そんな精神をモットーに筐体にコインを入れる
「兵藤!」
『ああ、アンタは相棒の教師だっけか?』
「そんなところだ。会話の出来るタイプのスタンドか、意思があるというと堕天使を倒したのにも納得がいく」
『俺が倒せないはずがないだろう、堕天使ごときを。……俺を見てもなんとも思わないのか?不死鳥の小僧』
紅いスタンドは腕組みをし、実に尊大な態度で接してくる。うつろの『イン・マイ・ワールド』がパワーでこの紅いスタンドに押し負けた理由がなんとなくわかるような気がした。この紅いスタンド、意思を持つほかに自分で行動し、こうして自らの意思を示すことが出来る。やけに懐かしいような感覚がするのを不思議に思うのと同時、紅いスタンドは自らのその存在に慄かない反応を見せる金髪の
「フシチョウ?不思議な事を言うな、俺は確かに悪魔らしいが不死鳥であるかは別だろう。それに聞いたことないがな」
『……なら構わんが。早くソイツの家に連れ帰った方がいいんじゃないか?』
「そうさせてもらおう」
紅のスタンドがここまで舌が回るとは予想外だったが、その間に違和感を感じた。まるで何かを知り、諦めているようだったが、それ以上何も言うことはなかった。本体の一誠はまだまだ子供っぽいところがある反面、スタンドの方がバランスを取るために大人びた意思を見せているんだろうか?
自身の『イン・マイ・ワールド』もその例に乗っ取るならば、意思を持って動き始めたら正反対の性格を披露してくれるんだろう、と予想してみるものの、ぶっきらぼうなゴロツキ気質の正反対がスタンドの意思として現れたところを想像してみると……違和感が出て吐きそうになった。その後はこの辺りの管轄を勤めている、リアスに電話をかけ、一応の報告を済ませておいた。発見したのは『素性不明の悪魔』でなく、グレモリー家の長女が発見したと。夜は確かに悪魔の活動時間に相応しいと言えようが、まだ学生と言う身であるため、声は眠たそうだった。
自分が指摘するかは明日考えるとして。
「……コイツを送るか」
紅いスタンドが一誠の中へと消え、自宅まで送ることに決めた。背中に背負って生徒を送る金髪教師、というのもなんとも酷い絵だが、この時間でもまだ兵藤夫妻が起きていたお陰で事情説明は手間取らなかったのが幸いか。送り届けた後は既に時計の針は深夜を回っており、明日のことを考えみれば早急に家に帰るべきだろう。
あの少女が起こしてくれるかもしれないが。
※
「結局数時間しか眠れなかった」
「おはようございます、うつろさん?」
二日酔いに似た吐き気を感じながら、うつろはベッドの上で目を覚ました。あのまま半分寝ぼけたままシャワーに入り、掛け布団もかけずに夢の世界に誘われたが、睡眠時間が足りない。徹夜明けと似通った経験は今までもあるものの、やはり朝はキツイ。毎朝起こしてくれる、この隣で微笑んでいる少女には感謝してもしきれないほどだ。数年以上、彼女はうつろが寝過ごさないように起こしにやってくる。一人暮らしの男の家に一人娘を毎朝来させてもいいのか、との疑問にははぐらかされるばかりだが。
「兵藤くんと何を話していたんですの?楽しそうに見えましたけど?」
「ああ、アイツが質問しにきたんでな。教えてやっていたんだよ。なんだ、見てたのか?」
「ええ♪いつも、うつろばかりを見ていますわ」
身を起こせば朱乃の顔が近づく。身長差はあるものの、それはあくまで立ち上がったときの話だ。
ただ身を起こしただけでは女子にしては高身長の彼女より低く、中腰になった彼女よりも低いほどだ。一誠と会話している様子を見られていると知らない、うつろはあくまでその程度の認識だった。
ダイニングからは朱乃の母親直伝の味噌汁の良い香りがしており、こんなに家庭的なんだから良い人が見つかるのを兄のような存在として願うばかりだ。歯の浮きそうな台詞に教師をからかうなよ、と苦笑いしながら優しく額を指で弾き、ベッドから降りた。
「ほら、用意するから部屋を出ろ」
「分かってます、毎日のことだもの。……リアスから聞いたんですけど、兵藤くんを助けたんですか?」
「……いや、拾っただけだ。俺はなんにもしてねえよ、アイツが自分でしたことだ」
「彼、ただの人間ですよね?そんな事が出来る力を持っているというの?」
朱乃を部屋から追い出し、薄い障子で閉ざされた向こうで朱乃は白飯を茶碗に装いながら、昨夜に起きた出来事を問いただす。深夜に来たリアスからのメールによれば、詳しくはうつろに近しい朱乃が先に聞いて欲しい、とのことだそう。プライベートでは友人のリアスと朱乃、サーゼクスの直属の部下と言う立場を表向きには与えられているものの、正しくはうつろはリアスの『切り札』とされている。未知の力を振るい、猛威たる退魔の名家の姫島一族の追っ手を蹴散らした腕を買われ、生活を保障するとの条件で。
付き合いの長さは朱乃が上であること、朱乃に対してうつろが甘いことからリアスは朱乃から聞くように促したのだ。
「詳しくは放課後に話そう。今は待て」
「ええ。……ねぇ、にーさまは兵藤くんをどうするの?」
「いきなりどうした、朱乃」
ワイシャツにネクタイを締め、スラックスを履いた後、障子を開ければ幼少のときの呼称で呼ばれ、障子の縁に手をかけながら、うつろの動きは止まる。朱乃はリアスから聞いていることであるが、うつろがリアスの兄のプライベートの私兵としての役割を果たすのは、それなりの身分を持つこと、力を持つことを推測しているとのことだそうだ。リアスのような上級悪魔の気配を持ちながらも、後輩の木場祐斗、塔城白音、そして朱乃自身のような眷属を持っていない。
悪魔は皆、純血悪魔のその数の少なさを補うべく、下僕として転生させた悪魔を持つのが普通と言うが、今日に至るまでうつろが眷属を持っているようには見えなかった。
朱乃のこの質問は一誠を事の流れ次第では眷属とするのか、と言った含みも込められていた。
「それはアイツ次第だろう。俺がどうこう言う問題じゃない。選ぶのはアイツだからな。なるもならないも。お前は何も言うんじゃねえぞ?いいな?」
「ええ、分かりました」
言葉を濁し、うつろの真意はハッキリしない。長く時間を過ごしているからこそ、悩みを共有したいと思う朱乃の願いは届かなかったが、うつろはうつろだった。洗面台に向かった金髪の青年の後姿はいつまでも変わらない光景だったものの、数年と言う年月は互いの心境に変化を及ぼした。
同じ悪魔となったはいいものの、自分がグレモリーの令嬢の眷属、うつろ自身は身元不明の悪魔とあれば、いつ離れるか分からない。
それが朱乃には耐えられなかった。
※
昼休み。
昨夜に起きた、出来事を思い返してみても、あの攻撃を受けても死なず、こうして今を生きているのは紅いスタンドのお陰だろう。名前は知らないものの、周囲が見えないのを活かし、紅い腕を出してみると、頑丈そうな篭手に包まれた腕は確かにあの浄化の力を受け止め、直接的な被害を受けずに済んだ。それにあの風貌と意思、やはり強力なスタンドだろう。
「おい、兵藤。ちょっと放課後に俺のところに来い」
「兵藤!?うつろんに何をしたの!?」
昼食の時間と言うこともあり、食堂で買ってきた菓子パンを取り出したところで教室の扉が開いた。
不機嫌そうな、うつろの声と口調もあって村山が食って掛かる。※ただしイケメンに限る、を実感しながらも、また別の金髪が顔を出した。
「やぁ、兵藤くんはいるかい?……あれ?無羽先生」
「木場か」
木場祐斗だった。
学園が誇るイケメンと噂され、何気にうつろを除けば染色した髪以外では地毛としての金髪は木場くらいだろう。うつろとタイミングが被ったことによって、気まずそうな木場だったが、うつろは暫く木場を一瞥した後、すぐに踵を返して歩き出した。タイミングが被ったとはいえ、なんとなく同じ用件である気がしたのか、良い気がしなかったのだ。
「ちょ、無羽先生!?」
「えーっと、リアス・グレモリー先輩の使いできたんだけど、放課後空いてるかな?たぶん、無羽先生も同じ用件だと思う」
「同じ用件?」
一誠と木場のツーショット、そしてゲリラで突然、教室に現れたうつろに狂喜するクラス、自分に向けられる軽蔑の視線を振り払い、溜息をつけば木場は気まずそうに苦笑いしていた。最も、苦笑いと言うにはあまりにも爽やかで校内で強い人気を誇っているのが感じられる。珍しく、松田と元浜が声を揃えてイケメン死ね!有罪!ギルティコールを声を揃えて叫んでいる。うつろがいれば二人に鉄拳制裁を下すんだろうが、今はうつろはいない。鬼の居ぬ間に洗濯とは言ったもので、ツッコミ不在がいかに辛いかを考えるだけで胃が凭れてきた。
「詳しくは放課後でいいかな?」
「まぁ、いいけどさ」
『この金髪もまた悪魔か。力としては転生悪魔、と言ったところなんだろうな』
スッ、と一誠の身体から飛び出るようにして顕れた紅いスタンドは木場の実力をぼかして表現した所から、おそらく人間とは別の存在なんだろう、と分かった。悪魔と言えば、角と翼と逆三角形の先端がある尾があるイメージが先行するが、その特徴が見当たらない。スタンドの存在を感じ得ないことから、木場はスタンドを持っていないのだろう。
こうして昼休みは過ぎていく。
放課後。
うつろが超常現象研究会に訪れたとき、リアス・グレモリー眷属が揃っていた。悪魔の駒をついでに持ってきてはいるものの、面々は真剣な面持ちのようだ。一誠の能力についての説明を求められるが、
大方はリアスがサーゼクスから聞いているだろうが、木場や白音はまだ知らないこともあり、そうした面々へ向けられた説明である。
「実際にはみたほうが早い、と言うべきだろうが、スタンド使いじゃない奴には見えないからな」
「では、先生は視認できるんですか?」
「そういうことになる。神器も異能だが、スタンド能力もまた異能だ。ヴィジョン自体が見えないから、スタンド使いじゃないヤツと戦うには大きなアドバンテージだ」
「それで兵藤くん、いえ、イッセーと呼ばせてもらうわ。……私の眷属にならない?超常現象研究会は貴方を歓迎するわ」
「はぁ、別に構いませんが。悪魔、ですか?」
そのヴィジョンを同じ能力者同士でないと視認できないという、戦闘におけるアドバンテージを聞き木場と白音が考え込む中、リアスは本題を切り出した。未だに悪魔と言うものがわからない一誠を前にリアスが黒翼を開けば、そのほかの眷属もまたそれに倣って翼を出す。一方でうつろが翼を出さないのが気がかりであるが。
「それは、翼?」
「ええ。此処にいる無羽うつろも含め、私たち超常現象研究会は悪魔なの。その希少価値のある能力をイッセー、貴方は持っている。グレモリー家での保護を行なうという名目もあるけど、悪魔にならない?」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ!?グレモリー先輩達が悪魔ってことは分かりました、じゃあ、先生には眷属はいないんですか!?」
『……ほう、鋭いところもあるのだな』
一誠にとっては疑問だった。
姫島朱乃、木場祐斗、塔城白音の三人がリアス・グレモリーの眷属であると言うならば、悪魔には眷属がいるというならば、何故、無羽うつろにはいないのか?そしてうつろが此処に同席している理由だ。悪魔であるというならば、どうして眷属を連れていないのか、この場に居るのか。
「そ、それは……」
「もういい、リアス嬢。後は俺が話そう。兵藤、いい質問だ。俺にはお前が言うように眷属がいないし、ここに居る理由は塔城にも木場にも分からないだろう。呼び出しを食らったのは、路上で寝てた兵藤を保護したからに過ぎない。一応、選択肢は出しておこう。リアス嬢を選べば、グレモリー家がお前の身分を護ってくれるだろう。珍しい異能のようだからな、各悪魔が五月蝿いだろうし。だが、俺を選べば、悪魔の世界ってのでは知られないくらい『無銘』だが、お前にスタンド能力の制御の仕方を教えられる。最後の選択肢は……、お前が人間であるのを貫くことだ。テメェが人間で居たい、ってんなら、全力で護ろう。教師としてな」
「……以上だ。学生同士ってのを踏まえれば、グレモリー眷属はやりやすいかもしれないな。誰もお前の選択に怒りやしないさ」
言いたいことだけを言うと、うつろはそさくさと帰ってしまった。しかし、これはあくまでうつろの選択肢の出し方である。開けっ放しにされた旧校舎の部室の扉、その後をついていくならばついてこい、との意思の表れでグレモリー眷属となるならば、そこに残れとの意味だろうか。グレモリー眷属が見守る中、一誠は選択を決めた。
「俺、無羽先生のところに行きます」
「……よくよく考えた上での結論?別にあんなことを言ったからって、気に負う必要はないのよ?」
「違いますよ、グレモリー先輩。俺には目標がある。無羽先生のように自分の力を使いこなして、超えたいんです。こんなことを言うのはなんですけど、また何かあったら来ていいですか?」
一誠の視線はひたむきで真っ直ぐだった。
無羽うつろを超えたいという思い、力を使いこなしたいという想いはこの場に居る誰もに共通していたが、悪魔となるのをあくまで強くなる手段とし捉え、他にはまるで欲望を感じられない。ただ、祖の目には漆黒の意思が宿り、目的の為にはどんな方法も辞さないと言ったようだ。
「……ええ、同じ悪魔として仲良くしましょう。私は残念だけれどね、貴方を迎えられなくて」
悪魔となる誘いを断るつもりならば、説得するのも辞さないつもりだが、押しの強さには抗えなかった。微笑んで手を差し伸べれば、一誠と硬い握手を交わす。その後、開いた扉に向かって一誠が駆けていけば、その日、兵藤一誠はスタンド使いの悪魔の
その瞳に黒い炎を讃えて。
イッセーがエロくない、だと……!?
べ、別にサブタイは誰が上手いことを言えとを待ったわけじゃないんだからね!?