「……以上がお前と俺の異能についての解説だ」
下校時間と言うこともあり、まだ人気の少ない公園でベンチで間隔を空けて座りながら、うつろは一誠に対してスタンドについてのレクチャーを行なった。ふと、一誠が自らのスタンドを眺めてみれば一誠のスタンドは腕組みをして本体の一誠を見据えているだけで何も語らない。うつろの『イン・マイ・ワールド』と拳をかわした事でストレスを発散できたんだろうか?
「ちょっと待ってくれよ、先生!着いていけねえよ、どうすりゃあいんだよ!?俺はこれから。説明を受けたところで俺はどうすればいいんだ!」
「甘ったれんなよ。お前の正しい道を行け。ちとお前のスタンドは暴れん坊らしいんでな、ひょっとすると俺のスタンドよりもパワーだけでなら勝っているかもしれねえ。俺のスタンド能力も似たもんだが、お前のスタンドもまた謎が多い。下手に手出しをするわけにはいかんよ」
一誠の疑問は最もだが、うつろの返答も一誠には思うところがあった。今でこそ、一誠のスタンドは大人しくなっているものの、『いつまで大人しくさせられるか』は『悪霊』と断じていた一誠には難しい。実に無責任な言葉、一誠はうつろに食いかかるか胸倉を掴まんとする勢いで迫るが、『掴み難い』気配はその判断すら鈍らせた。
「……い」
「ん?」
「教えてください!制御の仕方を!」
今、一誠が出来ること。
それは自分が『悪霊』と呼んでいた、うつろがスタンドと呼ぶ異能を制御する術を覚えることだ。
無知は恥じることではない、これから知っていけばいい。そして、無羽うつろは教師で己の担任の先生だ。
言っていたではないか、『分からない所があれば聞きに来い』とうつろ自身が。『いつ』能力が発現して、『いつ』能力が消えるか定かではない。うつろがあの歳で使いこなせているならば、自分にも出来るはずだ。
彼が本当に俺達生徒を思ってくれているならば、教えてくれる。
一誠は大きな賭けに出た。『イン・マイ・ワールド』のパワーは確かに自身のスタンドと比べ、同等か少し下かもしれないが、そのスピードは強大なパワーを誇る一誠のスタンドに勝る。
例えるならば、格ゲーにおいて初心者に制御不能なキャラクターをプレイヤーキャラとして使わせ、熟練の格ゲープレイヤーと戦うようなものだ。
無羽うつろには、機嫌を損ねてはいけない『なにか』がある。それが潜んでいる分、恐怖すら感じられる。
「構わないが、まずはお前の認識を改めろ。そいつは兵藤の表現の仕方では、『悪霊』とカテゴリが同じにしてはならねえ。そいつはお前の心の顕れと捉えていい。精神エネルギーが形を成し、お前の前に現れた存在だ。見知らぬ化け物ってわけじゃあないだろう?『スタンド』がよォ」
「やるならちゃっちゃとやるぞ。テメェの為だ、いいな?」
「は、はい!」
うつろの返事は一誠が予想していたよりも優しく、好印象な物だった。少なくとも居眠りをしている一誠に対して出席簿の角で叩かずにクリアファイルの角で叩くほどには厳しい教師だが、やはり彼の授業後の言葉に偽りはないようだ。
『わからねえことがあったら聞きに来い』
未知の力の使い方が分からず、その扱いに戸惑っていたところにうつろのようなスタンド使いの存在は大きかった。身近に頼れる大人であった、というのが第一の理由だろうし、仮に一誠のスタンドが暴走したところでうつろの『イン・マイ・ワールド』のパワーならば、不意打ちであれば自身のスタンドを押さえつけてくれるだろう、との安心感もある。その後、すぐに一誠がうつろに引き摺られるようにして『修行』の為にうつろ宅に連行されて行ったのはまた別のお話。
※※※
超常現象研究会ーー
あの事件の後に魔王の妹のリアス・グレモリーの『戦車』となり、その眷族となって学生生活を営む塔城白音は、最近よく読み返しているものがある。それは幼少期に姉と自分を助けてくれた少年を探しに行く、との旨が書かれた姉からの手紙で姉と少年が帰ってくることを信じて大切に保管していたものだが、最近はよく手紙を便箋から取り出して読み返している。フレームだけになった眼鏡と共に保存していて、白音にとってはとっても大切なものだ。
『 私の可愛い妹へ
一緒にこれから過ごせるかもしれない、と期待させたのに居なくなってごめんなさいにゃん。
理由は白音を助けてくれた、あのトラちゃんって子を私が探しに行くからです。
私から見れば、トラちゃんーートラヴィスって子は白音のような可愛い弟と言っても過言ではないように思えます。なんにも関係がそれまでなかったはずなのに、助けてくれたのにお礼が返せそうにないからです。
一緒に安全に暮らせる場所を見つけた、と思っていたけど、あいつが白音を無理矢理悪魔にしようとしていたところにまるで王子様のように現れた彼のことは覚えてるにゃん?あのときまでの白音はどこか空虚な様子で元気がなくてお姉ちゃんは心配でした。ヴァーリって子とも一緒に探しに行くから、またトラちゃん見つけたら、帰ってくるから待っててね?
勝手なおねえちゃんでごめんなさい、お姉ちゃんより』
「本当に勝手な姉で困ります。ミカンソース美味しかったなぁ」
紙とペンはあのとき、屋敷から拝借してきたものだろう、当時の自分達姉妹にとっては手の届かないものであったはずだ。雨露を凌げる場所があったからマシ、と思えば良いんだろうが、自分の非力さゆえに姉に手を焼かせ、あまつさえ、あのときに自分に優しくしてくれた少年の行方さえ不明だ。
自分が弱いから、周囲に迷惑をかけてしまう。
それが白音にとっては大きく重荷となってのしかかる。ぎゅ、と両手で包み込み、その控えめな胸元に当てられる、眼鏡の形をしていたもの。最悪の場合、これが遺品となるんだろうが、不思議と少年が生きているような気がした。
「あら?白音ちゃん、どうしたんですの?」
一人の超常現象研究会の部室に同時に訪れたのは、部長のリアスと副部長の姫島朱乃だった。咄嗟に白音は眼鏡と手紙を隠すが、きっと彼女には見つからなかったろう、と願って平静を装って備え付けの菓子を頬張る。
超常現象研究会、との名称は朱乃が思いついたものだ。幼少の頃に二年の木場祐斗らの学年のクラスの担任をしているという、無羽うつろに助けられた時に印象が強かったらしく、部の名称を生徒会に申請する時にもめたときにこれを提案した。他にオカルト研究部だとか案はあったのだが、部長のリアスの兄・サーゼクスからも何処からか耳に入れたのか、強く超常現象研究会の名前を推された。
やはり、魔王と言う役職についていながらも、人間界にある特撮ヒーローを好む彼としては宇宙人の存在だとかをひっくるめ、超常現象とするのはロマンがあるんだろう。
かくいう自分達は人間から見れば、宇宙人と同じオカルトだが。
「やめてあげなさい、朱乃。貴女が無羽先生を慕うように、白音にも色々あるのよ、多分」
「あら?リアス。うつろと私は糸で結ばれているの。想うのは当然でしょう?家から彼の家まで近いのもまた運命なの」
「はいはい、分かった分かった。祐斗が来たら、ミーティングをはじめましょう」
「では、それまでに私もいつものことをしておきましょうか」
超常現象研究会の部室には壁の一部に朱乃が隠し撮りしたうつろの写真がビッシリーーなはずはなく、『表向きの活動』としてそれらしい魔方陣が中央にあり、壁には髑髏が吊り下げられていたり、典型的な宇宙人のイメージとして用いられる、グレイの骨格があったりするが、リアス用の席として肘掛け椅子があったりと普通の部活動としての面と悪魔としての仕事を事情を知るものには感じさせる備品があったりとなかなか掴みにくいものとなっている。
朱乃がリアスと白音に紅茶を淹れ、そして自分のも最後に淹れてから『うつろコレクション』とやらを眺めはじめた。幼少からの知己とはいえ、写真を盗撮するのはどうだろう、と白音は考えるがよくよく考えれば白音もまた眼鏡の残骸を御守代わりに持っているから、同じようなものだ。
(また逢いたいなぁ)
小さな白い少女の想いは誰にも届かず、新しい主の下で姉と同じ力を振るうのを彼等のために使うと決め、あの少年との再会を望む。前とは違う、紅い少女の下で人並みの生活が出来る恩返しとして理想を叶えるのを望み。
※※※
~???~
おかしい、これは計画と違う。
本来の予定ならば人間に擬態し、神器持ちのアイツを騙まし討ちにするはずだった。一緒に居る金髪の男には隙がないし、あの人間からはただの一般人だって言うのに素人離れした威圧感がある。
なんで私の思い通りにならない!?
……そうだ、狙いを変えればいいんだ。
あのガキの方じゃなくて、金髪の眼鏡の方に。少しゴロツキで口が悪いけど、よく見れば可愛らしいじゃない。
適当に誘ってやればホイホイついてくるでしょうしね。
名前は、『無羽うつろ』だっけか。家が駄菓子屋だけど、教師がそんなことしていいのかしら?
さて、計画移行の準備をしなきゃね。
※※※
「MERAAAAA!」
「らぁぁぁぁぁぁぁ!」
一誠の赤いスタンド、うつろの『イン・マイ・ワールド』が互いの拳を打ち合い、連続して行なわれる突きはやがて
「もういいだろう、お前のスタンドを直せ。出し方が分かったならば、戻し方も分かるはずだ。肝心なのは、」
「スタンドが使えて『当然』と思えること、ッスよね?しかし、吃驚しましたよ。先生のスタンドが巨大化した時は。俺も慣れれば出来るのわかったのは度肝を抜かされました」
「使うんなら切り札にしておけよ?お前のスタンドパワーなら、能力はよく分からんが、感情の起伏次第では巨大化させたまま、殴る威力も上がるだろうさ」
どうやら、一誠は典型的な『考えるよりも身体を動かす』タイプのようだ。実際、行動に移せば早いし、現に一度自分で決めたことは最後までやり通す、という意思の強さを持っている。一度、目の前で見せて体験させれば、吸収も早いようでスタンドを巨大化させすぎたときは如何せんはしゃぎ過ぎだ。スタンド使いをビビらせるには丁度いいが、何も見えない一般人にとってはイタい人にしか見えないだろう。
「……?どうした、さっさと帰らないのか?腹も減っているだろうに」
「いや、先生が奢ってくれるのかなと」
「ふざけるな、俺に一度でも勝てたら考えてやろう」
「ええー?……ありがとうございました、先生」
突っ立って何かを期待しているらしい、ルーキー・スタンド使いを一喝すると、若きスタンド使いはすっとぼけた顔でさも当然のように食事を奢ってくれるんじゃないか、と期待していたのを明かした。誰がお前に奢ってやるものか、とその背中を押して返そうとすれば、紅いスタンドを従えた生徒は武人のような綺麗な動作で頭を下げた。それにはうつろも不意をつかれるが、生徒の意外な一面を発見できたことで、
「来たけりゃあ、また来い。テメェの味方だからよ、麦茶くらいは出してやろう」
「食事はいつ出してくれるんスかねぇ……」
「帰れ」
うれしかったのは秘密だ。
なかなか砕けたやり取りの後、店の前まで送って千切れんばかりに手を振る生徒にひらりひらりと振り返してやり、踵を返して腕時計の時間を確認すると、そろそろ神社の家の少女が家に来る時間だ。
「……変なヤツに懐かれたものだ」
面倒くさそうに金髪をかきあげるが、そういうのも悪くない、と言わんばかりに口元は笑っていた。
数秒後、自宅の中にうつろが入ろうとしたところで幼少から家にやってくる少女が満面の笑みで背後に立っているのに気がつくだろう。そんな少女の行動にさえ、溜息をついて少女の母親が作る夕食入りのタッパーを受け取るのだから、うつろもまた『御人好し』なんだろう。
まさか、あの青年もまた自分と『同じ』になるとは知らずに。
ーー帰路
先生の家を出てから、俺は母さんに連絡した。先生がなにもくれなかった為に(これはジョーク)、俺が腹をすかせているんだ、と主張したい所であるけれど、確かに先生の言うとおりに俺のスタンドはパワーは強いし、スピードも速いし、そして精密動作性も高い、と評価が高いが、まだまだ俺の能力は未熟だ。
先生のスタンド、『イン・マイ・ワールド』はホークアイってヤツかも知れないけど、とっても視力が良い。なんでも、スタンドには射程範囲があるらしく、俺と先生のスタンドはこれに分類されるらしい。最も、先生のスタンドのタイプは未だに分からないことが多く、カテゴリのために使っている呼称らしいし、そもそも俺と先生以外にスタンド使いは知らないらしいのだ。それなのにカテゴリだとか、スタンドの制御の仕方だとかを研究しているあたり、やっぱり先生は凄い。
俺も先生のようにスタンドを上手く使いこなして、大事なものを護れるようになりたい。
「少し尋ねたいのだが」
「はい?」
俺に話しかけてきた人は、スーツを着こなした男のようだった。明らかに怪しいとわかる。男の背中には生えていたのだ、大きなカラスの羽のような漆黒の翼が。ただ、道を尋ねるのではないのは本能から理解できた。時刻は午後七時三十分、まだ初夏もいいところで春といってもいい気温だ。
そんな時間に道を尋ねられること自体はおかしくないんだろうが、明らかに様子がおかしい。翼にいたっては本物同然でまるで『身体の一部』のようだ。モンスター娘の漫画ならば俺も持っているけれど、あれと同じように生々しさがある。まるで羽毛布団のようにふわふわしているんだろうなぁ、と思いたいところであるが、男の翼は正直触りたくない。
「死ね」
「無慈悲にも程があるだろ!?」
男が構えたのは光の槍だった。おもむろに俺の腹を突き刺さんばかりに振りかざされ、そして俺の腹を貫くーーと思わせたときには遅い。
紅い手が、光の槍を掴んでいた。
先生の『イン・マイ・ワールド』のラッシュの速度に比べれば、大したことはない、受け止めるには十分な速さだ。まだ名も無き相棒、助かったぜ。
「ば、馬鹿な!?ただの人間がこの槍を止めただと!?」
やっぱり、この不審者にも見えなかったようだ。先生の言葉を借りるならば、スタンドはスタンド使いにしか見えない。この法則に乗っ取ると、あの触ればヤバそうな光の槍を紅い手が受け止めたようには見えず、俺が掴んだように見えるんだろう。
『フン、所詮は堕天使か。おい、ボケーッとしてるんじゃあないぜ?こんなヤツに負けるのは許されたことじゃない』
「え?喋ったぁぁぁ~ッ!?」
「クッ、報告しなくてはならんな……!どうした、貴様!行かぬならばこちらから行くぞ!」
俺のスタンドが喋った!?マテマテ、お前、喋れるのかよ!?落ち着け、落ち着け俺!喋れるんなら、最初からそう言ってくれよ、
堕天使とやらは、この男を指しているんだろう。やけになって両手に光の槍を構えだしてんだけど、どうするんだよ!今の様子だとコイツ肩で息してるし、ヤケクソになって道連れもありえるぞ!?
光の槍は振動しているのか、電動チェーンソーのようにwin-winと音を鳴らしている!ええい、頼んだ紅さん!
『仕方のないヤツだ。ハァ、久々に身体を得たと思えば、認識できるのは金髪の悪魔の坊主と自覚のないヤツだけか。こいつが今代の宿主、信じられん』
「な……ッ!?このドーナシーク、一介の人間にやられるだと!?」
サラッととんでもないことを言っているようだが、質問は後にして紅さん強ェ~ッ!?紅さんはドーナシークとやらを掴み、徐々に肥大化して行く。それはさっき、先生が修行の中で見せてくれたスタンドヴィジョンを巨大化させるものに似ており、紅さんに至っては俺の意思と無関係に肥大化して紅い片手でドーナシークの胴体を掴んでいる。もちろん、ドーナシークには見えておらず、あいつの視点からでは俺が「わけわからん術」を使っているようにしか見えないんだろう。骨が砕け、肉が裂ける音がする。普通の家庭で育った俺としては、スタンドに目覚めるまでの間、ただの高校生だった。紅さんがそのまま、俺の意思を問わずに頭からバリバリと貪っているのは――なんだかシュールだった。
呼吸が辛いが……。
『フゥーッ、この身体で食えるかはさておきだが、久々に幽体とはいえ肉体とはいいものだな。すっかり変わってしまったんだろう?世の中は。……しまった、おい、生きてるか!?しっかりしろ!』
紅さんが、視界が暗転していく俺に付き添って呼びかけてくれる。あの槍で串刺しになって殺されるよりはマシだけど、先生も言っていたじゃないか、スタンドは自分自身、出来て当然と思えって。
まだ、先生に一打ちも入れてないってのに・・・・・・。
番外編では、家を飛び出したトラヴィスを諸事情あって家を出たグレイフィアさんが拾ってくれる、ってストーリーを妄想しました。
こっちのトラヴィスの右手にはまさかの幻想殺し入り……は、無理そうなので回復に優れた体質となっております。
魔力を帯びて物理で殴る男!……言うと思った?
【悲報】一誠のスタンドが自動操縦タイプで、その正体【まさかの】