鈍として青く   作:ヤン・デ・レェ

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ハッピーエンド・レボリューション

「吾輩は汝らに問う!其処に、正義はあるのかと!吾輩は答える!正義などない!そこには、調整があるのみ!汝らの溜飲が一時、下がるのみである!そして、その為に、子供を惨たらしく殺していいことがあろうか!いや、ない!汝らがそうであったように、不幸が一つ、怨念と憎悪と共に完成するのみ!汝らが、もしも人の子であり続け、また正義の信徒であり続けたいのであらば、かの子供を吾輩が貰い受けよう!そして、一人、王宮に残ったマリーを、一人逃げなかったマリーを、母親として遇することを許したまえ!もしも、この願望が叶わなければ!そうであるならば、吾輩は統領政府第一執政の名のもとに、汝ら革命派に大砲を向けることに躊躇しない!死にたくなければ、吾輩の言うとおりに、正義を実行せよ!」

 

革命の震源地、パリの広場での出来事であった。1789年、フランスで起きた革命を命運づけたのは、国民の不満であった。

 

不満により、また宗教的理由により、革命下のフランスは無法地帯と化した。そして、貴族への不満が暴力と殺戮の形で吹き荒れた。多くのものが傷つき、また殺された。

 

貴族たちの悲惨な現状に恐れをなした国王一家は、個人的用心棒であるシャトレー将軍に引き留められたマリー・アントワネットと、その息子ルイを残してフランス国境外への脱出を敢行。しかし、国境付近で発覚したことで、この事件は国王への国民の最後の信頼を喪失させたものとして記憶されることとなった。

 

国王一家の中で一人残ったマリーも、別の場所で匿われていたその息子と共に捕縛された。

 

既に刎ねられた国王ルイ・カペーの首の隣に、彼らの首が並ぶかと思われた時である。

 

時に、処刑場でギロチンを操るシャルル・アンリ・サンソンの手引きにより、一人の男が群衆の前に立ちふさがり、冒頭の言葉を叫んだ。

 

男の名はシャトレーことサイトウ。セーヌ川のドブに流れ着いている所を発見され、救い出され、マリーの寵愛の下で軍の出世街道を突き進んだ逸材だった。

 

「これから、吾輩がここにいる二人分の命を償おう!その上で、再考せよ!」

 

困惑する民衆を前に、次に、シャトレーはそう叫ぶや、縄打たれたマリーとルイをギロチンから引き離すと、自らギロチン台に首を差し出した。

 

「さぁ!シャルル!ヤれ!」

 

「あぁ、シャトレー殿!お許しを!この命であれば幾らでも!」

 

そう言って、サンソンの手によって男の首にギロチンが落とされた。

 

バツ!という音と共に、男の首が一回、刎ね飛ばされた。

 

誰しもが、なんとあっけない、何事だったのだ…と、思った。

 

だが、しばらくすると、男は首の無くなった体のまま起き上がると、スタスタと自分の首のある場所へと歩いていき、ルイ・カペーの隣に置かれた自身の首を迷いなく掴むと、ぐりぐりと断面を、絶たれた首元に押し付けてしまった。

 

「さぁ、もう一度」

 

シャトレーは血を吐きながらそう言った。

 

「さぁ、サンソン!やり給え!君も望んだことだ!さぁ、君が救いたい人を救いたまえ!」

 

「うわぁあああああ!」

 

男はそう叫び、サンソンは血の涙を流しながら再びギロチンを落とした。

 

バツ!という音と共に、男の首が一回、刎ね飛ばされた。

 

誰しもが、なんとあっけない、何事だったのだ…と、思った。

 

だが、しばらくすると、男は首の無くなった体のまま起き上がると、スタスタと自分の首のある場所へと歩いていき、ルイ・カペーの隣に置かれた自身の首を迷いなく掴むと、ぐりぐりと断面を、絶たれた首元に押し付けてしまった。

 

群衆が言葉を発せずにいると、シャトレーは困ったような、呆れた様な顔をし、ため息を漏らしてからこう言った。

 

「そうか、まだ満足しないか、ならば、致し方なし。さぁ、もう一度」

 

シャトレーは血を吐きながら、再びそう言った。

 

「さぁ、もう一度」「さぁ、もう一度」「さぁ、もう一度」「さぁ、もう一度」「さぁ、もう一度」「さぁ、もう一度」「さぁ、もう一度」「さぁ、もう一度」「さぁ、もう一度」「さぁ、もう一度」「さぁ、もう一度」「さぁ、もう一度」「さぁ、もう一度」「さぁ、もう一度」「さぁ、もう一度」「さぁ、もう一度」……………

 

「まだまだ。さぁ、もう一度。安心したまえ、シャルル。吾輩は君を心の底から愛しているし、この通り、全く恨んでもいない。さぁ、もう一度。マリーも、ルイも、何の心配もいらない。この通り、皆が満足するまで、人の首が斬り落とされる様子を、ご覧に居れれば、何も怖いものなどない。なにも、何の、不満があろうか?これが、欲しかったのではないのか?だから、あれほど熱狂していたのではないのか?」

 

「さぁ、もう一度」

 

 

 

 

「あ、アァ…シャトレー様、お許しを…これ以上は、もうぅ…」

 

サンソンは遂に、跪いてシャトレーに祈った。頭を処刑台に擦りつけて、「頼むからもうやめてくれ」と言った。

 

「これ以上、貴方を傷つければ、きっと皆地獄に堕ちてしまいます。ですから、もうお許しを」

 

「そうか。なら、ここにいる群衆にも聞いてみよう。君たち、もう、満足したかね?一生分、人の首の斬り落とされるのを見れたかね?」

 

男の言葉には、もはや神々しささえ纏わりついていて、群衆は独りでに、跪いて、祈り始めた。

 

革命期の処刑祭りは、たったの一日で終わった。終わったが…

 

都合666回、シャトレーの首が刎ねられ、シャトレー一人分の血で広場は真っ赤に染まった。

 

マリーとルイは簡易裁判で無罪放免となり、シャトレーは言葉に狂いなく、軍人からの圧倒的支持の上で第一執政に就任。ナポレオンに譲るまでの数年間、フランスの国家権力の頂点に不動として座した。この間、フランスは戦争に不敗であった。

 

 

 

 

革命が落ち着くころ、一人の男がシャトレーを批判し、シャトレーの熱狂的な信者によって八つ裂きにされた。

 

八つ裂きにされた男の名はマラー。革命で指導的な役割を演じたが、全てをシャトレーに搔っ攫われたことで名が知られていた。彼は公の場でこのように発言していたという。

 

「シャトレー、あの忌々しい男、アイツは、革命を汚した!フランスの恥だ!悪魔の番号と同じ数の首を持つ、悪魔の化身に違いない!銀の剣で討ち滅ぼされなければならない!」

 

しかし、この発言をした三日後の夕刻、マラーは風呂場で死体となって発見された。

 

犯人探しが行われたが、容疑者の数が多すぎて断定できなかった。

 

一説には、シャルロット・コルデーという若い女性の手によるものではないかとも噂されたが、凶器に指定された銀のナイフを、シャトレー支持者たちが、こぞって購入、所持したがために、結局事件は迷宮入りとなった。

 

 

 

 

ヴェルサイユ宮殿から遠く離れた、郊外の一軒家に、シャトレーは住んでいた。

 

家族構成は、養子に迎え入れたルイに、ルイの母マリー、そして使用人のシャルロットであった。近所には処刑人を辞したシャルル・アンリ・サンソンの家があり、家族ぐるみでの活発な交流が言い伝えられている。

 

伝説によれば、ルイが大人となりドイツ留学を果たし、弁護士としての仕事に就いた翌日、シャトレーは散歩に出ると言った切り、忽然とその姿を消してしまったという。

 

このことは、フランスで社会現象にもなり、シャトレーの失踪は活発に議論され、神の元に聖人として昇天したのだと言うものもいれば、天罰が当たったと言うものもいた。

 

遺族や友人たちの多くは、シャトレーはフランスが再び苦難に直面した時に復活するのだ、という旨の誓詞を彼の空っぽの墓標に刻み、厳かな告別式を開いた。これには時の皇帝ナポレオン一世をはじめとして、プロイセン、スペイン、イギリス…他、各国の著名人が参列した。

 

献花の総額は、市の一か月間の歳入に匹敵し、また贈り物を含めれば一年分に匹敵した。

 

シャトレーがどこに行ってしまったのか、それは誰にもわからない。しかし、彼が亡き後もマリー、ルイ、シャルロット、シャルルが食うに困らず、平穏に暮らしたということだけが、この物語の結末であり、シャトレーに纏わる唯一疑いない事実である。

 

 

 

 

 

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