【完結】翼無き不死鳥は陽を見るか   作:ふくつのこころ

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銀髪義妹の正妻感


InOurWorld

   「トラ、ヴィス…?」

       

       最初に口を開いたのは、白音だった。

礼を述べたい相手が、会いたかった男がここにいる。どれほどの間、探していただろうか?姉が探しに行った相手は日常に存在し、最近では距離はこんなに近いところにいたのだ。何回か姉と一緒にいられない理由として恨んだことはあるが、こうして気に食わない金髪の男に明かされるのはいただけないが、それを除けば驚愕しか残らない。

       兄として慕っていると言うのに、朱乃やアーシア、一誠に奪われるのが嫌だった。容姿の整っているバイサーの眷族加入もあり、このまま手の届かないところに消えてしまうんじゃないか、との危機感が白音にはある。

 

「見知らぬってわけじゃあないけどよ、せめて今は無羽先生って呼んでくれ。こんな奴と同族は嫌だ」

 

「無羽先生、ライザーと知り合いなの?」

 

「そいつはとんでもねぇ冗談だ、リアス嬢。俺の生徒にホストはいねぇし、強いて名前を上げるとするなら…馬鹿と優しい奴しかいねぇな。…なんだ?このボンボンと同じような顔で驚いたか?大人しく褒められてろ、それが学生とガキの特権さ」

 

     白音の恐る恐る尋ねられる問いには手で制し、リアスの訝しむ表情を手をひらひらさせて誤魔化した後、ほとんど名指しで唖然とうつろを見つめる一誠とアーシアの方へと向き直った。

     褒められる為、認めてもらいたいと言う願いの為、深層意識のうちに勤勉になっていた男の言葉には花よ蝶よ、と与えられて育ったリアスやライザーには推し量れないところがある。持つ者と持たざる者、極端かつ対照的な両者は少なくとも他人を理解しようとするリアスの方に軍配が上がることだろう。いつになく優しげな、うつろの瞳に寂しさを見出した学生組のうつろの眷族たちはシャツの裾を引き、バイサーに至ってはうつろの腰に手を回している。

 

「…ライザー、貴方の話は本当なの?無羽先生と家族、ってのは」

 

「フン、こんな奴が一族の一員だったとは認めたくないがね。まぁ、お似合いだろうさ、その格好や仕事が落ちこぼれのクソ野郎には。どうせ、その眷族も貧弱なのだろう?良い家系で生まれ、才能に満ち溢れているオレとリアスには分相応の眷族に恵まれているのはわかっていることだ。リアスが言うことを聞かないようなら、眷族を焼き払ってでも連れて帰るつもりだったが、気が変わった。灰被り、お前の眷族を殺してやろう」

 

   いつから現れていたのか、ライザーのすぐ傍には忘れもしないライザー眷族の一人ーーユーベルーナの姿がある。ライザーが手をかざすと、ずらりと人影の一団が集結する。横目でリアスの様子を伺うにレーティングゲームとやらのフルメンバーのようだ。アーシアがシャツの裾を握る手が強くなり、スタンドの明確なヴィジョンとパワーの振り子が傾く。

    アーシアは怒っている。

無羽うつろ、兵藤一誠の男性スタンド使いにとってアーシアの怒りはなによりも避けて通りたいものと言えよう。その優しさには裏がある、と言うよりも激しい闘争心が忍んでいる。

    サーゼクスによって、うつろが頼み込んだことで学校に通うことができており、その中でも家族として接してくれている兵藤夫妻や一誠は大切な存在で無羽うつろは兄のような存在であり、恩師だ。

    レイナーレ戦で垣間見せたように、アーシアは大切なものを傷つけられるのをなによりも嫌う。激しい怒りの中でパワーアップが瞬時に行われた、あの『クレイジー・ダイヤモンド』の状態を見てもらえればわかるだろう。

    最も今回、一番怒りを露わにしているのはアーシアではなかったが。

 

「ほう、どうやって増やしたんだ?種馬野郎。眷族に金を費やすのは大変だったろう?金で貢いでかき集めて来たのか?」

 

「き、貴様…!」

 

「意味は同じだろうが?兵藤もアルジェントはまだまだ成長できるし、リアス嬢の強化案も既にできている。俺の『生徒』を焼き払えると言ったな?お前には二度と生意気な口を聞けないようにしてやろう。そして泣いて乞うがいい」

 

    ライザー・フェニックス眷族を一瞥し、心配そうな朱乃に向けて不敵に笑って見せた。『イン・マイ・ワールド』は戦意をなくしていない。ライザーのスタンドに負けず劣らずの戦意が高揚としている様子。他のスタンドも同様で『ウェルシュ・コネクション』こと赤龍帝ドライグは不思議な感情を抱いていた。

 

「…強化案?」

 

「そう、強化案だ。リアス嬢は眷族だけに戦わせることのできないタイプだろう?かといって前線に出るってだけじゃあ意味がねえ」

 

「…で、にーさまはどうしたいの?」

 

「決まっている。焼き鳥野郎にレーティングゲームを申し込む」

 

    周囲に波紋が広がる。

    朱乃自身も親友に望まない結婚をさせるくらいならば、戦った方がマシだろう。しかし、相手は仮にも無敗のフェニックス、風の噂によるとレーティングゲームにおける敗北をしたことがなかったと言う。それにうつろにとっては家族のはずで幼少期に両親に見せていた、あの柔らかな面持ちは消えてしまったのかと。

    現魔王のサーゼクス・ルシファー(旧姓・グレモリー)とリアス・グレモリーの兄妹には母方のバアル家の血筋が持つ、滅びの魔力と呼ばれるものがある。成長すれば、その魔力で全てを消し飛ばせる力は強力でフェニックスを倒すのも容易であろう。

 

「誰がそれを許可するとーー「いいのではありませんか?」

 

「グレイフィア?」

 

「御機嫌よう、リアスお嬢様。大体のことはわかりました、うつろ。お嬢様を勝たせることが出来るんですか?」

 

「魔王様お墨付きの頭脳を持つ俺にそれを?愚問」

 

    魔法陣と共に現れた、銀髪の女性を一目見てリアスはその名を呼んだ。貞淑な佇まいに笑みを讃え、ゆっくりと無羽うつろとライザー・フェニックスの間へと歩み寄る。

木場と白音やライザー・フェニックス眷属は魔王の『女王』でもある、グレイフィアを前にしても堂々としているうつろは恐ろしさを感じる。

    一方で悪魔として過ごしてきた記憶の方が人間界での暮らしより、『少ない』うつろは魔王夫妻にとっては弟も同然だった。本人が悪魔としての自覚を得たのは堕天使と人間のハーフ、姫島朱乃と魔王夫妻にとっては妹であるリアスが幼かった頃のことだ。

   ちょうど、その二人が八歳くらいの年で無羽うつろは自分が悪魔であると知るものの、あくまでも本人にとっての認識は人間でしかなかった。

 

「貴方の頭脳を誰よりも魔王様は評価されているのですよ、うつろ。ライザー・フェニックス様、リアスお嬢様。レーティングゲームで決めると言うのはいかがでしょう?」

 

「(バイサーさん、レーティングゲームとはなんでしょうか?)」

 

「(この際だから、アーシアちゃんにも兵士の坊やにも教えてあげましょう)」

 

        ライザーが渋々と頷き、リアスもそれに了承する。ポケットに手を突っ込み壁にもたれる、うつろはフェニックス眷属に明確な敵意を示していた。雇い主でもあるらしいグレイフィアに評価されて心底嬉しさを隠せない様子がうかがえるが、敵意は完全に消失しないでいた。どうも、頭に血が上るとまわりが見えなくなるタイプであろう主の説明不足によって生まれた疑問にバイサーが気づき、フォローを入れる。

    レーティングゲームとは、冥界で流行っている競技である。それぞれが転生前に使われたチェスの駒を模した、自らの眷族とする悪魔の駒の能力次第で役割が変わり、チェスのように王を取られればゲームセットだ。

    下級悪魔が認められ出世する為の機会とされているが、転生悪魔に対する風当たりは強く、血縁至上主義なのは変わらない。例外としてバアル家の生まれでバアル家特有の滅びの魔力を持たず、その拳だけで勝ち上がって来た者としてサイラオーグという者がいる。

 

「(スゲェんだな、先生って。気迫と口だけでフェニックスを…)」

 

     他に添えられたバイサーによるライザーの戦績を教えられたことで思い当たることといえば、その物怖じしない度胸だろう。不可視の力による攻撃を持っている、とのことだが、おそらく無羽うつろ眷属の学生組と主のうつろの持つスタンド能力によるものだろう。魔力を使うことよりもスタンドに重きを置いている、うつろがそんなライザーのスタンドを発動させる前に吹っ飛ばした芸当もまた彼はこの言い方を嫌うだろうが、『身内だから』であろう。

 

「…だってよ、リアス嬢。当然、お強いフェニックス様様は時間をくださるんでしょうねぇ?」

 

「…チッ」

 

「お兄様、発言の方をお許しください。もしかして、貴方はトルヴィですの?」

 

「レイヴェル!……仕方あるまい、許可しよう」

 

    リアスらの方に視線を向ける金髪の眼鏡の悪魔の表情はあくまでも柔らかさと優しさが含まれているが、ライザーとの間にぶつかる視線はバチバチと火花がぶつかっていた。時間と言うのは、リアスに対して先ほど言っていた強化案のことだろう。実行するには相応の時間がかかると見るが、それでもフェニックスを下せるならば容易いと言える。

    フェニックス眷属の中をかき分け、その縦髪ロールを揺らしながら高価そうな服に身を包んだライザーと似た顔の少女がうつろの元へとやってくる。ライザーと同じような顔をしているだけあって吐き気を催し、手で口を抑える。初めての偽りの身分と邂逅はこうして再会を果たした。

    無垢な少女は目前の眼鏡の男がかつて屋敷の庭で出会ったあの少年と重なるものの、成長した彼が兄と分かり、一番下の兄とどうして戦わなければならないのだろうと。

    未熟で幼かった当時の自分を『レディ・レイヴェル』と呼んだトルヴィを忘れられず、その手を伸ばそうとするがーー。

 

「やめておけ、レイヴェル。そいつはオレ達を嫌悪し、オレや父上に母上もそいつを嫌っている。そこにいたら、危険だ」

 

「でもーーッ!?」

 

     レイヴェルが続けようとしたところでライザーの眷属の数人がレイヴェルの背中を押すようにしながら魔法陣へと向かうが、ライザーの女王・ユーベルーナがそれを許さない。フェニックス眷属に続き、グレイフィアが「それでは約束の時間に」と礼をし、後に続いて消えて行った。

    グレモリー眷属がうつろを見据える中、うつろは眷属を引き連れて超常現象研究会の部室から背を向けた。

 

 

「さて、何を入れたものか」

 

    別れ際に「合宿の日は迎えに行くわ!」と背中から聞こえる、通りの良い声によれば乗り気のようだ。そうであってもらわなければ困る、あくまで今回の件には手を貸すだけだから。解決するのはリアス自身、そのついでにライザーを殴る。それだけだ。

    自分の本当の名を呼ばれたとき、感動は湧き上がらなかった。

    本当に不思議なものだ、記憶を普通なら取り戻そうとするだろうに自分にはそれが見当たらないのだから。自宅の鍵を開けようとすると、背後から柔らかな感触と温もりを感じる。

    朱乃だろうか。

 

「…おにーちゃん」

 

「リリーか」

 

「…!おもいだして、くれたの?」

 

    声の主はバイサーと出会った際にうつろを兄のように慕い、懐いた銀髪少女の声。いつも通り、どこからともなく視線を感じるものの、リリーと無意識に呼んだ少女ごと家へと招き入れた。

 

「わからん。だが、お前が俺にとって眷属、そして朱乃がそうであるようにお前もまた大切な存在のようだ」

 

「…まだ思い出せてはないんだね?いいよ、私は待ってるから。どんな手を使ってでも、また一緒に暮らそうね」

 

「…その発想は嫌いじゃない」

 

 

「…ふふっ」

 

     荷物を詰め、最後の確認をし終えると高価そうなロケットを首から下げる。うつろの無愛想ながらにも気遣いを感じる様子を愛おしく思ったのか、リリーと呼ばれた少女ーーヴァーリは頬を緩ませた。

    記憶を失くしてしまおうとも、根っこの部分だけは変わらなかった。

   魂のありようだけは変わらなかった。

   身を寄せ合って短期ではあろうとも、暮らしていた二人は今でも惹かれあうところがあるようで健気に一途に慕ってくれる喜びは冥利に尽きる。

    この世で家族と言えるのは、眷属、姫島家、そしてーーこの少女だけだ。

   金髪の上級悪魔は知らない、アレは家族でない。

   だから、余裕と無慈悲をもってして戦いに臨むことが出来る。

 

 

    




リリーとは?(本日の元ネタ)
花言葉は無垢とか純粋。幼少期の朱乃がそうであったように、うつろにリリーと呼ばれるヴァーリは数少ない美しい記憶の一つで汚されたくないもの。記憶を取り戻すつもりは皆無に等しいが、本能から大切に思う少女の一人。もう一人は朱乃。
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