トワイライト・フェニックスは夢を見る。
それは幼き日の次男がまだ幼かった頃の夢で、当時は今とは考えられないほどに溺愛していた。
長男のルヴァルのような才能、というよりも頭脳を持って幼くして高く冥界に評価された論文を書き上げたことは記憶に新しい。空間展開についての物質作製におけるものを題材としたもので、当時、次男を誇りに思っていたのは隠せない。
それは妻のルナもまた同じこと。
家庭教師を任せていたフーグロスからも評価が高く、将来が楽しみであった。自ら、否、一族の体裁の為に次男に辛く当たっていたのは謝罪するべきかもしれない。三男のライザーは幼少から次男を穀潰しと呼び、良い印象を抱いてないようで少なくとも次男と三男の相性は最悪であろう。
長女で末っ子のレイヴェルが不肖の次男とすれ違いながらも顔を合わせていると知らない、由緒正しき一族の咎人の男は夢を見続ける。
『あんだろォ?てめーの本気はこんなもんじゃねェはずだ!まだまだやれるよなぁ!?』
『オェッ……、ゲフッ……』
夢の中で、次男はライザーにそっくりでありながらも鋭利な刃物のような印象を抱かせる雰囲気の男だった。元々、ライザーと似ているところがあるが、それ以上に凶悪で夢に登場する次男は金髪の前髪部分の一部のように紅い羽を一つだけ装飾とし、ワイシャツは前を開けて鍛え上げられた腹筋を惜しげもなく披露していた。足を組んで椅子に座り、侍らせているのは裸の眷属の女達。膝の上に座らせた彼女らを愛でるような手つきで腰を撫でながら、鳩尾を抑えているライザーはおそらく、手酷い攻撃を受けたんだろう。
『ライザーくぅんの眷属のコ、ちょうどいい数だから、ローテーションできるんだよな。アバズレのユービィはお前に返すけど、他の奴は貰ってくからよ』
『クソッ……!貴様、オレを舐めているのか!?リアスとの面会があるのを知っているんだろうに!』
『知らねえよ、ヒヨコ。僕は偉大なる一族サマのおかげで愉しく過ごすから、せいぜい働けよ。社交界のついては心配すんなよ?まだ狙ってるコいるから、その為にも僕は弟思いで家族を愛する兄やるから、お前もやれよ?兄思いで家の為に尽くす弟ってのをよ。ほらほら、早くしねぇとユービィも僕のものにするかもしれないなー?戦えて夜にも使える。便利なモン持ってるじゃねえか。それにヒヨコ、てめーだって僕の役に立っているみたいだな?こないだの会見で僕を目標としているとコメントしたらしいじゃないか?……目障りなんだよ、ヒヨコ風情が』
『ああッッ!!貴様だけは、貴様だけは許さないぞ!フェニックス家の為に灰と化せ!『レッド』ォォォォ!』
二番目の兄の言葉に沸点が到達したのか、ライザーは鳥を象った紅いスタンドを繰り出す。ライザーの身体から半透明な者が飛び出し、それが形を形成して尊大に座る兄に攻撃を仕掛けようとすれば、それを兄の虜となっていた自らの眷属が阻む。スピードと精密動作が効かなかったのか、眷属を傷つけてしまい、ライザーは悲嘆にくれる。眷属の名を叫び、膝を崩す弟を満足げに見下ろし、そこに隙を見出したライザーが自らのスタンドを兄に向けて攻撃を仕掛ける。
『『センチュリー・スキツォイドマン』……。僕に勝てるとの算段があってのことだな?奇襲をかけるってことは。おにいちゃんは不利益な事をする奴は嫌いだなぁ?完璧なものと、』
次男は膝に座らせている黒髪の眷属の女性の露わになった胸の谷間に凭れ掛かり、表情を歪ませる。
『センチュリー・スキツォイドマン』と呼ばれたスタンドはライザーのスタンドを受け止め、ギリギリと万力のように挟み、その手を離さない。生物の意匠を持つライザーのスタンドと違い、『センチュリー・スキツォイドマン』は無生物の意匠を持って無機質感を抱かせる。表情を伺えない顔と銀色の肉体に拘束具のようなベルト。大きな拳と肉体、何よりも黄金色でアルファベットの『T』と『A』が刻まれた、穴開き手袋。侍らせた女を何よりも愛おしく抱き、それでいてライザーには冷ややかな視線を送る。
『ああ、そうだ、ライザー。お前、レイヴェルを眷属にしているんだってな?聞いたよ、レイヴェルも迷惑していたようだ。屑、色ボケ、種馬、ケダモノ、下半身だけ発達している万年発情期……。お前の大嫌いな『俺』にだって、此処までポンポン浮かんで来るんだ。たくさんの言葉がな。そうだ、お前に良い贈り物をやろうか』
『センチュリー・スキツォイドマン』がライザーの『レッド』を吹き飛ばせば、ライザーも同様にフィードバックで飛ばされる。眷属と虜としたライザーの眷属を引き剥がし、頭部の色が鮮やかな紅へと眩いばかりの金髪から染まり、顔立ちはより美しく、それでいて狂気を孕むものへ。
ゆったりとした足取りで近づけば、次男の腕を伸ばす動作でスタンドの腕が伸び、ライザーのスタンドを能力を象徴したかのようなバッジへと変え、手中におさめる。
『『レッド』……。スタンド使いの肉体を一千万度以上の炎へと変える能力、肉弾戦におけるラッシュも可能、か』
『『センチュリー・スキツォイドマン』……。意識し触れた現象を固形へと変える能力……!異常者のき、貴様にはお似合いだな……!』
震える声のまま、兄の能力を解説するライザーと淡々と弟の能力を語る次男。ゆっくりと足を止め、ライザーの身体を愛情いっぱいに抱きとめる。突然の出来事に反応が追いつかないライザーは腕の中でもがき苦しむが、反抗すらも『帝王』は許さない。ボソボソと唱える詠唱によってみるみるうちにライザーの身体は丸みを帯び、フェニックスの一族の特徴と言える黄金色の髪を持つ女性へと変わる。兄と似たような服装の為か、豊かな実りが作り出す、その谷間は異性の目を引くだろう。
『かわいいかわいい、愛しのライザー。……いや、レイジェルか?』
瞳のハイライトは消え、人形も同然となったモノを、満足そうに愛の言葉を女へとなったレイジェルに囁く、黄金の暴君。実の弟すらも破壊し、その肢体を手中に収めれば、席に連れ帰り、膝の上に顎を置かせて愛でている。異様な光景に吐き気を催し、トワイライトは目を覚ます。
「名前通りに朝日とともに殺してやる、落ちこぼれめ」
そんな誓いを血族が秘める頃、遥か遠くのグレモリー家の別荘の割り当てられた部屋で無羽うつろは真夜中に目を覚ました。夜も更け、自らの眷属である一誠をグレモリー眷属の木場と白音と共にしごき、リアスの滅びの魔力に形を与える修行を行い、アーシアには戦意を会得させるために精神統一を行わせた。なんだかんだ言って推奨するメニューを懸命にこなす生徒たちに感謝を覚えつつ、夜風を浴びに一人、別荘の外へと扉を開けて赴く。
リアスからはフェニックス戦のフォーメーションを共に考えて欲しい、との依頼を受けるものの、「これから、俺がお前の全てを決めても良いのならな」と突っぱねた。うつろはあくまでも道を示すヒントを与えるだけで、なんでもかんでも教えるつもりはなかった。指し示すだけで決めるのは本人次第。
「……先生?」
「……兵藤、俺は同じ技は受け付けないぞ?」
「そ、そんなんじゃないんスよ!」
眠ったはずの一誠に呼ばれ、振り返ってみれば生徒の姿が。彼はアワワ、と否定はしてみるものの両腕だけ『ウェルシュ・コネクション』が顕われているので図星だったのだろう。寝間着姿の生徒はこうしてみれば、まだまだ少年の面持ちだ。幼さは抜けていない。
「じゃあ、なんだ?返答次第では、最終日までデスマッチで俺と戦ってもらうことになる。スタミナと根性はつくだろうな」
「……先生、茶化さないでください」
いつになく真面目な口調の一誠には普段の彼と、別荘に至るまでの階段を登る最中のやりとりを思い出してからかってみると、真剣な眼差しで一誠は見据えている。『虚ろ』となった今の自分には持ち合わせていない、真っ直ぐな瞳だ。
「なんだ」
「先生は、辛くないんスか?親と憎み合って」
言葉の端々に家族や兄弟を愛している様子が見られるリアス・グレモリー、自分を慕ってくれるアーシア、うつろを共に先生と呼ぶ木場と白音、そして、うつろを慕う姫島朱乃。彼らは共通して教師であり、主人である彼を頼って頼もしいと思っている。木場や白音、アーシアの家庭事情は知らないが(もちろん、他二人とバイサーも)、うつろは一族郎党憎んでいる節が見受けられる。
「分からん。村山や他の奴が言うように、俺は『うつろん』だそうだからな。何もないし、カラッポなんだろう。けどな、何にも持ってはいない俺にも憎むという感情はあるらしい」
「せ、先生はカラッポじゃないスよ!俺にとってのヒーローで、憧れで、越えるべき壁なんスよ!アーシアだって先生に感謝してるし、今のことを聞いたら飛んできますよ?『DORA』」
「……阿呆。持ち上げすぎだ、兵藤。だが、お前には礼を言わねばならんようだ」
必死にうつろをフォローし、調子を述べる眷属の少年はまだまだ青く熟していない。彼も言うように今の台詞をアーシアに聞かれれば、確かにラッシュが飛んできそうだ。自分の周囲を大切に思う優しい少女のことだ、ネガティヴな発言は神が許しても彼女は決して妥協しないダイヤモンドのような意志で貫いてこようとするだろう。照れ隠ししつつ、うつろは一誠へと向き直る。 前髪の紅い部分が月明かりに他の金髪とともに輝き、美貌のよう。
「すまないな、見苦しいところを見せた。お前やアルジェントのような兄弟が欲しいと思う。……風邪引くんじゃねえぞ、ついてこい」
「は、はい!」
遠回しに『ありがとう』と言うのは、うつろなりの感謝の仕方か。すぐに向き直って戻っていった師の後をムードメーカーである生徒は追いかけ、寝室に戻るとやがて夜が明ける。
トワイライトの夢の描写はIFと畏怖です。
黒髪の眷属の女性については、ご想像にお任せ