ。」

 

『……分かりました。』

 

「仕方ないとはいえ、無茶振りですね……」

 

「状況が状況だ。悪いがヒル、頼んだ。」

 

『了解です。』

 

 

今、私はマスターと一緒にワシントンDC内を車で移動しています。

 

トリスケリオンの中よりも、車内の方が聞かれる心配が無いというのも…世も末ですね。

 

 

とある交差点で赤信号だったので停車すると、右隣にパトカーがやってきました。

警官と目が合ってしまいましたが、やましいことはないので、青信号でアクセルを踏み込むと…

左から猛スピードでパトカーが突っ込んできました。

 

 

「マスター!!!」

 

 

回避が出来ないと判断した私に出来たことは、助手席のマスターを抱え込んで、身代わりになることくらいでした。

 

 

◇◇◇

 

 

「ま、マスター、お怪我は……げほっ」

 

 

「大丈夫だ。それよりお前は!」

 

 

エアバッグはあったものの、激痛が頭部と背中に走っていました。

更に追加で、私たちの車の前後左右かパトカーで抑え込まれました。

 

幸いこの車は、一般車とは比べ物にならない耐久性があるので、少なくともまだペシャンコにはならずに済んでいます。

 

 

『ワシントンDCの警察はこの地域に出動していません。』

 

 

それはつまり、目の前にいるのは警察では無いということ。

 

そこから導き出された結論は……

 

 

思考の暇を与える気がないのか、警官たちは私たちの車にマシンガンを撃ち込んできました。

 

魔改造の施された車のため、貫通こそしてないものの、その体にはどんどん弾痕が増えていきます。

 

パトカーに加えて、特殊部隊等が使用する車も停車し更に敵は増え、破城槌も持ち出された。

 

全自動で動く破城槌は、大きな衝撃を与え、2人の乗る車に大きな凹みを作りました。

 

車に備わっているAIが耐久力のパーセンテージをその都度報告してきました。

 

そして、車の耐久度が1%なった瞬間。

 

 

「今だ!!!」

 

 

運転席の窓ガラスが突き破られようとした瞬間私は椅子を一気に倒し、マスターは座席の間にしまっていたマシンガンを起動させ、敵を蜂の巣にし始めました。

 

そしてトドメにグレネードランチャーで車を吹き飛ばしました。

 

改めて考えると、この車大分イカれてますね。

まぁ、今回はそのおかげで生き残れましたが。

 

爆発のタイミングで自動運転が復活し、その場からエンジン全開で走り出します。

 

何人か敵を轢いた気がしますが、緊急事態です。気に留める余裕はありません。

 

私は、身体の節々にある痛みを無視して、窓があった所から上半身を出して、発砲しました。

 

ですが、いつものグロックなので、車を吹き飛ばしたり致命傷を負わせるなどは出来ていません。

 

 

流石にこんな街中で魔槍を使うのは……

 

 

◇◇◇

 

 

私たちは、何とか渋滞と警官に扮した敵を振り切り、ドリフトしながら車の少ない道路に出ました。

 

 

「ふぅ……」

 

 

周囲を見渡しても、もう鉛玉をこちらに撃ってくる連中は居ません。

 

このまま撒けばなんとかなる。

私も、きっとマスターもそう思っていました。

 

 

ひび割れて見えずらいフロントガラスの先に、大通りの真ん中に佇む1人の黒い男の姿が見えました。

 

 

まずいっ!

 

 

「マスターーっ!!!!」

 

 

 

その黒い男が円盤型の何かを発射した瞬間、咄嗟にそれが何なのかを察し、私はマスターを庇おうとしました。

車から外に出ようとしました。

 

 

ですが、それは間に合いませんでした。

乗っていた車は、底に着いた爆弾で吹き飛び、逆さまになって道路を滑っていきました。

 

複雑な金属音と爆音が鳴り響き、またもや身体のあちこちをぶつける羽目になりました。

更に車内は黒い煙に包まれ、不快な臭いがしました。

 

 

「げほっ、げほっ…マスター!」

 

 

「うっ…生きてるぞ。」

 

 

窓からは、段々近づいてくる敵の黒い足が見えました。

 

そして、金属音を立てながら無理矢理ドアを掴み引き剥がしました。

私は、視界が明るくなった瞬間、目の前に居た敵に、魔力で強化した拳を打ち込みました。

 

私の不意打ちに近い攻撃で敵は数メートル吹き飛ばされたものの、直ぐに立ち上がりました。

 

あまり、ダメージは与えられていませんね…。

 

私とマスターの車を爆破したのは、口と目がマスクとゴーグルで覆われた1人の男でした。

その左腕は異様に銀色に光り輝いています。

服越しでも分かるそのガタイの良さが、一筋縄ではいかないことを物語っていました。

 

 

「マスター。」

 

 

「なっ……モルガン!」

 

 

「私の立場を!お忘れですかっ!!!」

 

 

私は、己が何のために存在しているのか、何のためにいつも隣にいるのかを強調し、マスターに伝えました。

 

 

「ちっ……」

 

 

「…ご安心を。死体になって帰るつもりはありませんので。直ぐに追いつきます。」

 

 

その言葉を信じたのか、マスターは地下から逃げるために、マウスホールで車の天井に穴を開けはじめました。

 

そして私が今すべきことは、目の前の男にマスターが追いつかれないように…

 

 

「……時間を稼ぐ。」

 

 

煙の出ていた今にも溢れそうな闇鍋の蓋を開けるかのように。

私は己の内に宿る力を……望まずして享受されてしまったこの力を膜のように全身に纏わしました。

 

 

「……。」

 

 

手始めに私は、車の中で逃げようとしているマスターに近づけさせないために、拳銃の残弾を全て吐き出しました。

 

焦りはあったものの、手元はいつも通りで、弾丸の起動も男からズレることはありませんでした。

 

しかし。

 

 

「えっ……?」

 

 

私が撃った銃弾は、全て、男の左手に防がれてしまいました。

 

義手か何かでしょうか。

 

予想外の防御に流石に驚きましたが、直ぐに次に移します。

私は、右手にあった残弾ゼロのグロックを近くに放り…

 

本当は異星人相手でも無いのに、こんな街中で使いたくはありませんでした。

 

 

「……もう、あなた相手に手加減は出来そうに無いので。」

 

 

愛武器とも言える、青白い文様の施された背丈を優に超える長さの黒い槍を右手に顕現させました。

 

力を抜いてその柄を掴み、馴染ませるように一振りしました。

 

男は私の姿に同様することはなく、背中に装備していたマシンガンを構え、銃口を私に向けてきました。

 

その引き金が引かれた瞬間、私は魔槍を螺旋を描くように緩やかに振り回して、その弾幕を防ぎました。

そしてリロードのタイミングで脚に魔力を込めて、跳躍しました。

 

 

「さっさと……死になさい!!」

 

 

いつもより高い位置から、男に向かって発射した青白い魔弾は道路に大きな穴は開けました。

 

しかし男は、そのガタイの良さに似合わない身軽い跳躍でその攻撃を回避していました。

 

着地した私は、魔槍を魔剣に変遷させ、一瞬で距離を詰めてその勢いで畳み掛けるように斬りつけました。

 

マスターを傷つけられたという怒り、狂気が私の力の源に繋がっているのが感じ取れました。

 

魔剣の攻撃は男自体に命中はしなかったものの、男のサブマシンガンを手から弾き飛ばすことが出来ました。

 

すると男は、今度はホルスターから拳銃を抜いて私の頭を狙って引き金を引きました。

 

「っ!」

 

半ば勘ではありましたが、私は魔槍を顔に翳して頭を狙ってきた銃弾を弾き飛ばしました。

 

そして向きを変えて、今度は胴体に向けて放たれた銃弾を叩き落としました。

 

銃弾が身体の端を掠めることも無く、男が持っていた拳銃は弾切れになりました。

 

 

「あなた、何者ですか?」

 

 

私の問いかけに対する返事は無く、男は腰のナイフを抜いて逆手に構えて私に向かってきました。

 

私は頭を狙ってきた攻撃をすんでのところで刀身で受け止めました。

 

剣同士がぶつかり合った瞬間、2人の間に甲高い音が鳴り響きます。

 

男は身体を翻して、更にナイフを私に向けてきました。

 

胸や腹への攻撃は、男の頑強な手首を掴んで無理矢理軌道をずらしました。

 

ですが、全ての攻撃を捌くことは出来ず、頬に赤い線を数本作りました。

 

 

「ちっ!」

 

 

鋭い痛みを無視して、ナターシャから教わった関節技を決めようとしますが、そう簡単には行かず、あっさり解かれてしまいました。

 

解かれて地面に倒れた私に向かって男が殴りかかってきたので、横に転がるように回避しました。

 

機械的な音を立てながら左の拳がアスファルトに命中した瞬間、先程まで私の頭があった場所は陥没して粉々になっていました。

 

 

とんでもない威力ですね……

 

 

私は飛び跳ねるように起き上がって、魔剣を左上から右下へと斜めに振り下ろしました。

 

男はその攻撃を短いナイフで器用にいなし、回し蹴りをしてきました。

 

私は、瞬時にそれを仰け反る形でスレスレで回避しました。

 

そして直ぐに体勢を立て直して、今度は私が空中に飛び上がって回転蹴りを放ちました。

男は腕を縦に翳して受け止めましたが、魔力で強化した脚力に耐える事は出来ず、そのまま近くに停車していた車にぶつかりました。

 

それなりのダメージが入ったのか、若干よろけながら男は立ち上がりました。

 

 

「…まだやりますか?」

 

 

「……。」

 

 

私の肘鉄は敵の頬にぶつかり、膝蹴りは鳩尾に入りました。

 

「ぅ……」

 

マスク越しに呻き声が聞こえた気がしました。

 

私は更に、バランスを崩した瞬間、魔槍を斜めに振り上げて回し蹴りを入れました。

 

その攻撃は男を数メートル蹴り飛ばしました。

距離が出来た機を逃さず、私は魔槍から青白い魔力の塊を発射しました。

 

ですがその攻撃はあっさり躱され、男はアスファルトを足で陥没させる勢いで一気に距離を私に詰めてきました。

そして、男の右手は私の顔へ…

 

まずいっ……!

 

「がっ……」

 

咄嗟の判断が間に合わず、私の顔には大きな衝撃が走りました。

常人より頑丈な私も、流石に数歩後ろによろけてしまいました。

 

ゆっくり鼻や頭部から液体が伝っていくのが感じ取れました。

液体はそのまま、私が着ていたワイシャツに赤黒い染みを作りました。

 

口の中はどろりとした不快感と、鉄の味が充満していました。

 

もし左手だったら無事では済まなかったかもしれません……

 

 

「くっ……」

 

 

更に追撃の左の文字通りの鉄拳を、私は両手で持った魔剣でなんとか受け止めました。

その衝撃は、私の想像を超えるもので、両手をビリビリと痺れさせました。

 

間髪入れずに私は前蹴りで彼との間に距離を作りました。

 

そして、再度魔剣から青白い魔力の込められた攻撃を放ちました。

男は、その斬撃を少し屈むことで回避しました。

 

その隙に、後ろへステップし距離を置きます。

 

「げほっ……」

 

向こうにも着実に、ダメージを与えています。

ですが、明らかに私の方が不利です。

 

残念ながら私は、決して近距離戦が得意とは言い難いです。

銃撃戦は問題ありませんが、ナイフや格闘術による近距離戦は間違いなく向こうに軍配が上がります。

 

 

これが終わったらまたナターシャに組み手を頼まないとですね…

 

 

◇◇◇

 

 

ニューヨーク以来、仕事の合間を縫って自身の向上を目指して彼女に頼んで、CQCの特訓をしてきました。

 

私の特異な力の方は…師と仰ぐことの出来る人物は地球には居ないので、独学でした。

それでも槍、剣、斧を変形させて使いこなし、近距離と中距離両方において、更に匠に戦えるようになったと思います。

 

また、男女の体格差を埋めるために、武器として用いている力を全身に纏い漲らせるのも多少自然に出来るようになりました。

 

少なくとも今の私は、チタウリの相手にした2年前とは違います。

 

 

◇◇◇

 

 

正直、ここで戦闘を続けるよりも、どこかで撤退してマスターか誰かと合流するのが1番良いのですが…

 

どう考えても目の前の敵は、普通の傭兵や暗殺者とは思えません。

銃火器はともかく、近接戦闘が常人ではありません。

 

どちらかと言うと、彼に似ているような……

 

 

そんなことを考えながら、私は魔剣を袈裟斬りの方向に振り下ろしました。

 

男はなんとその刃を左で直に掴んで、そのまま私の身体を自分の方へ引き寄せてきました。

そして、抱き付けるくらいの距離になった瞬間、私の鳩尾には彼の膝が入っていました。

 

「ぐぁっ……」

 

私はその腹の鈍痛を堪えながら、正面に雑に突き飛ばし、魔剣を上から振り下ろす形で斬りつけました。

 

男はその攻撃を金属の腕を翳すことで防ぎました。

魔剣は腕の表面を斬り裂き、内部の回路が私にも見えました。

 

 

「はぁ、はぁ…。」

 

 

ランチが出そうです…

 

 

男が左腕を回してその動きを確かめ、私は鼻血をボロボロの袖で拭い、蹴りが命中した脇腹を抑え…

 

自然と距離が生まれていました。

 

私は魔剣を斧へと変遷させて跳躍し、身体を捻りながら…

 

 

「モルッ、ゴース!!!」

 

 

足よりも先に着地した斧の刃先からは黒い波が溢れ、男を押し流して距離は更に開きました。

 

前転しながら着地した私は、視界の端に転がっていたバイクへと走り出しました。

私たちの戦闘で逃げた通行人の物なので鍵は刺さったままでした。

 

素早くその車体を起こしてシートを跨ぎ、エンジンをかけようとしました。

 

足をペダルに乗せた瞬間、一発の軽い発砲音がしました。

 

 

 

「あっ……」

 

 

 

そのすぐ後に襲いかかる激痛と熱さ。

 

私は、その痛みに思わずせっかく起こしたバイクのハンドルから手を離してしまい、地面に倒れ込みました。

 

腹部を一瞬見ると、幸い弾は掠っただけでした。

 

しかし、こんな所で寝転んではいられません。

 

 

「もう!消えなさいっ!!」

 

 

私は身体を起こして、魔槍を右手に出し、その穂先から青白い魔力の塊を発射しました。

 

その攻撃は、男と近くに停まっていた車を巻き込んで爆発し、私はその隙にバイクを地面から起こしてその場から逃亡しました。

 

最終的にはそのバイクも乗り捨てて、薄暗い路地裏にあったマンホールから下水道の暗闇に飛び降りました。

 

ある程度歩き回った私は、マンホールから既に夜の帳が降りた外へと出て、誰もいない廃ビルに足を踏み入れました。

 

一刻も早くマスターと合流したいのは山々でしたが……流石に厳しい、です。

 

柱の一本を背にして座り込んだ私は、画面がヒビだらけのスマホの通信を暗号化してから位置情報を送信しました。

 

 

◇◇◇

 

 

私は…とある理由で肉体が常人よりも丈夫です。

更に、ある程度自然治癒も出来ます。

 

戦闘中はアドレナリンが出ていたからか気になりませんでしたが、今になって身体中が痛み始めています。

 

ですが、このままこの廃ビルで休んでいるだけで快方に向かっていくとは思えませんでした。

 

ですが、そんなことにはならなそうです。

 

 

うつらうつらしていると、廃ビルの外から聞き覚えのある1台のエンジン音が聞こえてきました。

そして、段々足音が近づいてきます。

 

 

「はぁ……ナタぁ……シャ」

 

 

「モルガン?!その怪我どうしたのよ!!」

 

 

なかなか見ない焦った表情でしたが、今はそれでも彼女の姿を見れた安堵が流れ込んできました。

 

 

「ふ、普段はこんなに手酷くやられはしないんですがね…ちょっと、やらかしちゃいました。お、お腹は掠っただけなので大丈夫です。他も打撲とかなので……いっ」

 

 

「ちょっとじゃないでしょ。早く病院に…」

 

 

「おそらく、敵は私じゃなくて先にマスターを、フューリーを……げほっ」

 

 

いつもと明らかに違う咳でしたが、それでも先に情報を……

 

 

「良いから…落ち着いて。」

 

 

「す、数時間休めば……相手の顔はゴーグルとマスクで見えませんでした。ですがシルエット的にはおそらく男……それと、左腕が銀色の義手で……」

 

 

ナターシャが私の怪我の状態を確認していると、スマホに電話がかかってきました。

電話に出て数秒後、彼女は目を見開きました。

 

 

そして……

 

 

 

「フューリーが…狙撃されたって。」

 

 

え……?

 

その言葉を聞いた瞬間、私の中にあった何かがガラガラと崩れ落ちていく感覚がしました。




良くも悪くもフューリーに依存(ポジティブに言えば忠実)してるなと書いてて気づいた。

次回には彼女の正体に触れれたら良いなと思ってます。
過去編はその後々くらいにでも。

感想お待ちしてます。

少し前から主人公視点の書き方に変えたけど、ぶっちゃけどっちの方が良いんだろ。
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