子役からアイドルに転身した女の子の話   作:Mr.サム

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04.第三芸能課③

 

「えっ、プロデューサーに就く予定の人がいなくなっちゃったんですか!?」

 

 私はちひろさんの言葉に思わず大きな声を上げてしまった。自分が所属するプロダクションのマイナスイメージにも繋がりかねないので、遅いかもしれないけど口を両手でパッと塞ぐ。

 

 さっきまで撮影で着ていた白雪姫風の衣装は、衣装さんが手際良く脱がしてくれている。さすがに業界が長いのか、目に見えた反応はせずに淡々と作業をしているあたりプロだと思う。

 

 そんな私の動作を見ていたちひろさんは、クスクスと笑いながら手をひらひらと振った。

 

「大丈夫ですよ、ふみのちゃん。ここにいる人はみんな身内ですし、内情を話しても外には漏れませんから」

 

 あ、なるほど。この衣装さんやヘアメイクの人も346プロの関係者だったのか。とりあえず自分のミスでスキャンダルが表に出なくてよかったとホッと胸を撫で下ろす。

 

 会長と同年代の女性部長が私たちの部署を起案して、そのままプロデューサーも兼任しつつやっていくはずだったそうだ。しかし最近になって持病である腰痛が酷くなり、部長さんは長期の休職を余儀なくされたらしい。

 

「でもそうなると、第三芸能課はどうなっちゃうんですか?」

 

「しばらくはこのままレッスン継続で、新しいプロデューサーを引き受けてくれる社員を探す感じになりますね。ただ小学生だけの新人アイドルユニット、となるとねぇ……」

 

 商品になるかもまだわからない、未知数の子どもたち。それを一手に引き受けるとなると、なかなか勇気が必要だろう。ちひろさん曰く、サブプロデューサーを数年勤めていてアイドルを任せられるぐらい業務に長けた人をピックアップして、現在選考中らしい。

 

 ちなみに私だけなら是非プロデュースしたいと立候補したプロデューサーたちも数人いたみたいだが、そういうプロデューサーは閑職に追いやられたらしい。自分の出世や名声のためにアイドルを利用しようとするその浅ましさが、上層部で問題になったというのだから自業自得だ。

 

 さらなる問題としてプロデューサー予定の人物が休職したことによって、まだ会ったことのない千佳ちゃんの両親と私とも面識がある舞ちゃんの両親がしばらく様子をみたいと、ふたりがレッスンを休むことになった。

 

 実は私は、舞ちゃんのお母さんには遠巻きにされていたりする。別に彼女が悪いわけではなく、子供を持つお母さんなら私の家庭環境には大なり小なり嫌悪感というかややこしいから近づきたくないなと思うだろう。両親ともにそれぞれが不倫し子供が自ら稼いだ貯金を遊興費に使い込み、娘はそんな両親にすがることなく冷徹に裏切り者を切り捨てた。うん、改めて思い返しても自分でも気味が悪い子供だと思うもんね。

 

 そんな私が娘と同じ部署に後から所属してきて、同じグループで活動するかもとなれば『この話はなかったことに』という感じになっても仕方がないと思う。大人の思惑はさておき、私は舞ちゃんとまた一緒に活動できたら嬉しいとは思うけど、なかなか難しいのかもしれないね。

 

 一旦問題点は置いておいてしばらくは待つことを要求されている私たちだけど、このままだとみんなのやる気やアイドルをやろうという熱まで無くなってしまうかもしれない。

 

 その危惧をちひろさんに伝えると、彼女もおぼろげにだがそういう危機感はあったのかコクリと頷いた。

 

「それは確かにそうですね、ただ第三芸能課にわずかながらでも関わっている社内の人間は私だけですから。なかなか実行に難しいというか」

 

 ちひろさん忙しいもんね。私の仕事への同行をするようになって、毎日2時間の居残りがもはや習慣になっていると聞いたことがある。それはもう残業というより通常業務って呼ぶべきだよね、いつもご迷惑掛けて申し訳ないです。

 

 その時、名案ではないけど一案ぐらいにはなるのではないかというアイデアが浮かんだ。不思議そうな表情のちひろさんに、私はちょいちょいと手招きして彼女の耳元に囁きかけた。

 

 

 

 

 

「デビューできるぐらいの実力をつけるために、ですか?」

 

 翌日、私はダンスとボイトレレッスンを受けるために346プロダクションに来ていた。今日の朝ちひろさんからメッセージが届いていて、昨日の私のアイデアは無事にGOサインをもらえたのでこうしてみんなに説明することにした。

 

 ちなみに本来ならちひろさんがみんなに向けて説明してくれる予定だったのだけど、彼女はとても忙しい。早く事務方で彼女の仕事の半分ぐらいは引き受けられる人が育てばいいのになと思いつつ、現状はちひろさんにたくさんの仕事がのしかかっているためこられなかった。

 

 現在私たちのレッスンを担当してくれているのは、大学生で初心者アイドルたちのレッスンをバイトとして取り仕切っている。ちなみに彼女の姉は3人もいて、彼女たちもアイドルのトレーナーとして346プロに所属しているそうだ。違いは実力と雇用形態がバイトじゃなくて社員だってことぐらいかな?

 

 彼女はあだ名でルキトレちゃんと呼ばれているので、私もそれに習おうと思う。彼女にメインで説明役をしてもらおうと思ったのだけど、詳しい話は聞いていないし無理だと断られてしまった。ただルキトレちゃん自身の役目はわかっているので、それについて不足があればちゃんと横から補足してくれるみたい。

 

 それで早速私がペラ1枚のレジュメとも呼べない紙を今日参加している子に配ると、1行目を読んだ橘さんが小首を傾げながら尋ねてきた。

 

「そうそう。ただ毎日、目標もなくレッスンを受けていても自分たちが上達しているのかもわからないし、やる気も起きないじゃないですか」

 

「小春、眠くなっちゃいます~」

 

 ベストなタイミングでそう言ってくれたのは古賀小春ちゃんだった。ふわふわしている感じの夢見がちなイメージそのままな雰囲気の女の子、すごくかわいいと思う。

 

「そうだよね、みりあもたまに踊りながらボーッとしちゃう時あるもん」

 

 続くように言ったみりあちゃんの言葉に、残りのメンバーがコクリと頷いた。やっぱり飽きる前兆はあったのだけど、大人が状況にてんやわんやで子どもたちを見ていなかったから気付けなかったのだろう。

 

「集中してレッスンするのと、小春ちゃんやみりあちゃんが言っていたみたいな状態。どっちが自分の実力になるでしょうか、橘さん?」

 

「それは、もちろん集中した方だと思います」

 

「その通り。だから大人の人たちが考えて、踊りと歌だけでも初心者アイドルを脱出するための課題を作ってくれました」

 

 私が発表すると、みんなが『わー』と言いながらパチパチ拍手してくれた。まぁまばらだったけど、ノリがよかったからOKだと思う。ちなみに何故私がアイデアを出したことを隠したのかと言うと、変にライバル心燃やされたり『芸能界の先輩だからって偉そうに指示しやがって』と謎の反骨心を持たれたら今後やりにくいからだ。

 

 それにみんな大人の言うことなら、多少の抵抗感があってもなんとか受け入れそうだしね。反抗期がきてる感じの橘さんと梨沙ちゃん対策でもある、同い年の女子に指示されたことで爆発とか目も当てられないし。

 

「ダンスで8個、歌で8個。課題をクリアするごとに、このカードの数字の部分にルキトレちゃんがハンコを押してくれます。ただし課題が何なのかはこのカードには書いてないので、予習はできません。復習は無理のない程度ならおうちでやってもらっても大丈夫だけど、お外は車とか色々と気をつけてね」

 

 私はちひろさんが急ぎで両面印刷してくれた免許証サイズのカードを、みんなに配った。片面にはダンスと1から8の数字、裏面はダンスがボイトレに変わっただけで後は一緒の印字。本当にシンプルな紙なんだけど、みんなは冒険の地図を手に入れたみたいに目をキラキラさせていた。

 

「私から出す課題は、本当に新人アイドルさんが現場で求められても困らない程度のものです。全部埋まったらご褒美として、ダンスとボイトレ両方で初心者より一段上の階段を昇れるレッスンを開催します」

 

 向上心の固まりみたいなみんなは、休憩時間が終わると同時に早速ルキトレちゃんの周りに集まって課題をねだっていた。さっきの説明で抜けていたが、この課題はレッスンに参加している全員が合格をもらえないとハンコはもらえない。なんでこんな面倒くさいルールを付けたかというと、できない子をできる子がフォローする能力ってグループで作業するときに一番大事だと思うからだ。もちろんちひろさんにも同意してもらったし、それが自然にできたらみんなも仲が良くなるしフォロー力も身につくしいいこと尽くめだろう。

 

 私も劇団である程度までのダンスは勉強していたけれど、アイドルのダンスとはまた毛色の違うものだ。ひとりだけ変なダンスで足を引っ張らないように頑張ろうと、私もまたルキトレちゃんを囲むみんなの輪の中に加わるのだった。

 

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