キャメロットに集められた騎士たちと、マーリン、モルガン、モードレッド、ハンニバル、そして我らが騎士王アルトリア。全員で円卓を囲み話し合った結果、一旦話を整理しようというハンニバルの提案で、最も魔法に通じるマーリンとモルガンが代表となって彼女に事情を説明した。
ザートムことサイトウの失踪に至るまでの経緯と、ハンニバルを呼び出すに至った経緯。そこまで説明してからハンニバルは納得したような、疑問が消えないような不思議な表情を浮かべて手を挙げ、話を止めた。
「つまりなんだ、お前たちはザートムに会いたいわけだな?」
「あぁ、そうだ。ザートムを呼び出すために召喚の儀式を行ったが、現れたのは貴様だったというわけだ。」
モルガンが答えると、ハンニバルは胸を張った。
「召喚の儀で私が現れたのには理由がある。お前たちが使った触媒が、ザートム以上に私との因縁の強いものだったからだ。結果、私は今こうして呼び出されているわけだな。もしも会いたければ、アイツがこじ開けた時空の狭間に身を沈めるしかあるまい。帰ってこられるかも、同じ場所に行けるかも確証はないが…。」
ハンニバルの見解に皆が唸った。
沈痛そうな面持ちの面々を見回してから、ハンニバルは気になっていたことを聞いてみた。
「そういえば、お前たちとアイツの関係性は何なんだ?因みに私はザートムの妻だ。」
ハンニバルの発言を皮切りに、マーリン、モルガン、モードレッド、アルトリアによる熾烈な席取り争いが始まった。
まず最初に声を上げたのはアルトリアだった。
「私は師の弟子であり、師の恋人でもある。この中で最も師とは古い付き合いであり、そこら辺の変態魔法使いや、意地の悪い魔女よりも彼に相応しい!」
最早一度詐称してしまったものをひっこめるつもりはないようだ。アルトリアは先制点を入れるや、満足げに自分の席にドカッと腰かけた。
二番手はマーリンだった。
「僕の方が彼とは濃厚な付き合いだったもんね!君たちみたいに仲良しこよしじゃなくて、争いながらも心で通じ合ってたんだよ!アルトリアなんて手も繋げなかったくせに!」
「ヴぅッ!?」
マーリンの口撃にアルトリアは胸を押さえた。
しかし、黙っていないのはマーリンだけではない。モードレッドとモルガンも負ける気などサラサラなかった。
「父上だって意地悪じゃないか!人のことを言う前に、オレと師匠との稽古を毎回邪魔しにくるのを何とかしろよ!いっつもべたべた引っ付いてさ!膠じゃないんだからしゃんとしろよ!」
「魔女だなんてよく言えたものだな!その魔女や魔法使いに教わった惚れ薬で一発逆転を狙っていた賢しい女は何処のどいつだ!私の方が余程貞淑だったぞ?夫婦になっても手を出さなかったあの人を惚れ直したくらいだ。」
マーリンに続いて、全方位に打った球が自分に戻ってきたアルトリア。彼女のライフはもうゼロよ!
「う、ひぐっ…だって、仕方ないじゃないかぁぁぁ!!私が一番最初だったのにぃぃぃ!!」
遂にアルトリアは泣き出してしまった。トリスタンより泣いている。ガウェインとアグラヴェインもハンカチを噛んで我らが王を労しがっている。ランスロット、ヴェディヴィエール、パーシヴァル、ガレスたちは醜い争いを白い目で見る者が半分、しみじみと師への尊敬を向ける者が半分だった。
収拾できない争いに発展する前に、この場でというか史上最強のハンニバルが総括に入った。
「なるほど、お前たちの話はよーーーーっく理解した。そんなに奴に会いたいなら…まずは奴のことを知る事だ。」
ハンニバルの言葉にアルトリアが涙声で言った。
「もう沢山知っているぞ!この世界では、貴方はあの方のことを存じていないだろうに!」
アルトリアの言葉に、しかしハンニバルは笑わず、怒らず、淡々と巻物を差し出して言った。
「ザートムが渡り歩いてきた世界が、私とお前たちの元だけだと考えるのは、それはとんだ勘違いだぞ?」
マーリン達は合点がいったという様子で驚いている。どういうことだろう?と、アルトリアは一先ず巻物を見てみることにした。
「これはッ!?」
そこに描かれていたのは、何かの壁画のようなものだった。黒い犬のような頭を持ち、王の笏をもった女性と共に描かれている。芸術様式から言って、エジプトのものであることは明白だ。だが、問題なのはそこに映っている男だった。黒い石の首飾りを下げ、特徴的な剣を腰に佩いている。どこからどう見ても、ザートムその人だった。
ハンニバルは言った。
「一目でわかるだろう?そこに描かれているのがザートムだ!私が生まれるより遥か古代のエジプトの壁画に、私が生きる時代のアレクサンドリアに遺されていた壁画の複写だ!それだけじゃないぞ!神話の時代にだって描かれているんだ!アイツは、何の因果かずっと旅の中に囚われている!私の目的は、奴をその連環から解放し、今度こそ共に歩むことだ!」
そして、彼女はこれまでの研究の成果について…時空の狭間を渡り歩き、追体験したもの、ザートムが視てきたものについて語り始めた。