「外宇宙生まれのSさん」のテーマが「家族愛」、
……という、チラシ裏にでも書いておけ!な各テーマを上げたところで不肖のフェニックス家の次男坊のお話です。
片鱗
トラヴィス=
事件は二つ起こった。
一つ目はフェニックス家に受け継がれる、“チカラ”である。
フェニックスの血を引くものはある特定の年齢になると、“不死”とされるように非常に優れた再生能力と攻撃に特化した炎に覚醒する。その強大なチカラからフェニックス家は実戦でも冥界で広く人気を誇っている眷属を戦わせる競技、レーティングゲームにおいて、その強さを知らしめたものであり、トラヴィスはその能力をまるっきり持ち合わせておらず、赤い羽根のような痣が首筋に浮かんだ程度でそれらしい片鱗は何も見せなかった。
二つ目は弟のフェニックス家三男、ライザーの存在である。ルヴァルと並び、トラヴィス以上の才能を開花させたライザーはフェニックスの力が目覚める年齢となるまでにトラヴィスが『神童』と呼ばれたように、『フェニックスの才児』とまで呼ばれるようになった。
いつしか、トラヴィスをライザーが徐々に追い抜いてしまい、穏やかではあるものの、実力者であるルヴァルと並ぶほどになったことで両親からの期待を裏切る形となり、フェニックス家での自分の居場所を感じられなくなっていた。
「……変わらず炎は出ない、か」
フェニックス家の屋敷の敷地内にある、『トラヴィスの部屋』とも言える空間は皮肉にもトラヴィスを外界との接触をさせない為、トラヴィスにとって憧れの人で
何度も眠る前に積んだイメージトレーニングは『炎が出ない』と知ってから、どれくらいの間、続けてきただろうか?本棚と箪笥、そして大量の書籍が散らばったベッドから起き上がって、起床してからはじめる第一のことであった。枕元にはアザゼルと幼少時に撮った写真が一つ、兄と両親と四人で撮った写真が飾られている。
時折、メイドがこの空間に食事を運んでくるくらいしか外界の出来事は分からないままで『一族の恥』と罵りにやってくるライザーくらいしかやって来ない。もし、自分があのままフェニックス一族の能力を発言させていれば、現魔王の一人のアジュカ・ベルゼブブのように技術者でもある魔王を目指し、屋敷で勉学が出来ていたのを思えば、あの瞬間を恨まなかったことは一度もない。
「トラヴィス様、朝食をこちらに置いておきますね」
「ありがとう、いつものように置いておいてくれ」
「かしこまりました。では、私はこれにて失礼します」
メイドの事務的な声が聞こえ、部屋の扉の前にコトッ、と朝食が載ったトレイを置く音がした。これ以上、ネガティヴな考えはしないつもりだが、悪魔特有の身体能力と磨きに磨いた
「うわあ、今日はベーコンエッグとバターロールか。美味しそうだなぁ」
「……恥晒し者は今日もぬくぬくと穀潰しとして生きているようだが、それでいいのか?」
いそいそと這って正座しながら、部屋の前にあるトレイを取ろうとするとトラヴィスと同じ金髪で顔立ちの整った幼さの残る少年が少し高圧そうな少女を一人引き連れてトレイを足で下げた。このトラヴィスの部屋であり、居住空間である場所はフェニックス邸の裏に位置し、此処まで来るのはトラヴィスが“飼育係”と呼ぶメイドが出入りする程度で一族の者は誰も出入りしない、と思っていた。時折、照明の加減で薄暗くなることもあり、視力の悪いトラヴィスはメガネをかけているが、少し威圧的な少年はトラヴィスを見下ろし、そして溜息をついた。
「信じられないね、全く。こんな空間に幽閉されているヤツが父上と母上に期待され、異例とはいえ、フェニックス家を継ぐかもしれなかった、とは。そう思わないか?ユーベルーナ」
「ええ、本当ですわ、ライザー様。この方がライザー様の兄君であるとは思えませんし、同じ兄君であるルヴァル様のように穏やかでもなければ、才能も無い……」
「ライザー、その隣のユーベルーナさんはお前の眷属なのか?おめでとう、父上に認めてもらったんだな!?」
金髪の少年ーートラヴィスの弟のライザー・フェニックスはトラヴィスが幽閉されている間、眷属を得ることを認められたようだ。その年で才能ある者として認められたライザーはかつてのトラヴィスを思い起こさせ、トラヴィスは見ず知らずのライザーの眷属であるユーベルーナと呼ばれた少女に罵倒されようが、弟に貶められようが構わずに純粋に弟の成長を祝福した。
「聞いているのか?穀潰し。こないだオレは社交界デビューをしてきたところだが、お前の噂は他の家にも届いているぞ?相変わらずの悪名高さだな、生き恥晒しめ」
「お前の兄として、僕は嬉しいよ。そっか、ライザーに眷属か……」
ライザーが何度自分を貶めようが、トラヴィスは聞く耳を持たなかった。よく見れば幽閉前の自分と同じくらいの身長になっているし、今更、一族の者や周囲の反応に一喜一憂していたところで何の意味もない。ライザーの言葉を聞き流し、ただ溢れる悔し涙を拭いながら、口ではライザーの成長を祝った。眷属を作るのは上級悪魔にとっては自らの地位を高める為、そして他の家に己の力を誇示するには重要なことであった。
最近、騒がれている転生悪魔の扱いや転生悪魔が認められにくくなっている世の中になっているのはフェニックス家のような旧家が自分達の地位と名誉を守るために彼らの地位を認めるようになれば、自分達の地位が危ういことを分かっているからだろう。それでも、この年になってもいまだに眷属を作るために必要な
「ライザー様のお言葉が聞こえていないの!?」
自分達の言葉に耳を傾けない、トラヴィスに腹を立てたのか、ユーベルーナはトラヴィスの朝食の載ったトレイを引っくり返し、隙だらけのトラヴィスの腹を思い切りヒールを履いた足で蹴り飛ばした。勢いよく背後に飛び、トラヴィスがベッド脇の机に背中をぶつけると、不死身を備えない、その肉体は痛みを感じる。
これが、トラヴィス=
「おやおや、哀れな能無しのあにうえサマは弟の眷属の暴動を止めることも出来ないんですか?弟にも勝てない、炎を噴出せない、再生能力を持たない。今でこそ、オレが父上と母上に期待されてこそいるけれど、一体全体どうして穀潰し如きが神童だなんて呼ばれていたんだろうなぁ?」
ゆっくりとトラヴィスの部屋に入ってくるライザーは腹を抑え、蹲って唸るトラヴィスのその黄金色の頭を高級な革靴で踏みつける。硬い材質であること、ライザーが力任せに踏みつけていることでトラヴィスは頭蓋骨が砕けそうな感覚に陥ったが、砕けることはなかった。ライザーはギリギリの加減でトラヴィスを踏みつけ、苦しめようとしているのだから。トラヴィスは痛みを堪えながらも、近くで聞こえる魔力が収束している音が聞こえてくる。きっと、ライザーがこの空間内でならば、どれだけ暴れても大丈夫、とでも思っているのだろう。自分の力に絶対の自信を持って憚らない愚かな弟だ、だから無力な兄一人すら屈服させることはできない。
それだけがトラヴィスの精神を身体に繋ぎとめ、意識を失わせなかった。
「ユーベルーナ、これを頼む」
「分かりました、ライザー様。……悪魔の名門のフェニックスに生まれたというのに、堕天使総督に憧れるとは本当に汚らわしい方ですね、ライザー様の兄君とは思えない」
「そうだろう?この男は上級悪魔として生まれながら、堕天使の長とも言える男に憧れを見せ、我が一族の技術を持たないくせに財産を食いつぶして今日も生きながらえている。こんなものがあるからいけないんだ、やれ、ユーベルーナ」
「やめろ、やめろ!ライザー、その手を離せ!写真をこちらに渡すんだ!」
「今更、何を言ったところで意味はありませんよ、トラヴィス=アウル・フェニックス。穀潰しでフェニックスですらない、お前に選択しなぞありゃしないんだ!」
ライザーがトラヴィスがアザゼルと映る写真を汚いものに触れるように、写真立ての角を摘まみ、ユーベルーナの方へと投げると盛大な音を立てて魔力の収束体に触れて爆発四散した。黒焦げになった写真の方へとわなわなと震える手を伸ばすと、ライザーがソレを許さない。
「これで少しマシになってくれるといいんだがね、穀潰し。分かっているのか?ただでさえ、出来損ないであり、温情で生かされている身でありながら、フェニックスであるオレに逆らおうとするからこうなるんだ。分かれば、これからは身を丸めながら暮らすんだな!」
何度も何度もトラヴィスを踏みつけ、高笑いをするライザーはトラヴィスが黒焦げを集めようとするのを許さない。そして、トドメとばかりに完全に心を折る為にトラヴィスに対して放った言葉はトラヴィスを突き動かし、今までとは違う変化を起こした。
「お前の『夢』は叶うことはない!穀潰しに夢を見る権利があると思うか?あるわけがないだろうが!そんなのを見れたとしても、一生叶うことはないだろうがな!」
そのライザーにとっては罵倒でしかなかった『言葉』はトラヴィスの身体の震えを止め、身体に力が漲るようにさせた。ライザーとユーベルーナに見えたのは、劣等種として見下していた男の赤い羽根のような痣が紅く光り、ライザーの足を無理矢理どけて立ち上がり、その身を恐怖とは別のベクトルで震えて拳を握っていることだった。
「……なんつった?」
「今更、反抗の意思を見せたところで無駄だぞ!?穀潰し!お前なんか取るに足らないし、オレの炎とユーベルーナの爆発なら、炎が使えないフェニックスではないお前は永遠に勝ち目がない存在だ!」
「今、『俺』の『夢』のことを、なんつったって聞いてるんだよ!このビチグソ小僧がァ~~ッ!お前が『俺』のことをなんと卑下しようが、
激昂したトラヴィスに怖気つかず、ライザーはトラヴィスにここぞとばかりに自らの『現実』を出来損ないと見下している二番目の兄に突きつける。取るに足らない存在、自分より下に見ている存在、ライザーにとってはその程度でしかなかった。しかし、トラヴィスのことを良く知らなかったライザーは決定的なことを見落としていたのだ。トラヴィスの芯を完全にへし折る為、トラヴィスの夢を全否定する言葉を投げかけるのはかえって逆効果だった。むしろ、トラヴィスの中で決定的な『なにか』が爆発し、ライザーを力任せに何度も殴りつけた。背丈はライザーとあまり変わらないほど年齢の割に小柄な方であったトラヴィスだったが、さすがに年の功と言ったところか、そして同じフェニックスである為だろうか、再生する暇も与えないほどに殴りつけ、そしてまだまだ未熟であった事でライザーの再生は追いついていなかった。トラヴィスのライザーを『殺すような気迫』はユーベルーナを近寄らせず、「申し訳ありません、ライザー様!ただちにフェニックス卿を呼びに行きますね!」とユーベルーナは父を呼びに行ってしまった。
「クソ……、五月蝿い羽虫を逃してしまったか……。このクソガキと一緒に馬鹿にしたんだ、徹底的に殴らないと……!まだだ、まだ足りないんだよ!」
気が済むまでライザーを殴った後は気がつけば馬乗りになっていた為、ライザーの上から降りて脇腹をトラヴィスは蹴り飛ばした。ようやく再生がはじまったのか、傷口は塞がるものの、顔には痣が残り、気を失っているようだ。まだ頭が熱くなったままのトラヴィスがまだ幼い弟の心臓を足で蹴りぬこうとしたときだった。
「トラヴィス!?何をしているんだ、ライザーから足を退けなさい!」
「ああっ、ライザー!こんなに怪我をして……」
ユーベルーナに呼ばれ、幽閉場所にかけつけたフェニックス卿ことトワイライト・フェニックスとその妻のフェニックス夫人ことルナ・フェニックスだった。ルナは母親の声を聞き、「は…ははうえ…」と漏らしたライザーに駆け寄りすすり泣き、フェニックス卿に至っては次男が三男を甚振ったことを信じられずに居た。
トワイライトはトラヴィスの『夢』を知っていたが、ライザーがトラヴィスの夢を馬鹿にし、まさか写真を爆発させただけでタコ殴りにした事実を見ていなかったこともある。
「トラヴィス!来なさい!」
「ち、父上!?ラ、ライザーが……!」
「言い訳は聞かないぞ、トラヴィス=アウル!それと、お前に父と呼ばれる筋合いはない!」
「……ッ!?」
フェニックス卿はトラヴィスの腕を掴んで、次男を引き摺りながら言い分を簡単に切り捨てた。ショックな出来事ゆえ、口にした一言はトラヴィスの