子役からアイドルに転身した女の子の話   作:Mr.サム

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05.プロデューサー①

 

 みんなの集中力を切らさないように作ったスタンプカード、2ヵ月が経つ頃にはみんなが飽き始めていた。中身もルキトレちゃんが考えて2回も変更したんだけど、レッスンで向上した実力と、小学生の飽きやすさが重なった結果飽きが早まってしまった。

 

 私たちの担当プロデューサーが見つかるまでの時間稼ぎも理由にあったのだけど、残念ながらまだ見つかってはいない。他のメンバーよりもダンスレッスンやボイストレーニングへの参加回数が少ない私でも、なんとか他の子たちと一緒に歌って踊っても見劣りしない程度になったので時間は稼げたとは思うんだけどね。

 

 そして私たちが待ち望んだ吉報が入ってきたのは、CMの撮影が終わり自分の服に着替え終わってのんびりとしていた時のことだった。

 

「ふみのちゃん、大変です!」

 

 まるで全力疾走してきました、という体で私の楽屋に飛び込んできたちひろさんが叫んだのを見て、私は『ふぇ?』と情けない声を口から小さく漏らしてしまった。

 

「ちひろさん、大丈夫ですか!? とにかく、落ち着いて。お水飲みますか?」

 

 両膝に手をついて肩で息をするちひろさんに、私は立ち上がってそう言いながら楽屋に置いてあったミネラルウォーターのペットボトルを手渡した。ちひろさんは流れるような動きで受け取ったペットボトルからキャップを外し、ゴクゴクと勢いよく飲み始める。

 

「ぷはぁ~、お見苦しいところを見せちゃいましたね。もう大丈夫です」

 

 ちひろさんは空っぽになったペットボトルにキャップをつけて、ペットボトルをテーブルの上に置く。普段は冷静沈着なちひろさんがここまで慌てるようなことが起こったということなので、なんだか聞くのが怖くなる。

 

「実はこの度、第三芸能課のプロデューサーさんが決まりました!」

 

 おおー。意外と早く決まったんだね、思わずパチパチと拍手してしまった。ちひろさんの説明によると、元々は第一芸能課でアシスタントプロデューサーとして他のプロデューサーさんの補佐をしていた人らしい。第一芸能課の課長さんがプロデューサー就任を打診してみたら、食い気味にやると返事をされたそうだ。

 

 まぁ普通に出世だもんね。プロデューサーさんが何歳なのかはわからないけど、上を目指すなら早めに独り立ちした方がいいだろうし。

 

「それでですね、一度顔合わせをしようということになりまして。第一の課長さんと新プロデューサーさん、そしてふみのちゃんと私の4人で」

 

「な、なんでアイドル側は私だけなんですか?」

 

 他の3人はプロダクションの社員さんばかりだから打ち合わせに参加しても自然な感じだけど、そこに子供の私が加わると一気にヘンに見えるよね。

 

 私の質問にちひろさんは苦笑を浮かべて、事情を話してくれた。実はプロデューサーさんにはまだ詳しい話ができていなくて、担当するのが小学生の私たちということを知らないそうだ。

 

 いきなり第三芸能課のオフィス……まぁ部屋の見た目は学童にしか見えないけど、そこに連れて行くという話もあったらしい。ただ初対面がうまくいかずに子供たちから反発されたり、逆にプロデューサーさん側がやりたくないと話を白紙に戻す可能性もある。そのために念には念を入れて、前もって面談してしっかりと地固めをしておこうという話になったらしい。

 

 ちゃんとメンバーのプロフィールを見せてプロデュースするのは子供たちだと言っておかないと、プロデューサーさんが高校生とか大学生を思い浮かべていると落胆してしまうかもしれないしね。

 

「ふみのちゃんにはプロデューサーさんのサポート役も期待しているから、先に顔合わせをしておいてもらいたいみたいですよ」

 

「……期待されてるなら頑張りますけど」

 

 誰がそれ言ったのか知らないけど、小学生に頼る気満々な大人たちってカッコ悪いと思う。ちひろさんも同じ気持ちだったのか、私と目が合うと困ったように苦笑を浮かべていた。

 

 そんなちひろさんに連れられて向かったのは、事務所のビル内にある第一芸能課の会議室。中に入ると男性がふたり座っていて、ひとりは第一芸能課の40代半ばぐらいの年齢に見える課長さん。そして大学を出て5年は経ってなさそうな若い男性だった。

 

 私とちひろさんが中に入ったのと同時に、ふたりが椅子から立ち上がる。あれ、若い方の男性は結構背が低めで小学生の私でもあんまり威圧感がない。多分この人が私たちのプロデューサーになるんだろうし、この人ならみんなも大人ってことを意識し過ぎず仲間として扱えるんじゃないだろうか。

 

 自己紹介をしてふたりから名刺を受け取って、本題に入る。ちひろさんから聞いていた通り彼は第一でアシスタントプロデューサーとして働いていて、今回急遽出した第三芸能課のプロデューサーに社内応募したそうだ。まぁ実際は第一の課長さんからの直接打診に飛びついた形なんだろうけど。

 

「本当は三船さんとか早苗さんみたいな、大人の女性アイドルのプロデューサーを志望していたんですけどね」

 

 照れたように頭の後ろを掻きながらそんなことを言うプロデューサーさんに、思わず冷たい視線を送ってしまった。これからプロデュースする私を前に、他のアイドルが良かったんだけど無理だったからこっちで妥協するみたいなことを話すのはどうなのか。ちひろさんもにこやかな表情のままだったけど、冷たい空気が漏れ出ていたのでかなりお怒りみたいだった。

 

 それに気づいた第一の課長さんが軽くポカリとプロデューサーさんの頭をはたいて叱ってくれたので、まぁ今回は水に流そう。でもこの人のサポートは大変そうだなぁと、なんとなく前途多難な雰囲気を感じて思わずため息をついてしまった。だってなんだか気が効かなそうなんだもん、この人。

 

「小学生でも女の子なんですから、そういうことは絶対に本人たちの前で言わないでくださいね」

 

「……は、はい」

 

 笑顔なんだけど能面みたいな雰囲気を醸し出しているちひろさんに注意されて、怯えたように返事をしたプロデューサーさんに少しだけ溜飲が下がったのは言うまでもない。

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