私は物分かりの良い方だ。
それは元の性格というより、そういう風に振る舞い続けて、結果としてそうなったって感じ。気取った言い方をするなら、それが私の処世術ってやつ。私がそんなに長くもないウマ生で学んだ賢い生き方。
賢くはないか。
ただ、楽だっただけ。
その空間に“居てもいい人”を必死に演じてきた。いや演じてきた、は流石に卑屈すぎるかな。
聞き役を苦痛に感じたことはないし、悩みを打ち明けることで相手が少しでも救われてくれるならそれに越したことはない。お礼を言われれば素直に嬉しい。
感謝……それを欲しがっていないと言ったら、嘘になるのかな。下心なんてない、なんて胸を張れない私は実はわりと性格悪いんじゃないのかと思う時も時々。
自己嫌悪なんてしょっちゅうだ。
どうして私は。
どうしてもっと。
どうして、こんななんだろ。
お腹の底に淀みみたいなものが溜まる。これが腹黒いってことなのか、そんな風に考えてますます鬱入っちゃったり。
切りがない。
うだうだぐちゃぐちゃ。頭はいつもこんがらがってる。
それを知られないように、必死で良い人を演じて、軽やかな感じを演出して。
“頼れるパーマーさん”に毎日なりきってる。
嫌な言い方。
嫌な奴。
歪んでるな、私。
もしかしたら自分じゃ気付けないだけで、そういう私のどうしようもなさを周りの大人達は見抜いてたのかも。流されるようにトレセン学園に入学したはいいけど、結局はスカウトもされないままあれよあれよと時間が過ぎて、いつの間にか高等部まで上がってたわけだし。
漠然とこのままじゃダメなんだろうなー、とか。進路も決めなきゃなー、とか。
焦り。
針で突つかれるような小さな痛みが積み重なるだけの毎日を、私なりにどうにかしたかったのかもしれない。
トレーナーに自分から声を掛けたのは初めてだった。校舎よりも輪をかけて誰も近寄らない職員棟の屋上で、まさか人に会うなんて思いもしなかったし。
気まぐれ。
なんとなく。
口が滑って。
貴方を選んだ。自分で提案したくせに、なんだかんだ予防線はしっかり張って。
それでも。
それでもあの人は。
私を選んでくれた。
それが始まりで、“頼れるパーマーさん”の終わりでもある。
あの人は、トレーナーは私を良い子のままでいさせてくれなかった。
義務、生まれ、矜持。走るとは、そういう重いものを背負うことだと思い込んでいた。そうでなければならないんだって。そう在れない私はダメなんだって。
ウマ娘のくせに自分の走りがなんなのかわからなくて、走ることの意味すら見失いかけて。
「それでいい。逃げたって構わないんだ。君がこの
トレーナーは優しく笑って、私に言った。私の目を見て、なんの躊躇いもなく言い切った。
「俺は、君の走りが好きだ。心から自由を謳歌する君の走りが、好きだ」
さらりと言われた方の私は、まあ当然戸惑った。全身の血が沸騰するくらい暑くて熱くて、恥ずかしくて……嬉しくて。
ありのままの自分とか、無理をする意義とか、レースに懸ける信念とか。
そういう難しいことをトレーナーはとやかく言わない。
ただ、好きだって言ってくれた。
でもいいの? 私はウマ娘で、トレーナーはウマ娘のトレーナーなのに。気分次第で走ったり走らなかったりするようなすこぶる迷惑な奴に捕まっちゃってさ。
……私なんかでいいの?
「君でなければ嫌だ。嫌になった。だから」
終始真面目な顔で恥ずかしいセリフを言いまくってたその人は、最後におどけて。
「もしまた走るのが嫌になったら……今度は沖縄にでも逃げよう」
前は函館旅行だったから? バカなこと言っちゃって。
ホントに、しょーがない人。
どーしよーもない人。
どうしようもなく…………いとおしい。
買い出しから献立決めて試作まで、隣でヘリオスにからかわれたり茶化されたりしながら四苦八苦。料理は人並にやる方だが、お弁当はちょっと勝手が違う。粗熱を取った弁当箱に蓋をして私はようやく人心地ついた。
ウマ娘基準で言うとだいぶミニサイズだ。いや男のヒトなのだからこれくらいが適当だとは思うけど。
何故か私よりブチアゲなヘリオスからラップ調でエールを送られながら、私は家庭科室を出た。
ありがとうズッ友。応援マジアガル。でも緊張もやばばば。
「もうだからこれお昼だってばヘリオス! そのままオールでパーリナイ☆とかしないから!」